それから
2018.03.27 投稿
2020.04.11 第84部分に変更
◇アケビア半島西部・ダンジョン【トウモロコシ畑】◇
「は~。やっぱり、自宅は落ち着くな~」
転生してから一日も居なかった自分のダンジョンだが、住み慣れたかのようにリラックスする。
留守中、ダンジョンに入った者はいない様だった。
誰にも発見されていないと言う事だろうか?
マリクはどうやって見付けたのか? 偶然?
翌日。
俺は、道に沿って地表をダンジョン化して行った。
壊れた馬車の所に近付くと、複数名の反応に気付いた。
どうやら、乗っていた人々の捜索に来た様だった。
『魔物に襲われたとして、何故骨も鎧も無い?』
『別の場所に運ばれたのではないか?』
『そうかもしれないな』
『じゃあ、馬車を襲ったであろう魔物を探そう』
彼等は何方を探すか話し合い、上へ向かう事に決めた。
つまり、ダンジョンの方に来る。
ダンジョンが見付かってしまうだろうが、それで良いだろうか?
しかし、此処に来られない様にする策が思い付かないな。
受け入れる事にして、取り敢えず、出入り口周辺にトウモロコシを数種類『設置』する。
これは、夏芽の真似だ。
ダンジョンに挑む者以外にも、トウモロコシ目当ての者が訪れる事を期待して。
『何故、こんな所にトウモロコシ畑が……?』
『誰か住んでいるのか?』
『おい! 此処に地下への階段が在るぞ! もしかして、ダンジョンじゃないか?!』
『ダンジョン?!』
階段に気付いた一人の言葉に、全員が階段に駆け寄った。
『どうする?』
『そりゃあ、確かめた方が良いだろう。一層目だけなら、余程凶悪なダンジョンでない限り、大丈夫だろうしな』
『凶悪なダンジョンって?』
『一層目からCランク相当のモンスターが出たり、入って直ぐの場所に即死系罠が在ったり、脱出不可能になったりするダンジョンが在るらしい』
そんな殺意高いダンジョンを造ったダンマスが居るのか。
『脱出不可能って、ダンジョンコアを破壊するしかないのか?』
『そうとは限らない。何十層か先に、脱出用魔法陣が在ったりする場合もあるとか』
『其処まで行くなら、最低Bランクじゃないと厳しいだろう。確かに、脱出不可能だな』
この国には、Bランクは少ないんだったな。
『そう言う話を聞くと、躊躇うな』
『俺は入るぜ。冒険者なんて、何時だって、死と隣り合わせだろ』
『確かにそうだな。お前等は、残れ。俺達が戻らなかったら、報告頼むぜ』
ダンジョンに入った二人は、地下一階を隅々まで歩き回ってから戻った。
当然、途中でモンスターと交戦している。
『どうだった?』
『一層目だけ見て来たが、モンスターは弱いし・罠も殆ど無い。一層目だけなら、初心者が経験を積むのに最適だと思う』
『ただ、肉体が残らないタイプだったから、素材は期待出来ない。宝箱の中身も初心者向けだった』
『肉体が残らないタイプか……。武器や防具がドロップする事もあるよな?』
そうなのか。どうやるんだろう?
