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ダンジョンマスターは神様です  作者: ひつじかい
番外編:ライラック諸島
92/191

嘘判別の魔法

2018.11.06 投稿

2020.04.11 第92部分に変更

◇ダンジョン【ボレアス温泉ダイス屋】◇


「施設の説明の前に、凍傷の治療を致しますか?」

「いや。此処に着いてから回復魔法で治したから大丈夫だ」


 アベルが答える。


「そうですか。……何名か、治っていらっしゃらない人がいるようですが」

「手遅れだったんだ。俺達の回復魔法じゃ治せない」

「欠損回復薬がございます」

「そんな高い物……!」

「無料です」

「無料?!」


 高価な薬を無料で提供すると言う言葉に驚いたのは、アベルだけでは無かった。


「無料って、有り得ないでしょう!」

「先程ご説明致しました通り、ダンジョンに一定時間人が滞在した場合に報酬を頂けますので。これだけの人数ですから、直ぐに元が取れます。ですので、ご宿泊料金等も頂きません。人間社会のお金を頂いても、使い道がありませんし」


 宿泊等も無料という事で、こんな立派な宿に泊まれるだけの所持金が無い貧しい者達は安堵した。


「ですが、彼方の売店」


 と、ピップが指す方を見る。


「彼方で販売している物は、お金と引き換えです」

「何を売っているんだ?」


 アベルが尋ねた。


「防寒具や回復薬等、討伐に必要な物です。彼方は暖房を入れておりませんので」


 当然の事ながら、そう易々と攻略されるつもりは無い。

 大好(だいす)は外の天候にヒントを得て、室温を氷点下にし・凍ってツルツルの床や冷たい水中を進まなければならない通路・冷たい水が噴き出すトラップ等を用意していた。

 勿論、配置されているモンスターは、寒さに強いか・【耐寒】や【寒さ無効】等のスキルを覚えさせたものばかりだ。


「防寒具があれば、他の街まで行けるんじゃ……」

「モンスターと戦い辛いって言ってただろう」


 防寒具があるならとダンジョンを出て行きたがる者もいたが、失念していたモンスターの事を思い出させられて断念する。




「此方のラウンジでは、外の景色を見る事が出来ます。其方のカウンターの従業員に言って頂ければ、お飲み物をサービス致しますので、ソファにおかけになってお飲みください。また、此方に本棚がございますので、ご自由にお読みくださいませ」


 本があると言われても、字が読めるのは一握りの者だけだった。



「此方が食堂です」


 ラウンジから右へと伸びる廊下を歩くピップについて行くと、一つの扉の前でそう説明された。


「食堂……」


 ピップの言葉で空腹を思い出したかのように、何人かの腹が鳴る。


「準備は出来ております。どうぞ」


 ピップが扉を開くと、白いテーブル掛けが掛けられた沢山のテーブルが目に入った。


「彼方にお料理を用意しておりますので、お好きなお料理をお皿に盛ってお召し上がりください」


 奥には、何十種類もの料理が並べられていた。


「こ、こんな御馳走……。い、良いの?」

「どうぞ。高級食材は使用しておりませんので、御馳走と言う程の物では御座いませんが」


 念の為に、魔法を使える者が毒の有無を確認し無害だと許可を出すと、ワッと人々が群がった。

 そんな中で貴族や司教等の身分の高い者は、従者が取って来るのを席に着いて待っている。



「おいしい! おいしいよ、母ちゃん!」

「こんなのはじめて! あま~い!」


 食事が始まり、彼方此方から喜びの声が聞こえて来た。


女将(おかみ)

