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たくさんのサヨナラと愛に笑おう  作者: 横ヤン


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12/23

終わりかた

 夜だった。

 リビングの明かりだけが、やわらかく部屋を照らしている。

 テレビはついているのに、誰も見ていない。

 音だけが、空間に流れている。

 「ちょっと、いい?」

 ソファに座ったまま、二人に声をかける。

 母と姉が、同時にこちらを見る。

 その視線に、少しだけ胸が締め付けられる。

 でも——

 目を逸らさない。

 「話があるんだ」

 自分でもわかるくらい、静かな声だった。

 その言葉を言った瞬間、二人の顔が強張ってみえた。

 「どうしたの?何かあったの?」

 母が言った。

 一度、ゆっくり息を吸う。

 そして、吐く。

 「あのさ」

 少しだけ笑う。

 「もしもの話なんだけど」

 その言い方に、母の表情が歪む。

 でも、続ける。

 「お葬式、しなくていいかなって思ってて」

 一瞬、時間が止まった。

 「お葬式をしないって……」 

 母は、驚いた表情でこちらを見た。

 「葬式をしない?何言ってるの?」

 母の声が強くなる。

 その反応は、想像していた。

 だから、落ち着いて言う。

 「その代わりにさ」

 少しだけ、言葉を選ぶ。

 「お別れ会みたいなのにしてほしい」

 姉は、キョトンとした顔で言う。

 「お別れ会?」

 「大きいのじゃなくていいから」

 「ほら、文化センターの1室でさ」

 「ほんとに、少人数で」

  母と姉の顔を見る。

 そして——

 「太一と」

 その名前を出した瞬間、胸が少しだけ痛む。

 「お母さんとお姉ちゃんに」

 ゆっくりと言う。

 「それだけでいい」

 母は、何を言っているのかわからないといった顔で

 「そんなの、認められるわけがない。もっとたくさんの人に来てもらって。

  ちゃんと見送ってもらって。それが普通で——」

  でも、“普通”なんて、もうこの子には関係ないのかもしれない。

 「なんで……」

 母の声が震える。

 私は少しだけ、笑う。

 「だってさ」

 視線を落として、指先を見つめる。

 「静かに終わりたいんだよね」

 その言葉は、驚くほどすっと出てきた。

 「騒がしいの、似合わないでしょ」

 軽く冗談めかす。

 でも、誰も笑わない。

 姉は真剣な顔でこちらを見ている。

 この子は、本気だ。

 ちゃんと考えて、選んでいる。

 それが、わかる。

 私は、続けて話す。

 「それにさ」

 少しだけ顔を上げる。

 「 多分さ 私これからガリガリに 痩せていくと思うんだ 皆に自分の弱った姿を人に見せたくないんだ ごめんね」

 その言葉に、空気が揺れる。

 母の目が潤んでいるのがわかる。

 母はもう、堪えられなかった。

 堪えていたものが、あふれる。

 「そんなこと……」

 言葉にならない。

 涙が、止まらない。

 そんな母を見てつらい。

 「泣くのはさ」

 少しだけ優しく言う。

 「そのときにしてよ」

 その言葉に、母の目から余計に涙が出る。

 この子は、最後までこうなんだ。

 こっちのことばかり考えて。

 姉がゆっくりと口を開く。

 「……わかった」

 母が顔を上げる。

 「やろう」

 はっきりと言う。

 「そのお別れ会」

 少しだけ、驚く。

 もっと反対されると思っていた。

 でも、すぐに笑う。

 「ありがと」

 その一言で、全部が伝わった気がした。

 母は、しばらく黙っていた。

 でも——

 「……ちゃんとやるからね」

 涙声で言う。

 「あなたの望む通りに」

 私は、その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 「うん」

 小さくうなずく。

 時計の針が、静かに進んでいく。

 いつもと同じ夜。

 でも——

 確実に、私の終わりかたが決まった夜だった。

 ——ちゃんと、終われそうだ。

 そう思えた。

頑張って書きます。

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