【お菓子の家】
2018.12.04 投稿
2020.04.11 第96部分に変更
◇メトポーロン王国◇
幸せって、甘いお菓子を食べる事だよ。
幸せってどんな事なのかと聞かれたら、私はそう答えるだろう。
私は苗木果子。
ライラック島の西にあるメトポーロン王国にダンジョンを構える新米ダンジョンマスターだ。
初日、取り敢えず間に合わせのダンジョンを造ろうと『ダンジョンセット』リストを流し見していると、『お菓子の家セット』と言う文字が目に留まった。
お菓子の家か~。
前世で子供の頃、憧れていた気がするな~。
なので、それを選択してダンジョンを造った。
ジンジャーブレッドの壁・レープクーヘンの屋根・チョコレートの扉・キャンディーの窓。
美味しそう。
……今気付いたけれど、これって、虫とかが寄って来るよね?
嫌過ぎる!
って、これ、ガラスか何かに閉じ込めてある?!
なんだ~。食べられないんだ~。がっかり。
虫が寄って来ないのは良いけれど。
誰か来る!
私は視界の端に他人の姿を認め、慌ててダンジョンに駆け込んだ。
強い冒険者じゃありませんように!
『近くで見ても、やっぱり変な建物だな』
『何だろう?』
『ダンジョンだろう。変な建物は大体ダンジョンだ』
『良し。入ってみるぞ』
地下一階のモンスターは、スライムだった。
但し、プリンスライム・ゼリースライム・ジャムスライム・羊羹スライムなど、食べられるのかと気になるラインナップだ。
『ヤバい! 顔に張り付いた!』
仲間の顔にプリンスライムが張り付き、慌てる男達。
『剥がせ! 窒息するぞ!』
『何だ、これ?! 柔らかくて千切れる!』
地下二階のモンスターは、ゴーレムだった。
但し、チョコレートゴーレム・シュガーゴーレム・キャンディーゴーレム・マシュマロゴーレムなどである。
『何だ。こいつ等? ゴーレムにしては、柔らかいぞ?!』
『ああ! もう! 剣がベタベタだ!』
地下三階にはモンスターは居らず、厨房が在った。
そして、先へ進む扉が特殊な方法で閉じられていた。
『何なんだ。此処は?』
『壁に顔?!』
『いや。これ、扉じゃないか? 扉を顔の像で塞いでいるんだ』
扉を塞いでいるのは、円形の石に彫刻された顔。四角い大きな口が開いている。
『プレートに何か書いてあるぞ』
『何々? 【甘い菓子を食わせろ】』
男達は、厨房に用意されている材料を振り返った。
『作れってか?』
『誰か作れるか?』
『作れると思うか?』
そして、男達は厨房の物を全部持って帰ってしまった。
ちょっ?! せめて、調理器具は置いて行け~!
冒険者って、皆、ああなの?
まあ、私の危険は去ったから良いけどさ。あいつ等の滞在DPで補充も出来るし。
さて、気を取り直して、地下四階の確認。
此処には、ドラゴンが一種類だけ居た。
スイーツドラゴンと言うらしい。
お菓子で出来ているのかと思ったが、見た目は普通だ。
違う所と言えば、お菓子で出来た壁を食べている所かな。
?!
スイーツが好物って言う意味だったの?!
って、そんな事より、食費が! エンゲル係数が!
その後直ぐ気付いたが、壁や柱が無くなっても上層が落ちない仕組みなのは、幸いだった。
そうでなければ、私は潰れていただろう。
ああ……。自動DP消費で壁などが元通りになって行く。
このドラゴン達をどうにかするか、DP収入を定期的に得なければ、遠からずDPが尽きてしまうかもしれない。
翌日。
皿に乗せたお菓子の家を食べながら人を集める方法を考えるが、良い案は浮かばない。
紅茶を飲んで一息吐く。
侵入者が来たようなのでモニターに映すと、昨日の冒険者達だった。
彼等は地下三階の厨房まで辿り着くと、また全部持って帰った。
昨日持ち帰った物が高く売れたらしい。
理由はともあれ、今後も来るなら、最低一時間は必ず滞在するよう工夫しなければ。
夕飯の時間になっても、未だ良い案が浮かばなかった。
食事を取りながら、尚も考える。
そうだ!
『部屋に閉じ込められて、ホールケーキを完食しないと出られない』というのはどうかな?!
お。良いんじゃない? 採用!
そんな事を考えていたらケーキが食べたくなったので、三号(直径9cm)のホールケーキを出して食べた。
勿論、閉じ込める部屋に置いておくケーキはもっと大きいサイズにする。
……もう一つ食べちゃおうかな?
私はホールケーキをもう一つ出して、食べた。
ダンジョンマスターは病気にならないようだけれど、太るのはどうなんだろうな~?
数週間後。
モンスターを倒せさえすれば、タダで上質な砂糖が手に入ると言う事で、多くの冒険者が訪れる様になっていた。
それによって、街では砂糖を使用した料理やお菓子が増え始めているらしい。
『でも、此処の菓子の方が上手いよな~』
『これって、ダンジョンマスターとやらが作ってるのか?』
『まさか~。人間の菓子職人を攫ったか何かして作らせてるんだろ~』
紅茶を飲みつつケーキを食べながら、食べ終わるまで閉じ込められている冒険者達が談笑している。
『でも、罠なんじゃねーかって話があるよな?』
『ああ。五十年前のケイモーン王国のヤツな』
『でも、この五十年何もねーんだから、そいつ死んだんじゃねーの?』
ケイモーン王国で五十年前に何があったんだろう?
『だろうな』
『何て名前だっけ?』
『確か……。ラ……?』
『ラビット?』
『ランビリス?』
ランビリスって、確か、ホタルだよね。ギリシャ語だっけ?
『ラビリンス?』
『それ! それっぽかった!』
『思い出した! ラビリスだ!』
結局、その後、ラビリスとやらが何をしたのか話題に出る事は無かったので、サッパリ事情が分からない。
後で、ケイモーン王国にダンジョンが在る大好に聞いてみようかな?
ペットのインコがケーキを啄ばむのを見ながら、私はそう考えた。
ご存知でしょうが、人間用に味付けされた物を食べさせてはいけません。




