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第11話 「月の湖のゆらゆらボート」

 流れ星が落ちた場所に現れた、小さな光の扉。

 それは月の光でできているみたいに、ゆらゆら揺れていました。

「きれい……」

 おもちくんはそっと近づきます。

 扉の向こうからは、ひんやりした風が吹いてきました。

 どこか、水のにおいもします。

 月うさぎは静かに言いました。

「この先は、“月の湖”だよ」

「湖?」

「夜の心を映す場所さ」

 ホタルくんが小さく震えます。

「なんだか、ちょっとこわい……」

 モークじいさんも、ひげをなでながらうなずきました。

「月の湖は、不思議な場所じゃからのう」

 でも、おもちくんは扉の向こうが気になってしかたありません。

「行ってみたい!」

 すると月うさぎが、にっこり笑いました。

「じゃあ、一緒に行こう」

 みんなで光の扉をくぐると――。

 ふわっ。

 体が軽くなりました。

 次の瞬間。

 おもちくんたちは、静かな湖のほとりに立っていたのです。

「わああ……!」

 湖は、鏡みたいに月を映していました。

 水面はぴたりと静かで、空との境目がわかりません。

 まるで月の上に立っているみたいです。

 遠くには白い霧が漂い、小さな青い光がふわふわ浮かんでいました。

「ここが……月の湖」

 おもちくんがつぶやいたそのとき。

 ちゃぷん。

 水の音が聞こえました。

 見ると、湖の岸に一そうのボートが浮かんでいます。

 三日月の形をした、小さな白いボートです。

 座席には、ふわふわのクッションまでついていました。

「かわいい!」

 ホタルくんが嬉しそうに光ります。

 月うさぎはボートに飛び乗りました。

「湖の向こうへ行くには、これに乗るしかないんだ」

 おもちくんたちも続いて乗り込みます。

 するとボートは、ひとりでにゆらりと動き始めました。

 ちゃぷ、ちゃぷ。

 水を切る音だけが、静かな夜に響きます。

 風はやさしく、湖はどこまでも広がっていました。

「なんだか夢みたい……」

 おもちくんは水面をのぞき込みます。

 するとそこには、自分の顔が映っていました。

 でも、少し変です。

 水の中のおもちくんは、なぜか悲しそうな顔をしていたのです。

「……あれ?」

 その瞬間。

 ゆらり。

 水面が揺れました。

 映っていた顔が、ゆっくり変わっていきます。

 黒い影。

 赤い目。

 おもちくんは息をのみました。

「くらやみぐも!?」

 でも違いました。

 影はくらやみぐもより小さく、ぼんやり揺れています。

 そして、低い声で言いました。

「おまえは、本当にやさしいのか?」

「えっ……?」

 ホタルくんがびくっと震えます。

 月うさぎは静かに前を見たまま言いました。

「始まったね」

「な、なにが?」

「月の湖の“試し”さ」

 影は水面からゆらゆら浮かび上がりました。

 黒い霧みたいな体。

 でも、その目はどこか寂しそうです。

「おまえは、みんなを助けたいと言った」

 影の声が湖に響きます。

「でも、本当は自分がほめられたいだけじゃないのか?」

 おもちくんの胸が、どきんとしました。

「そ、そんなこと……」

 影はさらに近づきます。

「怖いのに、強いふりをしているだけじゃないのか?」

「……!」

 おもちくんは言葉を失いました。

 本当は、ずっと怖かった。

 くらやみぐもを見るたび、逃げたくなっていました。

 でも――。

「ぼく……」

 おもちくんはぎゅっと拳を握ります。

「たしかに怖いよ」

 影がゆらりと揺れました。

「でも、泣いてる子を放っておくほうが、もっとイヤなんだ」

 湖が、ぴたりと静かになります。

 影はしばらく黙っていました。

 やがて、ぽつりとつぶやきます。

「……そうか」

 すると、不思議なことが起きました。

 黒かった影が、少しずつ白く光り始めたのです。

「えっ!?」

 影は、やさしく笑ったように見えました。

「おまえの心は、まだ曇っていない」

 その瞬間。

 ぱあっ!

 湖じゅうに月の光が広がりました。

 止まっていた風が吹き、ボートがすうっと前へ進みます。

 遠くの霧が晴れ、その向こうに大きな島が見えました。

 島の真ん中には、銀色に光る塔があります。

 月うさぎが静かに言いました。

「あれが、“夜の門”だ」

「夜の門?」

「くらやみぐもが狙っている場所さ」

 おもちくんは塔を見つめました。

 なぜか胸がざわざわします。

 そのとき。

 湖の底から、低い声が響きました。

 ――見つけた。

 おもちくんたちは、はっと振り返ります。

 水面の下。

 真っ黒な巨大な影が、ゆっくり動いていたのです。

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