【女性保護区】2
近親相姦。
◇ミサンドル王国・ダンジョン【女性保護区】◇
翌日。
ナディアから詳しい話を聞いたあたしは、【ユニコーンの森】が在った場所にダンジョンエリアを得た天国に『コール』した。
「天国! 起きてるかい?! ちょっと、聞きたい事が有るんだけど!」
『……お前といい風神といい、何で緊急性も無いのに強制コールするんだ?』
寝起きらしい天国は、気だるげに前髪をかき上げた。
『トイレ中だったら、どうするんだよ?』
「バストアップだから、問題無いだろうさ」
『じゃあ、セックス中だったら、どうするんだよ?』
そう言えば、天国はインキュバスだったね。
「……朝っぱらからする方が悪いから、謝罪を要求する」
『そうかい。で、用件は?』
「あたしのダンジョンでは、酷い目に遭っている女を保護しているんだけどね。昨日保護したナディアって言う女が、夫がダンジョンから帰らない所為で寡婦焚死させられそうになったんだけど」
『そのダンジョンが、うちって訳か』
「そう言う事」
天国は渋い顔をしている。
因みに、あたしの隣にはナディアが居て、不思議そうに『コール』画面を覗き込んでいる。
『謝罪はするが反省はしない。殺される気は無いんでね』
「それは解っている。皆殺しにしたのか、一応確認しようと思ってね。エラルって言うんだけど」
『エラルなら、俺の隣で寝ているよ』
あたしの言葉を遮って、天国はそう答えた。
「何やってんだい……?」
天国は前世の友人だ。その時は、バイじゃ無かった筈なんだけどね。
「あんたは、唇が美しい女が好きなんじゃなかったのかい?」
『吸精鬼は、同性もいけるんだよ』
「あの……。良く解らないのですが?」
ナディアが、あたしに尋ねる。
「あんたの夫は、こいつの性奴隷になったんだよ」
「え?! 嫌! 気持ち悪い!」
あたしは、本音を隠せないナディアに呆れた。
「あんたねえ……。こいつはあたしの友達だし、それ以前に、あたしと同じダンジョンマスター。あんた達が言う所の悪魔だよ? そう教えたよな? よく、面と向かってそんな事言えるね?」
「あ……!」
ナディアの顔色が悪くなる。
「も、申し訳ありません! 何卒、お許しください!」
『エラルは、自分の代わりにお前をって言ってたんだよな。男同士が気持ち悪いなら、喜んで代わってやるんだよな?』
ナディアの顔色は更に悪くなった。
「真に申し訳ありませんでした! どうか、ご勘弁を!」
土下座して謝るナディアだったが、天国は興味なさげに視線を逸らした。
『まあ、良い』
「あ……。ありがとうございます!」
「良かったね。これに懲りたら、口には気を付けなよ。あたし達は、あんたと同じ人間じゃないんだから」
人間だった頃の記憶はあるけれど、あたしは鬼人種の鬼人で、天国は鬼種の吸精鬼だ。おまけにダンジョンマスターだから、ヒト種を同胞だとは思えない。
まあ、この大陸では、同じヒト種でも、王侯貴族は平民を同じ人間だとは思っていないようだし、男も女を同じ人間だとは思っていないようだけれど。
そんな世界で育ったのに、ナディアは、よく男の天国に気持ち悪いって言えたよな。
「あ、そう言えば、同名の人間だっているんだから、名前だけでナディアの夫だとは言えないよな?」
『まあ、そうだな。……おい、エラル! 起きろ!』
『ん~……。ふわあ……。何だよ?』
起き上がって欠伸をした男が、天国の隣に映る。
何故か、女性用ネグリジェを着用していた。
「エラル様? その格好は一体……?」
『え? ナディア!? 見るんじゃない! 後、笑ったら、殺す! 憐れんでも、殺す!』
「はい!」
どうやって、殺すんだろうね? 場所も判らないだろうし、天国の許可も下りないだろうに。
ナディアは、慌てて画面が見えない位置に移動した。
