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たくさんのサヨナラと愛に笑おう  作者: 横ヤン


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閑話 姉と妹

私は友希恵より六歳年上だ。


妹が生まれた日のことは、正直あまり覚えていない。


でも、初めて母に連れられて病院へ行き、小さな赤ちゃんを見た時のことだけは覚えている。


「美咲、お姉ちゃんになったんだよ」


そう言われた。


私はよく分からないまま頷いた。


だけど。


その日から私には妹ができた。


友希恵は本当に手のかかる子だった。


よく泣いた。


よく転んだ。


よく迷子になった。


買い物へ行けば勝手にいなくなる。


公園へ行けば泥だらけになる。


母が困り果てている横で、私はいつも探し回っていた。


「お姉ちゃーん!」


泣きながら走ってくる友希恵を何度迎えに行ったか分からない。


小学校へ入っても変わらなかった。


ランドセルを忘れる。


宿題を忘れる。


体操着を忘れる。


本当に抜けていた。


そのたびに母から電話が来る。


「美咲、届けてあげて」


私は呆れながら学校へ向かった。


でも。


友希恵はいつも満面の笑みだった。


「ありがとう!」


その一言で全部許してしまう。


ずるい妹だった。


中学生になると少しだけ大人になった。


でも本質は変わらなかった。


友達が困っていれば放っておけない。


部活で後輩が泣いていれば真っ先に駆けつける。


自分のことより他人を優先する。


私は何度も言った。


「もっと自分を大事にしなよ」


でも友希恵は笑うだけだった。


「大丈夫だよ」


その言葉が口癖だった。


高校へ進学して。


太一君と付き合い始めた。


あの日も覚えている。


恥ずかしそうに報告してきた。


「実はさ・・・彼氏できた」


私は思わず吹き出した。


嬉しそうだった。


本当に幸せそうだった。


社会人になっても変わらない。


忙しく働いて。


友達と遊んで。


太一君と出掛けて。


毎日を楽しそうに生きていた。


だから。


まさか。


癌だなんて思わなかった。


あの日。


母から電話が来た。


病院から連絡があった。


精密検査の結果を聞きに来てほしい。


ただそれだけだった。


でも。


嫌な予感がした。


診察室で聞いた言葉を今でも忘れられない。


膵臓癌。


肝転移。


完治は難しい。


頭が真っ白になった。


隣で母が泣いていた。


私は泣けなかった。


泣いたら駄目だと思った。


母を支えなければいけない。


友希恵を支えなければいけない。


そう思った。


でも。


本当は怖かった。


妹を失うかもしれない。


そんな現実を受け入れられなかった。


家へ帰る車の中。


母はずっと目を閉じて帰った時に妹に伝える言葉を探していた。


私は必死に平静を装っていた。


けれど信号待ちでふと窓に映った自分の顔を見た時。


初めて気付いた。


私は泣いていた。


友希恵に病気を伝えた日も忘れられない。


友希恵は全部察していた。


私たちが帰ってきた瞬間。


表情を見ただけで理解していた。


そして。


いつも通りの表情や言葉のトーンで


「そっか」と納得しているようだった。


それからの日々。


友希恵は病気と闘った。


痛みに耐えた。


抗がん剤に耐えた。


何度も吐いた。


何度も苦しんだ。


それでも。


最後まで友希恵だった。


母を心配していた。


私を心配していた。


太一君を心配していた。


どうしてそんなことができるんだろうと思った。


自分が一番辛いはずなのに。


旅行の時もそうだった。


車いすに座りながら海を見ていた。


その横顔は痩せていた。


弱っていた。


でも。


誰よりも幸せそうだった。


同窓会に行く前に友希恵は私と母に言った。


「お願いがあるの」


その表情を今でも覚えている。


穏やかな顔だった。


「お葬式じゃなくて、お別れ会にしてほしい」


私はやると約束した。


母と一緒に。


友希恵は笑った。


「太一と母さんとお姉ちゃんだけで静か送ってほしいんだ」


その言葉に何も言えなくなった。


だけど旅行を終えて決意が変わり


「友達と会社の同僚も呼んでほしい なんだか一緒にいたくなった」


と言って急いで太一君と杏子ちゃんに頼んでもらった。


そして。


その願いは叶えられた。


お別れ会の日。


会場にはたくさんの人が来てくれた。


高校の同級生。


会社の人たち。


友達。


みんな。


友希恵の話をしていた。


泣きながら。


笑いながら。


思い出を語っていた。


私はその光景を見て思った。


妹は幸せだったんだな、と。


病気になったことは不幸だったかもしれない。


早すぎる別れも悔しい。


もっと生きてほしかった。


もっと一緒にいたかった。


それでも。


人生そのものは不幸なんかじゃなかった。


友希恵は愛されていた。


本当にたくさんの人に。


会の終わり。


私は写真の前に立った。


高校時代の笑顔。


旅行の時の笑顔。


どちらも同じ顔だった。


私は小さく笑った。


「お疲れ様」


涙が溢れる。


止まらない。


「すごいね」


誰よりも頑張った。


誰よりも苦しかった。


それでも最後まで笑った。


そんな妹を私は誇りに思う。


友希恵。


私はこれからも生きていく。


母を支える。


太一君とも繋がっていく。


あなたが残した人たちと。


あなたが大切にした人たちと。


ちゃんと前を向いて歩いていく。


きっと時々泣く。


思い出して苦しくなる日もある。


でも大丈夫。


あなたが教えてくれたから。


人生は長さだけじゃないって。


人との繋がりなんだって。


だから。


今だけ言うね。


何度も言えなかった言葉を。


妹へ。


世界でたった一人の妹へ。


ありがとう。


大好きだったよ。


そして。


また会う日まで。


サヨナラ、友希恵。


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