プチサブダンジョンコア
2018.02.15 投稿
2020.04.11 第75部分に変更
◇アケビア半島・某所◇
ダンジョンマスターになった日。
俺は、途方に暮れて佇んでいた。
意識が覚醒した後、体に違和感を感じて見下ろしてみれば、明らかに人間では無い体になっていた。
鳥の足・鳥の翼が目に入ったのだ。
視界の高さからしても、獣人ではなさそうだった。
恐らく鳥になった事に呆然としていると、アナウンスが入った。
<ダンジョンコアが仮起動中です。数日以内にダンジョンを作成して本起動させないと、貴方は命を落とすでしょう>
我に返り、慌ててメニューを開いた。
ええ?! 如何すれば良いんだ?
四苦八苦しながらも、音声操作で『地下迷宮遺跡セット』とやらを選択して作成した俺は、ホッと一息を吐いた。
「お前がこのダンジョンのマスターか」
突然聞こえたその声に、驚いた俺は飛び上がった。
「私は、マリク。人の姿に【変身】し、私とダンジョンバトルをしろ」
え、何? 道場破り? 何なのか知らないけど、嫌だよ!
因みに、マリクと言う男は、灰褐色の髪をして同じ色の長い髭を生やした褐色の肌の老人だ。
しかし、外国人(白人?)は老けて見えると言うし、紫外線を多く浴びると老け易いとも聞くし、髭も老けて見えるらしいし、実際老人なのかは判らない。
「聞こえないのか?! 鈍間め!」
いい年して、初対面で失礼な奴だな!
「ダンジョンバトルするのか?」
マリクとは別の男の声に驚き、俺はまた飛び上がった。
だ、誰だ?!
「我が名はロードアーク。ローディーとも呼ばれる。アディアの創造神にして、ダンジョンマスターの神祖なり」
マリクとは違って、髭を生やしていない若い男だった。
髪と目の色は……紫色だろうか? はっきり言えないのは、赤紫になったり、紫に戻って青紫になったり、流れる様に変化するからだ。それでいて、目に煩いと感じないのだから、不思議なものだ。
「私は、貴様を神とは認めない!」
「左様か。事実は変わらぬが」
そうだよな。神話や宗教・その他人間の主張がどうあれ、この世界が存在する限り、この世界の創造神が変わる事は無いよな。
「さて、ダンジョンバトルを行うにあたり、勝利の暁に望む物を上げよ」
「やるって言ってないんですけど!」
「ならば、お前がその気になるまで、このダンジョンに居座ってくれる!」
俺が力一杯主張すると、マリクは駄々を捏ねた。
「ロードアーク様。如何すれば良いんですか、これ?」
「ダンジョンバトルを受けるか、自力で追い返すかだな」
え~。
「じゃあ、受けます」
俺は、軽率にもダンジョンバトルを受けてしまった。
結果は敗北である。素人が玄人に勝つのは難しい。
負けた俺は、ダンジョンを追い出されてしまった。
その上、眷属召喚リストと武具リストを空にされ、飲食物も水以外リストから削除されてしまった。
そう言う訳で、途方に暮れているのだ。
さっさとおっさんに帰って貰いたかったからって、何で俺は、こんな賭けを呑んでしまったのか……。
ハンデ足りなかったと思うんだよね。
だって、俺、ダンマスになったばかりだよ? 右も左も判らない素人だよ? ノウハウ有る人に勝てる訳無いじゃん!
「一理ある」
突然聞こえた声に、俺は、吃驚して飛び上がった。
因みに、ダンジョンバトル中は人間に変身していたが、今は鳥の姿に戻っている。
此方の方が落ち着くからだ。
「ロードアーク様。帰ったんじゃなかったんですか?」
鳥のままでも喋れるのは、ダンジョンマスターだからなのか、それとも、喋る鳥型モンスターなのか?
「うむ。再訪した」
何の用だろう?
