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たくさんのサヨナラと愛に笑おう  作者: 横ヤン


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20/23

お別れ会

友希恵が旅立ったのは、穏やかな春の朝だった。


窓の外では鳥が鳴いていた。


カーテンの隙間から差し込む朝日が病室を柔らかく照らしていた。


最期の瞬間。


母と姉、そして太一がそばにいた。


友希恵は静かに目を閉じたまま、小さく息を吐いた。


苦しそうな様子はなかった。


眠るようだった。


本当に。


ただ眠ったように見えた。


しばらく誰も動かなかった。


心電図の音が変わる。


看護師が静かに医師を呼びに行く。


母は娘の手を握ったままだった。


姉は唇を噛みしめていた。


太一は俯いていた。


誰も声を出せなかった。


長い時間が流れた気がした。


けれど実際には数分だったのかもしれない。


医師が静かに頭を下げた。


「ご臨終です」


その言葉で。


止まっていた時間が動き出した。


母が泣いた。


姉も泣いた。


太一も泣いた。


友希恵が亡くなって初めて。


三人は声を上げて泣いた。


数日後。


友希恵の希望通り、お葬式ではなくお別れ会が開かれた。


会場は市内の小さなホールだった。


祭壇はない。


焼香台もない。


僧侶も呼ばなかった。


代わりにたくさんの写真が並べられていた。


幼い頃の写真。


ランドセルを背負った写真。


高校の文化祭の写真。


同窓会の写真。


会社の仲間との写真。


旅行先で撮った写真。


そして最後の旅行の写真。


どの写真も笑っていた。


会場に入った人たちは自然と足を止める。


「ああ、友希恵らしいな」


そんな声が聞こえてくる。


同級生たちが集まる。


杏子もいた。


高校時代の仲間たちもいた。


会社の同僚たちも来てくれた。


さゆりは写真を見るなり泣き出した。


「ばかだなぁ……」


そう言いながら笑っている。


泣きながら笑う姿が妙にさゆりらしかった。


母は会場の様子を見渡した。


これだけ多くの人が来てくれる。


娘は本当にたくさんの人に愛されていたのだと思った。


開会の挨拶の後。


友希恵が生前残していた動画が流された。


画面の中に友希恵が映る。


少し痩せている。


けれど笑顔は変わらない。


『みんな来てくれてありがとう。』


会場が静まり返る。


『これを見ているということは、たぶん私はそっちにいません。』


小さな笑いが起きる。


友希恵らしい。


『泣いてる人いる?』


『いたら後で怒るからね。』


今度は会場全体から笑い声が漏れた。


『嘘です。』


『泣いてもいいです。』


『でも最後は笑って帰ってください。』


友希恵は少しだけ間を置いた。


『私は幸せでした。』


その言葉に空気が変わる。


『病気は辛かったです。』


『痛かったし、怖かったし、悔しかった。』


『もっと生きたかったです。』


誰かが鼻をすする音が聞こえる。


『でもね。』


『みんなのおかげで最後まで笑えました。』


『本当にありがとう。』


動画はそこで終わった。


会場は静まり返っていた。


誰も言葉を出せなかった。


その後。


太一が前に立った。


手には何も持っていない。


原稿もない。


ただ写真を見つめていた。


「何を話せばいいのか分かりません。」


少し笑いが起きる。


「たぶん友希恵なら『そのまま話せ』って言うので、そのまま話します。」


太一は深呼吸した。


「友希恵とは高校一年の時に出会いました。」


会場の同級生たちが頷く。


「気付けば二十年近く一緒にいました。」


「喧嘩もしたし。」


「別れそうになったこともありました。」


「でも最後まで一緒にいられました。」


声が震える。


太一は少し俯いた。


それでも続ける。


「病気が分かった時。」


「正直、なんで友希恵なんだと思いました。」


「代われるなら代わりたいと思いました。」


会場が静まり返る。


「でも本人は。」


太一は少し笑った。


「本人は最後まで友希恵でした。」


あちこちから笑い声が漏れる。


「みんなの心配ばっかりして。」


「自分のことは後回しで。」


「最後まで笑ってました。」


太一は写真を見た。


高校時代の笑顔。


旅行の時の笑顔。


どちらも同じだった。


「友希恵。」


小さく呼びかける。


「約束通り、お別れ会にしたぞ。」


涙が頬を伝う。


「みんな来てくれたぞ。」


誰かが泣いている。


母だった。


姉だった。


杏子だった。


さゆりだった。


「だから安心しろ。」


太一は涙を拭った。


そして最後に言った。


「ありがとう。」


「俺と出会ってくれて。」


会場中が涙に包まれた。


それでも不思議と暗くはなかった。


友希恵が望んだ通りだった。


たくさん泣いた。


たくさん笑った。


会が終わりに近付く頃。


参加者たちは写真の前に花を置いていく。


思い出を語る。


笑い声が聞こえる。


泣き声も聞こえる。


そのどちらもが友希恵の人生そのものだった。


会場の窓から春の風が吹き込んだ。


写真が小さく揺れる。


その笑顔はどこか満足そうに見えた。


まるで。


「みんなありがとう。」


そう言っているようだった。


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