「はい」


 貴族の男に声を掛けられたピップは近付く。


「先程、高級食材は使用していないと言っていたが、胡椒(こしょう)等の香辛料やそれより高価な砂糖も使用されているようだが」


 胡椒も砂糖も、ライラック諸島では栽培されていない。


「ダンジョンの社会では、高価と言う程ではありませんので」

「……そうなのか」



 一方、アベルは、隣のテーブルの老婦人が食事の手を止め塞ぎ込んでいる事に気付いた。


「どうした、婆さん?」

「ああ。……五十年前も、こんな感じだったのかと思ってね」

「……家族を失ったのか?」

「いや。あたしの住んでいた街は被害を受けなかったんだけど……」


 このダンジョンに怯えているようだった。

 そこで、ふと、アベルは自分が使える魔法を思い出した。

 彼は魔法が苦手なので、自分が魔法を使える事を忘れかけるほど長い間使っていなかったのだ。


「ピップさん」

「はい」


 呼ばれたピップがやって来る。


「ダンジョンのマスターだっけ? 会えないかな?」

「……モニター越しで宜しければと、申しております」

「モニター?」

「ええと……。離れた場所の光景を映し出す物です」


 果たして、モニター越しで魔法の効果はあるのかとアベルは思ったが、直接会う気が無いのであれば仕方がない。


「皆! 食べながらで良いから聞いてくれ! これから、このダンジョンの管理者と会う! 嘘を見抜く魔法が使える者はいないか?!」


 アベルは声を張り上げて注目を集めた。

 三人が手を上げる。

 司祭が一人・神聖騎士が二人だった。



「それでは、彼方の壁をご覧ください」


 ピップが示す方の壁を見ると長方形の窓の様な物が現れ、一人の男が映し出された。

 しかし、顔の上半分は窓の範囲外で見えない。

 肌の色は、ピップと同じだった。


『初めまして。俺がこのダンジョンのマスターだ』


 名乗る気は無いらしい。

 アベル達は既に魔法を使っており、今の言葉に嘘が無い事が判明した。


「聞きたい事がある。答えてくれるか?」

『話せる事なら』

「では……」


 アベルは唾を呑んだ。

 食べる事に夢中な子供達以外は、手を止めてモニターを注視している。


「五十年前の事件を起こしたのは、お前か・お前の部下か?」

『違う。俺達は生まれたばかりだ。その赤ん坊よりも後にな』


 マスターは、一人の母親に抱かれた赤子を指差した。


「……そうは見えないが」

『ダンジョンは、不自然なものだよ』

「……なるほど。では、次の質問だ。五十年前の事件を起こした者を知っているか?」

『知らない』


 他の三人を見ると、気が緩んだような顔をしていた。

 アベルも緊張を解き、安堵の息を吐いた。


「皆、安心してくれ。ここまで嘘は無かった」

「安心するには、まだ早いですよ!」


 そう声を上げたのは、司祭だった。


「次の質問です。貴方や貴方の部下は、五十年前の事件の様に我々を殺しますか?」


 再び、空気が張り詰める。


『生きていれば考えが変わる事もあるかもしれないが、今の所はそんなつもりは無い。但し、俺達を討伐しようとする者や、ダンジョン内で殺人・強姦・放火・傷害・詐欺・窃盗等の犯罪を犯す者は、殺す』


 その言葉に、かつて罪を犯し改心していない者達が、不愉快を顔に出した。


「で、では……、誰かに我々を殺す様言われたら、どうしますか?」

『従った方が俺の為ならば、従うかもしれないな』


 安心出来ない答えが返って来た。


『しかし、そこまでお前達を殺したい者がどれだけ居るものか……』


 確かに、ある街の住人を、何処かに逃げた者達すらも漏れなく見付け出してまで皆殺しにしたいなんて、滅多にある事では無い。


「それは、そうですが……」

「じゃあ、この天気は、お前か・お前の部下の仕業か?」

『違う』


 それが嘘ではない事に、アベル以外の三人が動揺する。


「で、では、邪神の仕業ですか?」

『違う』

「原因に心当たりは?!」


 司祭の剣幕に、司教達は此処を討伐しても天気は回復しないと察した。


『ある』





 大好(だいす)は、人間達の相手をピップにさせている間に、地表のダンジョン化の続きを行っていた。

 辿り着いた街の中がモニターに映る。

 一人の女が、片手で男の首を絞めて凍りつかせていた。

 反対側の手には、雪が噴き出している魔導具。


 そして、女の肌は不自然に白い。

 生きている人間とは思えない。

 見られている事に気付いた訳ではないだろうが、女はゆっくりと此方に向き直った。

 その首には、切断された様な傷があった。





『王都に、雪を降らせる魔導具を持ったアンデッドが居た。あの女は、何者だ?』

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