「其方の言う通り、ハンデが足りなかった。故に、之を授けよう」
ロードアーク様は、ダンジョンコアを小さくしたような光る玉を取り出した。
「プチサブダンジョンコアだ」
「何ですか、それ?」
「サブダンジョンコアは、ダンジョンエリアに隣接せぬ地にダンジョンエリアを得た場合、其処にダンジョンを建造する為の物」
「へ~」
ダンジョンバトルで、ダンジョンエリアを賭けて勝った場合かな?
「プチサブダンジョンコアは、極小型のダンジョンしか造れぬが、代わりに持ち運び可能。他者のダンジョンエリアにも持ち運べる」
「え?! どうやって?!」
「例えば、馬車のダンジョン化」
「なるほど! ……あれ? そう言えば、プチサブダンジョンコアが無いと、俺、どうなるんですか?」
俺は漸くその点に気付いて、質問した。
「ダンジョンマスターは、DPを消費する事で、飲まず食わずでも活動出来るが、DPを入手せねば、やがて尽きて死ぬ」
ダンマスって、不思議生物だな!?
「だが、ダンジョンコアが破壊されぬ限り、一年後に復活する」
「マジで?! DPって、どうやって入手するんですか?!」
「基本、ダンジョンに死体を吸収するか、ダンジョン内に生物が一定時間滞在するかだな」
え? 死体吸収? 殺人? 完全犯罪?
ちょっと、やりたくないな……。
でも、小さいダンジョンで滞在と言っても……。
「では、健闘を祈る」
「え?!」
質問が終わったと思ったのか、ロードアーク様は帰ってしまった。
「どうしよう?」
取り敢えず、何にプチサブダンジョンコアを付けるか、交換リストを見て考える事にした。
ふと、『コール』と言うタブに目が留まる。
コールって、『呼ぶ』とか『電話』とかの意味だよな?
表示してみる。
クリサンセマム皇国エリア
・服衣飾 ファッションの街
・小鳥歌音 劇場
・彫石美絵 美術館
(後略)
リストを流し見して行くと、俺の名前があった。
アケビア半島エリア
・軽守明豆 (ダンジョン名未定)
(後略)
知らない名前だ。でも、解る。これが、今の俺の名前だと。
変わった名前だなあ。
俺は、何気なくその下の名前に目を遣った。
・售笥夏芽 (ダンジョン名未定)
幼馴染で、小・中・高と一緒だった友人。
そうだ! マリクは、夏芽の所にも行くかもしれない!
俺は、夏芽に教えようと『コール』した。
『はい。夏芽です。……あんた、鶏になったんだ~』
「お前は牛かよ」
画面に映し出された夏芽の姿は、牛だった。
因みに、ホルスタインでもジャージーでも和牛でも無い。
「何牛?」
『オーロックス』
知らないな。
『それより、どうしたの? ダンジョンの造り方が解らないとか?』
「実は……」
おれは、マリクの事等を話した。
『え~。どうしよ……? あ!』
夏芽は少し考えて、何かを思い付いたらしい。
『男子禁制エリア指定。……これで、良し!』
「何をしたんだ?」
『私のダンジョンに、男が入れないようにしたの』
「へ~。俺には使えない手だな」
俺も入れなくなってしまう。
『そう言えば、あんたのダンジョンのコアって、今、簡単に壊せる状態なんじゃ……?』
「『地下迷宮遺跡セット』にしたから、ダンジョンボスがやられない限りは大丈夫じゃないか?」
『ああ。なら、絶対じゃないけれど、大丈夫だろうね』
ダンジョンボスを倒せる奴が来ませんように。
俺は、気休めに祈っておく。
『ところで、食べ物のリスト、空にされたんだったよね?』
「ああ」
『じゃあ、うちに来なよ。この国に無い食べ物、譲って上げる』
「良いのか?! で、お前のダンジョン、何処?」
持つべきものは、友達だな!
『えっと……。マルティプライの街近く』
「……それは、何処だ?」
『え~っと、あんたのダンジョンは?』
俺は、メニューで地図を見た。
「ディバイドの街近く」
『じゃあ、そこから、東。アケビア半島を横断して』
え? アケビア半島横断? え? 徒歩で?
「馬車出さないと……」
『御者は?』
居ねえよ! うわ~ん!