『そうだな。だが、弱いモンスターからドロップするのは、それなりの物でしか無い』
『それなら……』
彼はそう言って、トウモロコシ畑を見渡した。
『これを採って帰れば、食費が浮くんじゃないか?』
『そうだな。毒も無い普通のトウモロコシの様だし』
冒険者達は、トウモロコシを全種収穫して帰って行った。
彼等が報告してくれたお陰で、大勢のEランク冒険者がうちにやって来るようになった。
まあ、大勢と言っても三桁はいかないけれど。
偶に、Cランクもやって来る。
俺は、地下二階への階段が在る小部屋の扉を、パズルを解かないと開かない物に変更しておいた。
他にも、地下二階以降は一つの階に複数のパズルを配置した。
まだ誰もパズルを解けなくて、地下二階に進んだ者はいない。
夏芽のダンジョンには、ナツメヤシが植えて在る所に住み着いた人達がいるらしい。
夏芽はあの後、東屋と噴水と公衆トイレを『設置』したそうで、それを利用して暮らしているのだとか。
夏芽は地表部分を『モンスター立ち入り禁止設定』にしていたのだが、柵の中にモンスターが入って来ない事に気付かれたらしい。
ダンジョンは氾濫と言うものが起きる事があるそうだが、それは滅多に無いので気にしていない様だと言っていた。
住み着いたのは孤児のグループで、年長の男の子達がナツメヤシを街に売りに行ったりしているのだそうだ。
ある日、何を思ったのか地下への階段に女の子が近付いて、女性なら入れる事がばれてしまったらしい。
しかし、マルティプライの街には外国人の女性冒険者が居なかったようで、未だに誰も来ていないそうだ。
◇プラス砂漠中央・聖地プラス◇
ウィニクのダンジョン【豊作の森】が在ったプラスの街は、廃墟と化していた。
ダンジョンの維持にDPを回せなかった為、空腹となった眷属達が、ダンジョンの外へ出て行き……つまり、ダンジョンの氾濫を起こしたので、かなりの犠牲が出たのだ。
生き残った者達は、オアシスが枯れた事で去って行った。
旧ウィニク教徒は、まだ小規模ながら存在している為、ウィニクはお告げと称して彼等に来て貰った。
数日もすると、滞在DPでオアシスを再設置する事が出来た。
更に森が復活した事で、続々と人が集まって来た。
しかし、復活した聖地を欲しがる者が現れた。
ウィニク教の指導者達である。
ウィニク教は、かつては、ウィニクの妨害により聖地を手に入れる事が出来なかった訳だが、聖地が荒廃してからは、手に入れる価値無しとして放って置いた。
再び価値が出て来たからと手を出して来た彼等に、ウィニクは容赦しなかった。
因みに、旧ウィニク教とウィニク教は、互いに相手を偽ウィニク教と呼んでいる。
そして、旧ウィニク教徒は自らの宗教を『旧』を付けずに称するので、ややこしい。
さて、聖地を異教徒から『奪還』する為に進軍して来た軍隊は、砂漠のモンスターに襲われてその大半が命を落とした。
実は、其処はウィニクがダンジョン化していた場所だったので、モンスターは野生のものではなくダンジョンの眷属だった。
生き延びて聖地に辿り着けた者達も、モンスターとの戦いで傷付いた体のまま旧ウィニク教徒と戦う破目になり、生きて戻る事は無かった。
だからと言って、諦める筈が無い。
異教徒が聖地に我が物顔で居座っているのだから、諦めて良い筈が無いのだ。
聖地プラスを巡る戦いは、まだ始まったばかり。
◇アケビア半島北部・王都マイナス◇
アケビア王国の首都マイナスには、マリクのダンジョンが在る。
このダンジョンの存在は知られていて、王都のダンジョンと呼ばれている。
王都がダンジョン化されている事には、誰も気付いていない。
「マリク様、そのお姿は?」
猫の姿で戻って来たマリクに、驚いた眷属のローグオークが尋ねる。
マリクが動物に【変身】した事など、未だ嘗て無いからだ。
「……ダンジョンバトルに敗北した結果だ」
マリクは敗北した事を隠しておきたかったが、これから数百年猫のままでいる言い訳が思い付かなかったので仕方が無い。
「マリク様が敗北するなんて、相手はどのような方だったのですか?」
「……ウィニク様だ」
眷属も、ウィニク神がダンジョンマスターであると知っている。
眷属は別にウィニク教徒では無いので、そうと知っても特に感想は無かった。
「ウィニク様が相手では、敗北しても仕方がありませんね」
「……そうだな」
ウィニク教の教義に『嘘を吐いてはならない』と言うものがあり、開祖マリクは『尤も模範的な信者』と言われているが、新人ダンジョンマスターに敗北した事を知られたくないので、マリクは嘘を吐き通す。
聖地奪還の為の進軍に、マリクは関わっていない。
しかし、止める気は無い。
ウィニクのダンジョンコアを破壊するつもりならば、勿論、阻止するが。
聖地は正しい神を崇める者達にこそ相応しいとは思うし、ウィニクが旧ウィニク教徒を護る事も気に入らないが、ウィニク教徒がウィニクに牙を向けるのが気に入らない。
勿論、彼等がウィニクの事を知らない事は解っているので、阻止する事も罰する事もしないが。
マリクが、自身のウィニクに対する態度を改める日が来るかどうかは、神のみぞ知る。




