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第5話 「おつきさまバスにのって」

 店じゅうのクッキーが青白く光り始めた瞬間――。

「逃げるにゃ!」

 クロロが大声をあげました。

 月うさぎはすばやくおもちくんの手をつかみます。

「こっち!」

 おもちくんは夢中で走りました。

 星くずクッキーのお店を飛び出し、銀色の石畳を駆け抜けます。

 後ろからは、あの黒い影の笑い声。

 ――くくく。

 冷たい風が追いかけてきて、街のランプがぱちぱち揺れました。

「ま、待ってぇ!」

 おもちくんは息を切らします。

 月うさぎは振り返らずに言いました。

「もう少しでバス停だ!」

「バス停!?」

 そのとき。

 ぷっぷー!

 どこからか、ラッパみたいな音が響きました。

 街角を曲がると、小さな停留所が見えてきます。

 三日月の形をした看板には、「おつきさまバス」と書いてありました。

 そして空から、ゆっくり何かが降りてきたのです。

「うわあ……!」

 おもちくんは思わず立ち止まりました。

 それは、銀色のバスでした。

 まあるい窓。

   星模様のタイヤ。

   屋根にはふわふわの雲が乗っています。

 しかも、タイヤは地面から少し浮いていました。

 ぷかぷかと、本当に空を飛んでいるのです。

 バスの扉が、ぷしゅーっと開きました。

「お急ぎくださーい」

 運転席から顔を出したのは、大きな白ふくろうでした。

 丸い眼鏡をかけ、青い帽子をちょこんとかぶっています。

「夜行便、まもなく出発ですよー」

「乗ろう!」

 月うさぎに引っぱられ、おもちくんはバスへ飛び乗りました。

 すると扉が閉まり、バスはふわっと浮かび上がります。

 その瞬間――。

 どん!

 黒い影が停留所へ飛び込んできました。

 でも、もう遅かったのです。

 おつきさまバスは夜空へ向かって走り出していました。

「はあ……はあ……」

 おもちくんは窓にぺたりと張りつきました。

 街がどんどん小さくなっていきます。

 家の灯りは星粒みたいにきらきら光り、遠くの森は黒い海のようでした。

「すごい……本当に飛んでる!」

 ふくろうの運転手は、のんびり笑いました。

「安全運転が自慢ですからねぇ」

 バスの中には、ほかのお客さんもいました。

 眠そうなこねこ。

   帽子をかぶったたぬき。

   小さなリスの兄弟。

 みんな静かに窓の外を眺めています。

 座席はふかふかで、まるで雲みたいでした。

「ここ座る?」

 月うさぎがとなりをぽんぽん叩きます。

 おもちくんはこくりとうなずきました。

「ねえ、月うさぎさん」

「ん?」

「あの黒い影って、なんなの?」

 月うさぎは少しだけ黙りました。

 窓の外では、流れ星がひゅるりと流れていきます。

「“くらやみぐも”って呼ばれてる」

「くらやみぐも……」

「夜の願いを食べる影だよ」

 おもちくんの耳がぴくりと動きました。

「願いを……食べる?」

「そう。悲しい気持ちや、さみしい心が大好きなんだ」

 おもちくんは星くずクッキーを思い出しました。

 あのあたたかい気持ち。

 願いや夢のかけら。

「じゃあ、クッキーも狙ってたのかな」

「たぶんね」

 月うさぎは小さくうなずきます。

「そして、ぼくらが探している“助けを呼ぶ声”も」

 おもちくんはぎゅっと拳を握りました。

「絶対、助けなきゃ」

 そのときです。

 ふわあっ。

 窓の外が急に明るくなりました。

「わあ!」

 おもちくんは目を丸くします。

 バスの前に、大きな丘が広がっていたのです。

 一面の銀色の草。

 月の光を浴びて、さらさら波みたいに揺れています。

 丘の真ん中には、大きな木が一本立っていました。

 枝にはたくさんのランタンが下がり、星みたいに輝いています。

「あそこが“月あかりの丘”さ」

 月うさぎが静かに言いました。

「助けを呼ぶ声は、あの丘から聞こえてくるんだ」

 おつきさまバスは、ゆっくり丘へ降りていきます。

 すると、風の中にまた聞こえました。

 ――たすけて。

 今度は、前よりずっと近く。

 まるで、すぐそばで泣いているみたいです。

 おもちくんの胸がどきどきしました。

「いる……!」

 バスが止まると、ふくろうの運転手が帽子を持ち上げました。

「お気をつけて。今夜は風が騒がしいですからねぇ」

 扉が開き、銀色の風が吹き込みます。

 月うさぎは先に飛び降りました。

「行こう、おもちくん」

「うん!」

 おもちくんも丘へ飛び出します。

 すると遠く、大きな木の下に、小さな影が見えました。

 それは、ひとりぼっちでうずくまっているようでした。

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