第14話 「月あかりのちいさなゆうき」
ゴゴゴゴ……!
夜の門が、大きく揺れていました。
黒いもやは空いっぱいに広がり、月の光を飲み込もうとしています。
遠くの空は、少しずつ白くなってきました。
「もう朝が来ちゃう……!」
ホタルくんの声は震えていました。
もし夜が消えてしまったら。
この世界はどうなるのでしょう。
月うさぎは夜の門を見上げます。
「くらやみぐもは、門の光を全部消そうとしてるんだ」
「そんな……!」
おもちくんはぎゅっと拳を握りました。
くらやみぐもは、ぐるぐる渦を巻きながら笑っています。
――夜は終わる。
――希望の光も消える。
その声を聞くだけで、胸がぎゅっと苦しくなりました。
でも、そのときです。
「……あっ!」
ホタルくんが空を指さしました。
夜の門の上。
高い塔の先に、小さな影が見えたのです。
「誰かいる!」
よく見ると、それは小さな鳥でした。
白い羽の小鳥が、黒いもやに捕まっているのです。
「た、助けてぇ……!」
弱々しい声が夜風に流れました。
くらやみぐもは、小鳥を包み込みながら笑います。
――この子の光も、いただこう。
「だめぇ!」
ホタルくんが叫びました。
でも塔は高すぎます。
黒いもやも強く、近づくだけで冷たい風が吹きつけてきました。
ルークは歯をくいしばります。
「私が行く」
しかし月うさぎが首を振りました。
「無理だ。もやが濃すぎる」
ルークの足元には、さっきの戦いの傷が残っています。
モークじいさんも苦しそうに言いました。
「近づけば、光を吸い取られてしまう……」
小鳥の声はどんどん弱くなっていきました。
「こわいよぉ……」
おもちくんの胸がどきんと鳴ります。
怖かった。
本当は逃げたいくらい怖い。
でも――。
あの声を聞いていたら、じっとしていられませんでした。
「ぼく、行く」
「えっ!?」
みんなが振り返ります。
おもちくんは震える足をぎゅっと踏んばりました。
「ぼくが助ける!」
月うさぎが真剣な顔になります。
「危ないよ、おもちくん」
「わかってる!」
声は少し震えていました。
でも、おもちくんは続けます。
「怖い。でも……見てるだけはイヤなんだ!」
その言葉に、ルークの金色の目が静かに揺れました。
そして、ゆっくりうなずきます。
「……行け」
「ルークさん?」
「お前には、小さな勇気がある」
ルークは静かに笑いました。
「それは、闇より強い」
月うさぎもおもちくんの肩に手を置きます。
「信じてるよ」
ホタルくんは、ぴかっと明るく光りました。
「ぼくも応援する!」
おもちくんは大きく息を吸いました。
そして、雲のブランケットをぎゅっと握ります。
「行ってきます!」
次の瞬間。
おもちくんは塔へ向かって走り出しました。
黒い風が吹き荒れます。
くらやみぐもが笑いました。
――ちいさな子ひとりで、何ができる。
「できるもん!」
おもちくんは必死に塔を登ります。
冷たいもやが体にまとわりつき、心が暗くなりそうでした。
でもそのたび、ブランケットがふわりと光ります。
あたたかい光。
ホタルくんの笑顔。
星くずクッキー。
こもりうたの森。
みんなと過ごした夜。
その思い出が、おもちくんを前へ進ませました。
「あと少し……!」
小鳥は黒いもやに包まれ、今にも消えてしまいそうです。
「助けるからね!」
おもちくんは手を伸ばしました。
でも、その瞬間。
びゅおおおっ!!
くらやみぐもが大きく渦を巻きます。
おもちくんの体がぐらりと揺れました。
「きゃっ!」
落ちそうになります。
下では、みんなが叫んでいました。
「ハムくーん!!」
怖い。
本当に怖い。
でも。
小鳥の涙が見えました。
「……だいじょうぶ」
おもちくんは、自分に言い聞かせます。
「ぼく、あきらめない!」
ぱあっ!
その瞬間、雲のブランケットがまぶしく光ったのです。
やさしい月の光が、くらやみぐもを包み込みました。
「なにっ!?」
黒いもやが苦しそうに揺れます。
おもちくんは、そのすきに小鳥を抱きしめました。
「つかまって!」
「う、うんっ!」
そして――。
ふわっ。
ブランケットが、大きな雲みたいに広がったのです。
「わああっ!」
おもちくんと小鳥は、そのまま月の光の中をゆっくり降りていきました。
地面へ着くと、みんなが駆け寄ってきます。
「おもちくん!」
「すごいよー!」
ホタルくんはぴかぴか光りながら飛び回りました。
小鳥は涙ぐみながら言います。
「ありがとう……」
おもちくんは照れくさそうに笑いました。
「えへへ……」
そのときです。
夜の門が、ぱあっと光りました。
まるでおもちくんの勇気に応えるみたいに。
そして空の黒いもやが、少しずつ消え始めたのです。




