表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんのサヨナラと愛に笑おう  作者: 横ヤン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/23

サヨナラ 2

 会社での別れを終え、感傷に浸るなか少し考える。

 「今度さ、皆でで集まらない?」

 そう言ったとき、母は少しだけ驚いた顔をした。

 「急にどうしたの?」

 「たまにはいいじゃん」

 できるだけ軽く言う。

 理由なんて、言えるわけがない。

 でも、これが“親族と会う最後の機会になるかもしれない”なんて、言えなかった。

 数日後。

 母の実家には、親戚たちが集まっていた。

 玄関を開けた瞬間、懐かしい匂いがする。

 煮物の匂い。

 味噌の匂い。

 「いらっしゃい!」

 叔母の明るい声。

 「久しぶりじゃない!」

 次々に声をかけられる。

 「ほんと久しぶり」

 笑って答える。

 それだけで、胸の奥が少しだけ温かくなる。

 居間には、すでに料理が並んでいた。

 テーブルいっぱいに広がる皿。

 子どもの頃から変わらない光景。

 「ほら座って座って」

 促されるままに座る。

 誰かがビールを注いで、誰かが笑って。

 会話が自然に始まる。

 「仕事どうなの?」

 「ちゃんと食べてるの?」

 いつもの質問。

 いつものやり取り。

 でも——

 今日は、ひとつひとつがやけに大事に感じる。

 あの子が、よく笑っている。

 いつも以上に。

 それが、少しだけ怖い。

 でも、何も言わない。

 この時間を壊したくなかった。

 「そういえばさ」

 ふと、口を開く。

 「昔、ここでよく怒られてたよね、私」

 笑いながら言うと、

 「あーあったあった!」

 叔父が大きく笑った。

 「勝手に外行って迷子になったやつだろ」

 「そうそれ!」

 「あの頃のお前は本当にヤンチャで、大人の言うことなんて聞きやしなかったもんな」

 「そうだった?好奇心に勝てなかっただけだよ」

 みんなが笑う。

 その中で、自分も笑う。

 ——覚えてるんだ。

 こんな小さなことまで。

 周りの空気が暖かい大切な時間……でも、言わなきゃいけないんだ……

 食事が進んで、少し落ち着いた頃。

 ふと、言葉の途切れる静かな時間ができた。

 その隙間に、言葉がこぼれる。

 「ねえ」

 みんなの視線が、こちらに集まる。

 少しだけ、心臓が跳ねる。

 でも—— 逃げない。

 「ちゃんと、ありがとうって言っとこうと思って」

 その言葉に、場の空気が変わる。

 「今までさ、いろいろお世話になったし」

 笑いながら言う。

 でも、声が少しだけ揺れる。

 「ほんとに、ありがとう」

 一瞬、静寂。

 叔母は、すかさず言葉を投げ掛ける。

 「何よ急に!何かあったの?」

 「いや、何でもないよ……何となく言いたくなっただけだよ」

 「今生の別れでもあるまいし、いきなり感謝なんてびっくりするじゃない」

 「ごめん……まあ、感謝なんだから良いじゃん」

 少し誤魔化された感じがしたが思わず

 「いいから食べなさい」

 少し照れ隠しで誤魔化したようだった。

 私は、その言葉に、少しだけ救われる。

 ——これでいい。

 全部言わなくていい。

 ただ、この時間をちゃんと持てれば。

 帰り際。

 玄関で靴を履く。

 「また来なさいよ」

 そう言われて、少しだけ間があく。

 でも、すぐに笑う。

 「うん、またね」

 その“またね”に、少しだけ力を込めた。

 外に出ると、空気が少し冷たかった。

 振り返ると、実家の灯りがあたたかく光っている。

 「……よかった」

 小さく呟く。

 皆に会えた。笑って伝えられた。

 それだけで良かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