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たくさんのサヨナラと愛に笑おう  作者: 横ヤン


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15/23

体調悪化と、つながる時間

同窓会から帰った翌日。


楽しかった余韻がまだ残っていた。


スマホにはたくさんの写真が届いていた。


笑っている自分。


みんなに囲まれている自分。


久しぶりに見る高校時代の友人たち。


何度見返しても飽きなかった。


だけど。


身体は正直だった。


朝起きた瞬間から疲れていた。


昨日は楽しかった。


本当に楽しかった。


その代償のように身体が悲鳴を上げていた。


ベッドから起き上がるだけで息が切れる。


背中の痛みも強くなっていた。


太一が心配そうな顔をする。


「大丈夫か?」


「大丈夫大丈夫」


いつものように笑う。


でも。


太一にはもう通用しなかった。


長い付き合いだった。


私が本当に大丈夫な時と、強がっている時の違いくらい分かっている。


「無理するなよ」


「してないって」


そう言いながら笑う。


その笑顔さえ少し疲れていた。


数日後。


杏子から連絡が来た。


『友希恵さ』


『週一でみんなでビデオ通話しない?』


『顔見ながら話せたら楽しいじゃん』


それは杏子らしい提案だった。


重い空気が嫌いで。


誰かが落ち込みそうになると無理やり笑わせる。


昔からそうだった。


グループLINEが作られた。


同窓会に来ていたメンバーが次々と参加する。


最初のビデオ通話の日。


スマホの画面には懐かしい顔が並んだ。


「おー!」


「久しぶり!」


「毎週会ってる気分だな」


みんな好き勝手なことを言っている。


それが面白かった。


一時間。


二時間。


気付けば三時間近く話していた。


病気の話なんてほとんど出なかった。


仕事の愚痴。


子どもの話。


昔好きだった先生の話。


くだらない話ばかりだった。


でもそれが良かった。


私は病人じゃなく。


友希恵としてそこにいられた。


それから毎週。


ビデオ通話は続いた。


だけど。


私の身体は少しずつ変わっていった。


最初に変わったのは声だった。


長く話すと息が続かない。


言葉の途中で咳き込む。


以前なら笑いながら話せた内容も、途中で休まなければならなくなった。


「友希恵、休めよ」


「うるさい」


そう返すだけで息が上がる。


みんな気付いていた。


でも誰も深く触れなかった。


気付かないふりをしてくれていた。


それがありがたかった。


次に体重が落ち始めた。


鏡を見るたびに自分じゃないみたいだった。


頬がこける。


首が細くなる。


手首が骨ばってくる。


母は食事を工夫してくれた。


姉は栄養補助食品を買ってきてくれた。


太一は食べられそうな物を探してきてくれた。


でも。


身体は思うように応えてくれない。


ある日のビデオ通話。


私は途中からベッドに横になっていた。


座っているのも辛かった。


スマホだけを横に置く。


みんなの顔が映る。


「お前さ」


杏子が突然言った。


「なに?」


「旅行行こうぜ」


一瞬。


画面の向こうが静かになった。


「旅行?」


「そう」


杏子は笑っていた。


「みんなで行こう」


「同窓会第二弾」


誰かが言う。


「いいな」


「行きたいな」


「温泉とか?」


「海でもいいな」


「だったら友希恵の会社の同僚の子も誘ったらどうだ?」


「いいね 私達の出会いにもなるし」


「そっちが目当てか」


「太一、友希恵の会社の人達にも聞いておいてくれよ」


「えっ…わかったよ」


みんな好き勝手に話し始める。


私は笑いながら聞いていた。


でも。


心の奥がざわついた。


行きたい。


本当はすごく行きたい。


だけど。


身体が持つだろうか。


旅行先で倒れたら。


迷惑をかけたら。


そんな考えが頭をよぎる。


その夜。


私は眠れなかった。


天井を見ながら考える。


行きたい。


でも怖い。


行きたい。


でも無理かもしれない。


何度も繰り返した。


すると隣で太一が言った。


「行きたいんだろ?」


私は黙った。


「行きたいなら行こう」


「でも・・・」


「どうせ後悔するぞ」


太一は笑った。


「友希恵は昔からそうだった」


「やらなかった後悔の方が嫌なタイプだろ」


その言葉に思わず笑った。


確かにそうだった。


翌週。


外来受診の日。


私は主治医に相談した。


診察室。


モニターに映る検査結果。


以前より数値は悪くなっていた。


主治医は少し考えてから言った。


「正直に言います」


私は頷く。


「病状は進行しています」


「旅行中に体調が急変する可能性もあります」


予想していた言葉だった。


でも。


その先の言葉は予想外だった。


「ただし」


主治医が続ける。


「絶対に行ってはいけないとは言いません」


私は顔を上げた。


「本当に?」


「ええ」


主治医は静かに頷いた。


「今の友希恵さんにとって大切なのは治療だけではありません」


「人生をどう過ごすかです」


私は言葉を失った。


主治医は続ける。


「条件があります」


「ご家族と同行すること」


「太一さんも一緒に行くこと」


「車いす移動を基本にすること」


「無理をしないこと」


「そして万が一の時は必ず現地の病院を受診すること」


そう言って紹介状を書き始めた。


「何かあった時のための情報提供書です」


「旅行先で受診する可能性も考えて準備しておきます」


紙に文字が書かれていく。


その姿を見ながら。


私は旅行が現実になることを実感した。


診察室を出た後。


母は何とも言えない表情で思考にふけっていた。


嬉しいのか。


不安なのか。


自分でも分からないようだった。


姉は紹介状の封筒を握りしめていた。


「絶対無理しないからね」


何度も念を押してくる。


太一は少しだけ笑った。


「命がけの旅行だな」


私は笑った。


「そうだね」


命がけだった。


本当に。


でも。


それでも行きたかった。


残された時間が長くないことは分かっていた。


だからこそ。


みんなと笑いたかった。


みんなと同じ景色を見たかった。


みんなと同じ時間を過ごしたかった。


家へ帰る車の窓から空を見る。


青空だった。


私はその空を見上げながら思う。


もしかしたら。


これが人生最後の旅行になるかもしれない。


それでもいい。


最後だからこそ。


最高の思い出にしたい。


そう強く思った。

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