第13話 「おやすみ前の大ピンチ!」
銀色の塔――“夜の門”は、黒いもやに包まれていました。
くらやみぐもの笑い声が、湖じゅうに響いています。
――くくく……。
「急がなきゃ!」
おもちくんはボートのふちをぎゅっと握りました。
ルークは湖の上を走るように飛び、ボートを島へ導きます。
月うさぎも真剣な顔でした。
「夜明けまで時間がない」
おもちくんは空を見上げます。
月が少しずつ薄くなり、遠くの空がほんのり青くなっていました。
「朝が来ちゃう……」
ホタルくんの光も弱く揺れています。
「急ごう!」
ボートが島へ着くと、みんなは一斉に飛び降りました。
夜の門は思ったよりずっと大きく、近くで見ると空まで届きそうです。
銀色だった塔は、黒いもやに飲み込まれ、ところどころ赤く光っていました。
そして門の前には――。
くらやみぐもが待っていました。
今までより、ずっと大きな姿です。
黒い霧がぐるぐる渦を巻き、赤い目が何十個も浮かんでいます。
「うわぁ……」
おもちくんは思わず後ずさりました。
くらやみぐもは低く笑います。
――夜が終われば、お前たちは消える。
「そんなことさせない!」
おもちくんが叫ぶと、くらやみぐもの目がぎらりと光りました。
――ならば、闇に閉じ込めてやる。
その瞬間。
びゅおおおっ!!
黒い風が吹き荒れました。
「きゃああっ!」
ホタルくんが飛ばされそうになります。
おもちくんも必死に踏んばりました。
でも次の瞬間――。
ぐにゃり。
景色がゆがんだのです。
「えっ!?」
気づくと、おもちくんはひとりぼっちでした。
月うさぎも、ルークも、ホタルくんもいません。
「みんな!?」
返事はありません。
周りには黒い霧だけが広がっています。
「うそ……」
おもちくんは走り出しました。
「月うさぎさーん!」
でも、どこまで行っても同じ景色です。
黒い霧。
冷たい風。
静かな夜。
そのとき。
カチ……カチ……。
どこからか時計の音が聞こえてきました。
おもちくんははっとします。
「夜明け……!」
空を見ると、遠くの端がだんだん白くなっていました。
もし朝になったら。
もし家へ帰れなかったら。
おもちくんの胸がぎゅっと苦しくなります。
「どうしよう……」
涙がぽろりと落ちました。
そのときです。
ふわり。
肩に、あたたかいものが触れました。
「あ……」
雲のブランケットです。
モークじいさんにもらった、ふわふわの毛布。
ブランケットは、ほんのり光っていました。
まるでおもちくんを励ますみたいに。
「……だいじょうぶ」
おもちくんは小さくつぶやきます。
「ぼく、帰りたい」
するとブランケットの光が、少し強くなりました。
ふわっ。
目の前の霧が、ゆっくり晴れていきます。
その向こうに、小さな光が見えました。
「……!」
おもちくんは走り出します。
光の先には、古い道しるべが立っていました。
そこには銀色の文字で、こう書かれています。
――“帰り道はこちら”。
「やったぁ!」
おもちくんはうれしくなって駆け出しました。
でもその瞬間。
ずるっ。
「うわっ!」
足元が崩れたのです。
おもちくんは真っ暗な穴へ落ちていきました。
「きゃあああーっ!!」
ぐるぐる回る闇。
冷たい風。
どこまでも落ちていく感覚。
「た、助けてぇ!」
すると――。
ガシッ!
誰かがおもちくんの手をつかみました。
「つかまれ!」
「ルークさん!」
大きな銀色のオオカミが、崖のふちに立っていました。
月うさぎとホタルくんもいます。
「おもちくん!」
「よかったぁ!」
みんなで力いっぱい引っぱり、おもちくんはなんとか助かりました。
「はあ……はあ……」
地面に座り込むおもちくん。
ルークは少し怒った顔をしています。
「勝手に走るな。心配したぞ」
「ご、ごめんなさい……」
でも月うさぎは、やさしく笑いました。
「ちゃんと帰り道を見つけたんだね」
おもちくんはブランケットをぎゅっと抱きしめます。
「この毛布が助けてくれたんだ」
そのとき。
ゴゴゴゴ……!
夜の門が、大きく揺れ始めました。
黒いもやが、どんどん広がっています。
くらやみぐもの声が、夜空いっぱいに響きました。
――もうすぐ夜明けだ。
――お前たちの夜は終わる。
空は少しずつ明るくなっています。
おもちくんたちは、夜の門を見上げました。
最後の戦いが、始まろうとしていたのです。




