クラーケン
2018.03.01 投稿
2020.04.11 第79部分に変更
◇アケビア半島南西部・ディバイドの街◇
翌朝。
俺達は馬車乗り場を探して歩き、程なくして見付けた。
「マルティプライの街まで? 今、そっち方面に行く馬車は出てないよ」
「何故です?」
「盗賊が出るからさ」
理由を尋ねると、昨日聞いた話が出て来た。
「盗賊団を壊滅させられるような凄腕の護衛が居るなら兎も角」
俺は、ウィニクさんを見る。
「この人、凄腕の護衛です」
「はあ?」
言葉だけでは信用出来ないので、当然の事ながら御者は信用しなかった。
「そんな凄腕が其処らに居る訳無いだろう! ステータスカードを見せてみろ!」
「ステータスカードって何ですか?」
俺は、小声でウィニクさんに尋ねた。
「ダンジョンの宝箱から入手出来る、手にした者の強さを数値化して表示する不思議なカードだよ」
ウィニクさんの手に、何時の間にかカードが有った。
元から所持していたのか、今DPで交換したのかは判らない。
カードを見ると、名前・Lv・魔力量等が表示されていた。
「俺が持てば、俺のステータスに変更される訳ですか?」
「そう」
ウィニクさんは、カードをひっくり返した。
大きくBと記されていた。
異世界に何故アルファベットが存在するのか、謎だ。
「Lv10までがE・Lv30までがD・Lv60までがC・Lv100までがB・Lv150までがA・それ以上がSと表示される」
ウィニクさんは、Lv72だからBか。
それにしても、Lv150以上がSだけとは大雑把だな。SSとかSSSとかに分ければ良いのに。
「噂じゃ、盗賊団のボスはCランクらしい。討伐隊にCランクが何人か集まってくれたらしいから、退治出来るかも知れねえ。それまで待ちなよ」
ウィニクさんがあっという間に倒してくれたから、ステータス確認していないんだよな。
だから、ボスが本当にCランクなのかは判らない。
そもそも、何故、盗賊団のボスがCランクだと言う噂が流れているんだ?
カードの裏を見せて、Cランクだと自慢していたのか?
「僕のランクです」
ウィニクさんが、御者にステータスカードを見せた。
「B?! 嘘だろ?!」
御者を信用させる為に、俺がカードを受け取る。
表示されるランクは、BからEに変化した。
「本当なのか……」
「Bランクって、そんなに珍しいんですか?」
俺は、ウィニクさんに尋ねた。
「ヒト種だとそうだね。何百年も生きる亜人だと、珍しくも無いかな。Sランクも普通に居るし」
そう言った直後、ウィニクさんの表情が暗くなる。
「僕も何百年も生きているのに……」
まだBランクだと、落ち込んだ様だ。
「Bランクなら、討伐隊に参加してくれよ」
そう御者が言う。
既に倒したんだよな~。
「必要無いと思うよ」
「でも、盗賊団にCランクが何人いるか……」
「昨日、街に集まった冒険者達を見たけれど、彼等なら大丈夫だよ」
「それなら良いんだが」
納得したようだ。
「じゃあ、用意するから午後に来てくれ。ああ、そうだ。街から街へ乗り継いで貰うが、良いか?」
「はい。勿論」
ウィニクさんが答える。
「それでは、午後に」
それらしい荷物を用意した俺達は、馬車に乗り隣町(?)を目指していた。
「乗り心地、悪っ!」
俺は小声で呟いた。
馬車の造りが悪いのか、道が悪いのか、或いは両方か?
