第6話 「まいごのホタルくん」
月あかりの丘に降り立ったおもちくんは、冷たい夜風に耳をぴくりと動かしました。
銀色の草が、さらさら揺れています。
丘の真ん中に立つ大きな木の下で、小さな影が丸くなっていました。
「……あの子だ」
月うさぎが静かに言います。
おもちくんはこくりとうなずき、そっと近づきました。
すると――。
ぴか。
小さな緑色の光が、ふわりと揺れました。
「あっ……!」
そこにいたのは、一匹のホタルでした。
丸い目を涙でいっぱいにして、羽をしょんぼりたたんでいます。
おしりの光も、弱々しく点いたり消えたりしていました。
「どうしたの?」
おもちくんがやさしく声をかけると、ホタルはびくっと顔を上げました。
「ひゃっ!」
でも、おもちくんの顔を見ると、少し安心したみたいに羽をゆるめます。
「ぼ、ぼく……おうちがわからなくなっちゃったの……」
「やっぱり!」
あの「たすけて」の声は、このホタルくんだったのです。
月うさぎも木のそばへやって来ました。
「名前は?」
「ホ、ホタルくん……」
「そのままなんだね」
おもちくんが思わず言うと、ホタルくんは恥ずかしそうに光りました。
「みんなにそう呼ばれてるの……」
おもちくんは隣に座ります。
「だいじょうぶ。ぼくたち、一緒におうちを探すよ!」
するとホタルくんの目が、ぱっと明るくなりました。
「ほんと……?」
「もちろん!」
月うさぎも静かにうなずきます。
「でも、夜明けまでに見つけないと」
「どうなるの?」
おもちくんが聞くと、月うさぎは空を見上げました。
まんまるの月が、少しだけ西へ傾いています。
「ホタルくんの光が消えてしまうんだ」
「えっ!?」
ホタルくんは小さく震えました。
「ぼく、暗くなるのこわい……」
おしりの光が、ぴこん、と弱く瞬きます。
おもちくんはあわてて立ち上がりました。
「急ごう!」
三人は月あかりの丘を歩き始めました。
銀色の草が道みたいに左右へ分かれていきます。
風はやさしく、どこからか鈴の音も聞こえてきました。
「ホタルくんのおうちって、どんなところ?」
おもちくんが聞くと、ホタルくんは少し考えます。
「えっとね……水があって……きらきらしてて……」
「池かな?」
「それから、大きな花がいっぱい!」
「お花畑?」
「あとね、夜になると歌が聞こえるの!」
おもちくんは首をかしげました。
「うーん……」
そのとき。
ぴゅうう。
冷たい風が吹き抜けました。
月うさぎの耳がぴくりと動きます。
「気をつけて」
「え?」
「くらやみぐもの気配がする」
おもちくんは思わずあたりを見回しました。
丘の向こうに、黒いもやがちらりと動いた気がします。
でも次の瞬間には消えていました。
ホタルくんは、ぶるっと震えます。
「こ、こわいよぉ……」
「だいじょうぶ!」
おもちくんは胸を張りました。
「ぼくが守るから!」
そう言ったものの、実はおもちくんも少し怖かったのです。
でも、ホタルくんの涙を見たら、逃げたくありませんでした。
しばらく歩くと、遠くに青い光が見えてきました。
「あっ!」
ホタルくんが羽をぱたぱたさせます。
「あそこ!」
三人が近づくと、小さな池がありました。
水面には月が映り、ゆらゆら揺れています。
そのまわりには、大きな白い花がたくさん咲いていました。
そして――。
♪ ららら〜
♪ るるる〜
どこからか、美しい歌声が聞こえてきます。
「すごい……」
おもちくんは目を丸くしました。
花の中から、小さな光が次々浮かび上がります。
それは全部、ホタルたちでした。
夜空の星みたいに、ふわふわ飛んでいます。
「おかあさーん!」
ホタルくんが飛び出しました。
すると、大きなホタルが急いで飛んできます。
「ホタルくん!」
二匹はぎゅっと抱き合いました。
「よかったぁ……!」
「ごめんなさい、おかあさん……」
ホタルくんのおしりが、ぱあっと明るく光ります。
さっきまで弱かった光が、今は星みたいにぴかぴかでした。
おもちくんはほっと息をつきます。
「見つかってよかったぁ」
そのときです。
池の水面が、ぐらりと揺れました。
ぞわっ、と冷たい風が吹きます。
空の上から、黒いもやがゆっくり降りてきたのです。
赤い目が、ぎらりと光りました。
――くくく。
くらやみぐもです。
ホタルたちの光が、一瞬で暗くなりました。
「きゃあっ!」
「みんな逃げて!」
ホタルのおかあさんが叫びます。
でも、くらやみぐもはどんどん大きくなっていきました。
「やっと見つけた……夜の光を」
低い声が響きます。
おもちくんは震える足をぎゅっと踏んばりました。
月うさぎが前へ出ます。
「おもちくん、下がって!」
けれどその瞬間。
ホタルくんが、小さくつぶやきました。
「……ぼく、逃げたくない」
弱々しかった光が、ふわりと強く輝き始めたのです。




