表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターは神様です  作者: ひつじかい
番外編:アイリス大陸
64/191

【薔薇園】3

◇ビアン王国・王都◇


 ビアン王国が、ミサンドル王国に侵攻した。

 ミサンドル王国の国王が、ダンジョン討伐で率いていた軍共々命を落としたかららしい。

 弱っていると見れば透かさず襲いかかるなんて、野性的だねえ。



 王宮を見に行ったあたしは、王太子が密かに女装しているのを目撃した。


「失礼。王太子様」


 あたしは、背後から王太子の口を塞いで話しかけた。


「あたしは、ダンジョンマスター。あんた達が悪魔と呼ぶ存在」


 そう言うと、あたしの拘束から逃れようと暴れていた王太子は、怯えた様に動きを止めた。


「うちのダンジョンに来ないかい? 好きなだけ女装出来るよ?」

「そんな甘言に乗ると思うのか?! 悪魔め!」


 口から手を放してやると、王太子は小声でそう答えた。

 人を呼ばないのは、女装している姿を見られたらヤバいからだ。


「怯えながら女装するより、ずっと良いと思うけれどねえ」

「悪魔に魂を売り渡すなんて、許されない!」

「女装の時点で、許されないのに?」

「……それは、……神の怒りの度合いが違う」


 問うと、王太子は暫く考えて答えを絞り出した。


「女装の方が嫌いかもよ?」


 ユニ教の聖典では、どちらの方がより許されないのか明言されていないのだから、それも有り得ない訳ではない。


「そんな馬鹿な」

「何故そう思う? 聖典には、何方(どちら)の方がより嫌いか、記されていないのに」

「いや、だって、普通は……」

「王家への反逆者と淫乱な女、どっちが嫌いだ?」


 王太子は何も答えず、暫くして力無く笑った。


「フフ……。悪魔は狡猾だね」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

「でも、僕は神への信仰を捨てたくない。野蛮人にはなりたくないのだ」

「戦争なんて野蛮な事をしているのに?」

「野蛮とは、正しい神を信仰しない事だよ。そして、戦争は、より良い未来に至る為の努力だ」


 ユニ教には、罪無き人を殺してはならないと言う戒律がある。

 しかし、より良い未来を獲得する為の殺人は許されるのか。


「より良い未来にする為に、ミサンドル王国が邪魔なのかい?」

「……邪魔と言う訳ではないけれど」

「邪魔じゃないなら、大義は無いんじゃないかい?」

「国を発展させる為には、領土拡大が必要なんだ」


 そういうもんなのかね~。


「でも、今だって手が回って無いじゃないか」


 政治の素人のあたしには、領土拡大の前にやるべき事があるんじゃないかと思えてならない。

 この国、一枚岩ではないのだ。

 地方で、度々反乱が起きているらしい。


「それは……」


 王太子が何か答えようとしたその時、何者かが駆け込んで来た。


「兄上、一大事で……! 兄上、その格好は一体……?!」



 闖入(ちんにゅう)者は、どうやら、弟王子の様だった。


「貴様、何者!? 出会え! 曲者だ!」


 女装した兄を見て暫し呆然としていたが、あたしに気付いて衛兵を呼ぶ。


「じゃあ、あたしはこれで」


 あたしは、さっさと窓から逃げ出した。


「まっ……!」


 王太子が引き留めようとしたのか声を上げたが、捕まる気は無いんでね。

 ん? もしかして、連れて逃げて欲しかったのかな?

 まさかね。信仰を捨てたくないと言っていたものな。


「待て!」

「逃がすな!」


 あたしは、追手が撃った矢をコウモリに変身して避け、コートに隠しておいた眷属のコウモリ達で視界を塞いでやる。


「吸血鬼か!?」

「クソッ! 見えない!」

「何処へ行った?!」


 別に殺しても良かったが、必ず勝てるとは限らないので、只管(ひたすら)逃げた。

 コウモリからネズミへ、ネズミからその辺によく居る鳥へ、更に毒蛇に変身し、街が遠くなった所で元に戻る。

 臆病かもしれないが、大勢の命を預かっている身としては、慎重に行かねばなるまい。



 しかし、あたしは直ぐに鳥に変身して街へと戻った。

 弟王子が言っていた『一大事』や、王太子がどうなるのか気になったからだ。


 街の一角で、武力衝突が起きていた。

 どうやら、反乱を企てていた者達が、ミサンドル王国との戦争で手薄になった王都で兵を挙げたらしい。

 国王が侵攻軍を率いて留守にしている今、代わりを務めるのは王太子なのだろう。

 しかし、その王太子は、女装趣味が露見してしまった。

 王太子は捕えられ、代わりを誰が務めるかで、この後、揉めに揉める事となる。

 結果、国王軍は侵攻半ばで帰還する破目になった。



「よくも、わしに恥をかかせてくれたな!」

「ああっ!」


 王太子は、話を聞いて激怒した国王に幾度も鞭打たれた。

 しかし、男だからなのか・王族だからなのか、異性装の罪で処刑される事は無かった。



 その後、王太子は身分を剥奪され、記録から存在を抹消された。

 彼は隷属の首輪と仮面を着けられ、歩兵として軍に入れられた。

 後に、戦死している。


 王太子の母は、女装趣味の王子を産んだ罪で密かに処刑された。


 元王太子の存在が抹消された事で次男は長男になり、彼が王太子となった。

 後に国王となった彼は、この十年後に、ミサンドル王国併合を果たす事となる。


 元の王太子について発言した者は捕えられ、死刑に処された。



 そして、ミサンドル王国を併合したビアン王国は、偉大な国王の死後、王位継承争いによって三つに分裂した。

 ユニ教を国教とする国における文明の発達は、長らく停滞する事となる。




◇ビアン王国・ダンジョン【薔薇園】◇


「マスター。俺達は外に国を作る!」


 ある日、うちのダンジョンで生まれ育った若者達が、そう決意を口にした。

 例えば、女装趣味の男性と男装趣味の女性の間に生まれた子や、男も女も愛せる夫婦の間に生まれた子などだ。

 あたしは彼等に、世界の様々な宗教を教え、彼等は其々自分の意思で選択した。無宗教を。


「簡単にはいかないよ」

「道程が険しい事は解っている。しかし、挑戦したいんだ」

「そうかい。此処が恋しくなったら、何時でも一時帰宅しな」

「ありがとう」



 やがて、彼等はローディー大砂漠中央にオアシスを発見し、集落を作り始めた。

 そして、彼等が老齢に差し掛かった頃には、立派な都市国家となった。

 この国は、アイリス大陸で最も発展した国となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