【猫神社】
2018.11.20 投稿
2020.04.11 第94部分に変更
◇エアル王国◇
幸せって、猫がいる事だよ。
幸せってどんな事なのかと聞かれたら、私はそう答えるだろう。
私は猫祀巫女。
ライラック島の東にあるエアル王国にダンジョンを構える新米ダンジョンマスターだ。
初日、取り敢えず間に合わせのダンジョンを造った私は、観光と言うか視察と言うか、近くの街を訪れた。
そこで、袋状の網に入れられた猫が焚火で炙られている光景を目撃した。
余りの事に頭が真っ白になった。
猫達が暴れ・鳴き叫んでいる様を、奴等は熱狂して笑い声を上げて見ていた。
「止めなさい! 何で、こんな事しているの!?」
私はそう怒鳴り、猫達を助けようと駆け出した。
しかし、行く手を遮られた。
「外国人か! 引っ込んでいろ!」
「止める訳無いだろう! 邪神の眷属を焼くと神が幸運を授けてくださるんだ!」
猫が邪神の眷属?
魔女狩りの様なもの?
いや、そんな事はどうでも良い。
助けなければ!
「おい。この女、もしかして、魔女じゃないか?」
「そうだ! そうに違いない!」
そう言うと、奴等の中から武器を手にした連中が出て来て私を囲んだ。
魔女であって欲しいのか。
なら、遠慮は要らないよね?
私は、アムールトラに変身した。
この世界の街が現代日本の様に治安が良いとは思っていなかったので、ダンジョンを出る前にスキルは確認・取得済みだ。
「うわあああ! 本物の魔女だ!」
アムールトラは、地球に現存する猫科で最強と言われる。大きさも最大で、羆をも倒せるらしい。
「怯むな! 殺せ!」
多くは逃げたが、レベルが高い連中は向かって来る。
アムールトラはモンスターでは無い只の虎だから、簡単にやられてしまうだろう。
でも、狙い通り人が減って、猫達の所へ行き易くなった。
私は正面の男に飛びかかった。
押し倒してそいつを地面代わりに跳躍すると同時に、地球での地上最速動物チーターに変身する。
この男は弱かったようだ。
魔法が飛んで来るけれど足を止めずに辿り着き、元のサピエンスの姿に戻って、念の為に持って来ていた『掛ける回復薬(重傷用)』を使った。
ナイフを使い急いで柱から網を外し、ライオンに変身して網を咥えて走る。
チーターにしなかったのは、チーターの大きさで猫数頭の重さを咥えて走れるか分からなかったからだ。
ライオンなら大きいから多分大丈夫なんじゃないかなと思った。
虎にしなかったのは、足の速さがライオンの方が上だから。
幸いにも、追い付かれずにダンジョンに戻って来る事が出来た。
奴等は諦めた様だ。
私は元に戻って、猫達を網から出した。
猫達は怯えて私から逃げ、ダンジョンの外周の透明な壁にぶつかった。
地上にダンジョンを造って、壁と天井を透明にしてあるのだ。
一応、壁際に木製の柵を設置してあるけれど、猫のサイズなら簡単に隙間を通り抜けられる。壁さえなければ。
猫達が怯えるのは仕方が無い。
私はあいつ等と同じ種族なのだから。
水場を設置し餌を置いて放置しておこう。
それにしても、幾ら宗教の教えとは言え、あんな事良く笑って出来るよね。
何が楽しいんだろう?
だって、あれ、例えるなら……。そう! 日本人の大多数が嫌いな油虫!
アリマキの方じゃないよ。ゴから始まる四文字の方。
あれを、知事とかのお偉いさんが『虐殺祭します』とか言ったって、大抵の人は喜んで見に行ったりしないよね? 見たくも無いんだから。
『恋人とのデートで見に行きます。楽しみ』とか、『家族揃ってGの虐殺見るの大好き』なんて、先ず有り得ない。
あいつ等は、邪神の眷属なんて見るのも嫌だと思わないのだろうか?
解らない。
どう言うメンタル?
もしかして、悪者が酷い目に遭うのは痛快って事かな?
それにしたって、やり過ぎだし興奮し過ぎだと思うけれど。
翌日から、国中の猫を保護する事に力を注いだ。
他の国でもやっているらしいので、何れは其方にも行かなければ。
同じ街を何度か訪れると、鼠が樽や木箱など木製の物を齧っているのを見かける様になった。
でも、鼠を生きたまま焼き殺すのを見て楽しむ光景は、全く見られなかった。
鼠は、邪神の眷属では無いらしい。
ただ、不吉だとは思っているようで、『猫を焼いて幸運を授けて貰わなくては!』と苛々していた。
その内、適当な人物を魔女として焼き殺すんじゃないだろうか?
数ヶ月もすると、街は鼠だらけになっており、鼠が媒介する病気が幾つか流行っていた。
ハンタウイルス菌・ペスト菌・チフス菌などが原因らしい。
異世界にもペストとか有るんだ……。
暫く近付かないでおこう。
さて、数ヶ月の間、猫の保護だけしていた訳ではない。
間に合わせだったダンジョンの改装も行った。
どんなダンジョンにするか悩んで、巫女と言う名前から「そうだ。神社建てよう」と思い付いた。
最初に、地上部に神社を設置した。
祭神は猫。
狛犬も猫。
獅子の狛犬も置いておこう。
地下の最下層にも神社を設置し、此方には、ダンジョンコアを御神体として置いておく。
そして、地上のダンジョン入り口と地下への階段の手前に鳥居を置いてみた。
折角だから、地下ダンジョンの通路と階段に鳥居を沢山設置してトンネルの様にした。保護した猫の数と同じだ。保護する度に増やして行こう。
あ、そうそう。
保護した猫の中にはヤマネコなどの野生の猫も含まれている。
街中に猫が居なくなれば、街の外に野生の猫を捕獲しに行くと思ったからだ。
そして、実際、探しているのを見かけた。
ダンジョンを守るモンスターは、猫科モンスター達。
その中には、地球では絶滅したネコ科動物と同じ名前のものが幾つかいた。
ジャイアントチーター・ジャイアントジャガー・ケーブライオン・スミロドン(サーベルタイガーの一種)など。
眷属召喚では無く、モンスターメーカーで造って配置する。
意思が無くて死ぬと消えるそうなので、その方が胸が痛まないからだ。
モンスターメーカーで造ったモンスターにはドロップアイテムを設定出来るので、10%の確率で『猫の木像』が出るようにした。
『何だ、これ?』
ある日、ダンジョンを見付けて地下へと足を踏み入れた冒険者達が、ドロップした猫の木像を見て疑問の声を上げた。
『モンスターの一部でも、回復アイテムでも無いとは。珍しいな』
『ああ。でも、何でこれ? どうしろと?』
それから、何体倒してもそれしか出ない為、冒険者達は帰って行った。
私は鳥に変身して後を追い、猫の木像をどうするのか見ていた。
普通に考えれば、要らないと捨てるか・木なので燃料にでもするだろう。
「と言う訳で、これしか出て来なかったから帰って来た」
「そんな事より、猫が居たのなら何故捕えて来なかった!?」
「見えない壁が在って近付けなかったからだ」
簡単に捕まえさせる訳無いでしょう。
猫達が居る部屋への入口は、狛犬(猫)を撫でると開くようにしてある。
こいつ等は、ほぼ確実に撫でないだろう。
その後、猫の木像は、猫の代わりに火炙りにされた。




