第4話 「星くずクッキーのひみつ」
くつしたトンネルを抜けると、おもちくんたちの前に不思議な街が広がっていました。
「わあ……!」
おもちくんは思わず声をあげます。
石畳の道は月明かりを浴びて銀色に光り、小さな家がぎゅうぎゅう並んでいます。
煙突からは青い煙がふわふわのぼり、窓辺には星の形のランプが揺れていました。
空には大きな月。
でも、いつもの夜空とは少し違います。
星たちがゆっくり流れ、まるで泳いでいるみたいでした。
「ここは……どこ?」
「“よるまち”さ」
月うさぎが答えます。
「夜のあいだだけ現れる、不思議な街だよ」
すると遠くから、楽しそうな音が聞こえてきました。
からん、ころん。
ちりん、ちりん。
まるで鈴の音みたいです。
おもちくんのおなかが、ぐう、と鳴りました。
「……なんだか、いいにおいもする」
甘くて香ばしい香りが、風に乗って流れてきます。
バターみたいな匂いと、ほんの少しミルクの香り。
それに混ざって、どこか夜空みたいな冷たい匂いもしました。
月うさぎはくすっと笑います。
「ちょうどよかった。少し休憩しよう」
二人が角を曲がると、小さなお店が見えてきました。
丸い窓。
三日月の看板。
扉には金色の文字で、こう書かれています。
――「星くずクッキーのお店」
「クッキー屋さんだ!」
おもちくんの目がきらきら輝きました。
お店の中には、たくさんの瓶が並んでいます。
丸いクッキー。
星の形のクッキー。
雲みたいにふわふわした白いクッキー。
どれも、ほんのり光っていました。
「すごーい……!」
カウンターの向こうには、小さな黒ねこが立っています。
頭には大きなコック帽。
首には赤いリボン。
「いらっしゃいませにゃ」
黒ねこは、しっぽをぴんと立てておじぎしました。
「こんばんは、月うさぎさん」
「やあ、クロロ。元気だった?」
「もちろんにゃ」
クロロはおもちくんを見ると、目をまんまるにしました。
「おや? 人間の世界の子にゃ?」
「ぼく、おもちくん!」
「かわいいお客さんにゃ〜」
クロロはにこにこしながら、棚から一枚のクッキーを取り出しました。
「はい、どうぞ。“星くずクッキー”にゃ」
おもちくんはそっと受け取ります。
クッキーは星の形で、表面に小さな光の粒がついていました。
まるで本物の星空みたいです。
「これ、食べていいの?」
「もちろんにゃ」
おもちくんがひとかじりすると――。
さくっ。
やさしい甘さが口いっぱいに広がりました。
「おいしいーっ!」
思わずしっぽがぶんぶん揺れます。
バターみたいにふんわりしていて、あとからミルクの味がしました。
でも、それだけではありません。
食べた瞬間、頭の中に不思議な景色が浮かんだのです。
きらきら光る夜空。
流れ星。
笑い声。
誰かの「ありがとう」という声。
「えっ……?」
おもちくんはびっくりして、クッキーを見つめました。
するとクロロが静かに言いました。
「星くずクッキーには、“思い出”が入ってるにゃ」
「思い出?」
「夜に落ちた、小さな願いや夢のかけらにゃ」
おもちくんは目をぱちぱちさせました。
「夢が……クッキーになるの?」
クロロはうなずきます。
「泣いてる子の願い。うれしかった気持ち。誰かを大好きだと思う心。そういうものが夜空で星くずになるんだにゃ」
月うさぎがそっと付け加えました。
「だから、この街のクッキーは少し特別なんだ」
おもちくんはもう一口食べました。
すると今度は、小さな女の子が浮かびます。
窓辺で空を見上げながら、流れ星にお願いしていました。
――“おばあちゃんが元気になりますように”。
おもちくんの胸が、じんわりあたたかくなります。
「なんだか、泣きそう……」
クロロは優しく笑いました。
「それは、やさしい気持ちをちゃんと受け取ったからにゃ」
そのときです。
からん。
突然、お店のドアベルが鳴りました。
冷たい風が吹き込み、ランプの火がゆらりと揺れます。
おもちくんは振り返りました。
入口に、黒い影が立っていたのです。
ぼんやりしたもやのような姿。
顔は見えません。
でも、赤い目だけがぎらりと光っていました。
お店の空気が、一気に冷たくなります。
クロロの耳がぴんと立ちました。
「……まずいにゃ」
月うさぎはおもちくんをかばうように前へ出ます。
「下がって」
黒い影は、ゆっくり笑いました。
――くくく。
その声を聞いた瞬間、おもちくんは背中がぞわっとしました。
どこかで聞いた気がしたのです。
そして、影が低い声でつぶやきました。
「……見つけたぞ」
次の瞬間。
店じゅうのクッキーが、いっせいに青白く光り始めたのです。




