第9話 「ねぼすけフクロウの時計台」
♪ ねんねこ
♪ おやすみ
こもりうたの森に響く歌声の中で、おもちくんはぐっすり眠っていました。
ふわふわの雲のブランケットはあたたかく、まるでおひさまに包まれているみたいです。
どのくらい眠っていたのでしょう。
突然――。
ゴーン!
大きな音が森じゅうに響きました。
「ひゃあっ!」
おもちくんは飛び起きます。
ホタルくんもびっくりして空中でくるんと回りました。
「な、なに!?」
すると、また。
ゴゴーン……。
今度の音は、なんだか苦しそうです。
月うさぎが耳をぴくりと動かしました。
「まずい」
「え?」
「夜の時計が止まりかけてる」
おもちくんは目をぱちぱちさせます。
「夜の……時計?」
モークじいさんがひげをなでながら言いました。
「夜の世界には“夜の時計台”があるんじゃ」
「時計台?」
「そうじゃ。その時計が動いているから、夜空の星も、月も、夢も、ちゃんと流れるんじゃよ」
ホタルくんが不安そうに光りました。
「止まったら、どうなるの?」
月うさぎは静かに答えます。
「夜が、止まる」
「ええっ!?」
おもちくんはあわてて立ち上がりました。
「そんなの大変じゃん!」
すると遠くの空で、星がぴたりと止まりました。
流れていた雲も、途中で動かなくなっています。
森の歌声まで、少しずつゆっくりになっていました。
♪ ね……ん……ね……
「ほんとだ……!」
月うさぎは森の外を見つめます。
「時計台へ行こう」
みんなは急いで森を飛び出しました。
しばらく走ると、夜空へ向かってのびる大きな塔が見えてきます。
「わあ……!」
おもちくんは思わず立ち止まりました。
時計台は、月に届きそうなくらい高かったのです。
壁には金色の歯車。
窓には星のランプ。
そして真ん中には、大きな時計があります。
でも――。
時計の針は、ぴたりと止まっていました。
カチリとも動きません。
「ほんとに止まってる……」
塔の入口を開けると、中から「ぐごー……ぐごー……」という音が聞こえてきました。
おもちくんは首をかしげます。
「なんの音?」
二階へ上がると、そこには大きなフクロウがいました。
丸い体。
もこもこの羽。
頭には小さな帽子。
しかも、イスに座ったまま寝ています。
「ぐごー……」
月うさぎがため息をつきました。
「やっぱり」
「知ってるの?」
「“ねぼすけフクロウ”さ。夜の時計番なんだけど……よく寝るんだ」
おもちくんはびっくりしました。
「時計番なのに!?」
モークじいさんは苦笑いします。
「昨日も昼寝しとったからのう」
おもちくんはフクロウの肩をゆさゆさ揺らしました。
「起きてー!」
「ぐぅ……あと五分……」
「だめー!」
ホタルくんもぴかぴか光ります。
「時計止まってるよー!」
すると、フクロウはようやく目を開けました。
「……ふぁ?」
のんびり瞬きをしたあと、時計を見るなり飛び上がります。
「ほわあああっ!?」
羽がばさばさ広がりました。
「たいへんだぁー!!」
フクロウは階段をころころ転がるように降りていきます。
おもちくんたちもあとを追いかけました。
時計台の奥には、大きな機械の部屋がありました。
無数の歯車が並び、銀色の振り子がぶら下がっています。
でも、その全部が止まっています。
「どうしようどうしよう!」
フクロウは頭を抱えました。
「“星のゼンマイ”が止まってるー!」
「星のゼンマイ?」
おもちくんが聞くと、フクロウは涙目でうなずきます。
「あれが動かないと、時計も動かないんだよぉ!」
見ると、一番大きな歯車の真ん中に、星形のネジみたいなものがありました。
でも、黒いもやが絡みついています。
「くらやみぐもだ!」
月うさぎが叫びました。
黒いもやは、じわじわ歯車を包み込んでいます。
――くくく。
どこからか、あの笑い声が聞こえました。
「夜を止めれば……光は消える」
おもちくんはぎゅっと拳を握ります。
「そんなの、絶対だめ!」
でも歯車は大きすぎて、びくともしません。
「どうしよう……」
そのときです。
ホタルくんが、ぽわっと光りました。
「ねえ!」
「え?」
「みんなで回せばいいんじゃない?」
おもちくんの目がぱっと輝きます。
「そっか!」
月うさぎもうなずきました。
「やってみよう!」
おもちくん、ホタルくん、月うさぎ、モークじいさん、そしてねぼすけフクロウ。
みんなで歯車に飛びつきます。
「せーの!」
ぐぐぐぐ……!
歯車は重く、なかなか動きません。
くらやみぐもが、黒いもやを広げました。
――無駄だ。
「負けない!」
おもちくんは必死に押します。
そのとき。
ふわっ。
雲のブランケットが光りました。
やさしい光が、みんなを包みます。
「今だ!」
月うさぎが叫びました。
「うおおおーっ!」
ぐるん!
ついに歯車が回ったのです。
すると――。
カチン。
止まっていた時計の針が、ゆっくり動き始めました。
カチ、カチ、カチ。
星たちが再び流れ出します。
風が動き、森の歌も戻りました。
そして、くらやみぐもは苦しそうに揺れます。
「ぐ……っ」
黒いもやは、風に吹かれて少しずつ消えていきました。
時計台には、静かな鐘の音が響きます。
ゴーン……。
ねぼすけフクロウはへなへな座り込みました。
「た、助かったぁ……」
おもちくんもその場にぺたりと座ります。
「はあ……つかれたぁ」
でも、夜空を見上げると、星たちはさっきよりずっときれいに輝いていました。