暫くすると、盗賊団のアジトへ続く道の手前に、討伐隊らしき一団を見付けた。
「討伐したのか?」
御者が馬車を止めて話しかける。
「いや。もぬけの殻だった。アジトを変えたんだろうな」
「討伐隊が集められている事に気付いて逃げたんだろう」
「熱りが冷めた頃に戻って来るかも知れないが、ずっとディバイドに居る訳にもいかないしな」
死体どころか何もかもダンジョンに吸収したので、逃げたと思われたようだ。
「戻って来ないと良いんだが……」
御者はそう呟いて礼を言うと、馬車を動かした。
◇アケビア半島南部・とある街◇
数日後。
馬車を乗り継いで辿り着いたとある街。
「え? 封鎖?」
「ああ。領主様の命令でな」
俺達は、この先の街へと続く道を領主が通行禁止にしていると聞いた。
「何故封鎖を?」
「さあ? 何も説明は無かったからな。……ああ、砂漠を通って行くのは禁じられていないから、どうしても行きたいなら砂漠を通って行くんだな」
徒歩で? ラクダって売ってる?
ラクダを購入して、砂漠を行く。
勿論、出発前に乗り方を教えて貰って練習してからだ。
「ウィニクさん。大分日差しも強くなりましたし、休憩しませんか?」
「そうだね」
俺はラクダから降りるとダンジョンであるマントを敷いて、日除けにビーチパラソルを立てた。
「本でも読みますか?」
「そうしよう」
◇アケビア半島南部・港町◇
数日後、漸く街に辿り着いた。
潮の匂いがする。海辺の街なのか。
街に足を踏み入れると、まるで何日も何も食べていないかの様にやつれた人々が目に入った。
彼等は飢えた獣のような目で此方を見ると、武器を手に近寄って来た。
後ろを振り向くと、街の出入り口に居た兵士達もやって来ていた。
俺達は、狩られる獲物の様に囲まれてしまったのだ。
「何の用ですか?」
ウィニクさんが、ステータスカードの裏――Bの文字――を見せて尋ねる。
「ハッタリだ!」
人々は一瞬固まったが、一人の男の言葉でやる気を取り戻して襲いかかろうとした。
バリッ ドゴン と音を立て、街路樹が砕ける。
ウィニクさんの魔法の落雷だ。
「誰から死にたいのかな?」
あんな魔法を見せられてはBランクと信じない訳にはいかず、大人しくなった連中は謝罪すると、食料を分けて欲しいと頼んで来た。
街中の人間に行き渡る食料なんて……出せなくはないけれど、それをやったら面倒な事になりそうだからやりたくない。
人命より自分の平穏な生活の方が大事だとは、嫌な人間だな、俺。
あ、もう人間じゃないんだっけ?
「つまり、東の方の道も封鎖されているんですか? 何故?」
「領主の所為さ! 改宗するなんて言い出しやがって!」
「ウィニク教は改宗を禁じているんだよ」
ウィニクさんが教えてくれる。
「何故、改宗するなんて言い出したんですか?」
「女だよ。異教徒の女に入れ込んだんだ」
彼女をウィニク教徒にするんじゃなくて、自分が異教徒になる事を選んだのか。
改宗が禁じられているのにそっちを選ぶなんて、勇気あるな。
「なるほど。で、その領主は?」
男達は無言で海を指差した。
「逃げたんですか……」
自分と彼女の幸せしか考えてないのか。領主のくせに。
「ところで、どうして、魚を獲らないんですか?」
「クラーケンが出るんだよ」
クラーケンか。どれぐらい強いのだろう?
ん? って事は……。
「領主達は、クラーケンに?」
「ああ。その時初めて知ったのさ。クラーケンが棲み付いた事に」
「……砂漠は封鎖されていないですよ」
「Bランクの基準で考えないでくれ。砂漠なんて足場の悪い所で、モンスターと満足に戦える奴なんてこの街には居ないんだよ」
「それは、済みません」
考え無しの発言だったな。少し考えれば、歩き辛いと言う事は戦い辛い事でもあると気付けた筈なのに。
「どうしましょう、ウィニクさん?」
「クラーケンを倒そう」
「マジですか?! 倒せますか?!」
「予想より強くなければね」