「ふ~ん。綺麗な唇だね。だから、天国に気に入られたんだね」
『おい。こいつ、誰だ?』
天国はエラルを余程気に入っているのか、奴隷なのにぞんざいな口の利き方を許していた。
『俺の友達のダンマス。名前は……』
「紅。あんたの妻は頂いたよ」
『……まさか、同性愛者か?!』
「違う。まあ、良い尻だとは思うけどね」
「え?!」
ナディアが距離を取った。
違うって言ってんのにね~。
「話を戻すけれど、ナディアはうちのダンジョンで暮らす事になった。隷属の首輪は外したけれど、文句は無いよね?」
『あるに決まっ……ありません』
「どうせ、生身じゃ二度と会えないだろうしね。何か、言いたい事があるなら、今の内に言っておきな」
「私は、別に……」
「遠慮しないで、『あんたなんか大っ嫌いだ』とか言いなよ」
しかし、ナディアは躊躇いを見せる。
『エラル、お前は何か無いのか?』
『この格好の事は忘れろ!』
「無理です」
ナディアは正直に答えた。
『俺に逆らうのか!?』
「す、済みません!」
学習しないね。
まあ、今は隷属の首輪も無いし、エラルは此処まで来れないし、何も問題無いけどさ。
「じゃあ、切るよ」
『ああ』
数日後。
「皆。新しい仲間だよ。ミサンドル王国の王女」
「「え?!」」
王女と言う単語に、皆驚き、ざわめいた。
「見ての通り、妊婦だ。さあ、挨拶しな」
王女は十歳。子供は、間もなく生まれるだろう。
「私は、好きで此処に来たんじゃない! 無理矢理連れて来られて、一人じゃ帰れないから仕方なくなの
! ……私は幸せだったに! 勝手に被害者にしないで!」
王女は、後半を私に向けて怒鳴る。
「そうかい? 幸せなのかい。そりゃ、悪かったね。ところで、あんた、父親以外の男をどれだけ見た事があるんだい?」
「え?」
「こういうタイプの男は、見た事があるのかい?」
あたしは、美形に分類されるエラルと天国の写真を見せた。
王女は、見惚れた様に視線を釘付けにした。
「あんたが、自由意思で大勢の色んなタイプの男の中から父親を選んだって言うなら、何も言わないさ」
「……男は見た目じゃないわ! お父様は素敵な人よ!」
「何も知らないから、素敵に見える」
「馬鹿にして! 貴女がお父様の何を知っていると言うの!」
あたしは、【鑑定】で表示されるステータス(王女の父親の)から知った情報を口にする。
「そうだなあ……。あんたの母親を殺したって事とか」
「何を!? お母様は病死だと聞いたわ!」
「そりゃあ、あんたにはそう言うだろうね。後は、あんたの母親の父親だって事」
理解出来なかったのか、王女は困惑の表情を浮かべた。
「え?」
「あんたの父親は、実の娘にあんたを産ませたのさ。だから、父親であり祖父でもある」
「嘘! そんなの嘘! 悪魔は嘘付きだ!」
「それから、あんたの母親の母親は、あんたの父親の妹だって事だな」
「貴女の言う事なんて、信じない!」
あんまり興奮させてしまうと、早産になってしまうかな?
「まあ、そうだろうね。それで、どんな所が魅力的なんだい?」
「え? それは……」
王女は言葉に詰まり、愕然とした様子で立ち尽くした。
どうやら、先程エラルや天国を見た事で、国王に感じていた魅力が色褪せた様だ。
「ところで、若年出産のリスクを知っているかい?」
「リスク?」
「まさか、出産が命懸けだって事も知らない訳じゃないよね?」
いや、王女なら有り得るのか?
「命がけ?!」
「血管が詰まったりとか、出血多量とか、産褥熱とかで死ぬ事がある。若年出産だと、体の未成熟により、母子共に死亡率が高くなる」
この世界は、回復魔法があるとは言え、医学や衛生観念が発達していない。
「あの、でも、王宮なら回復魔法の使い手がいるのでは?」
ナディアが口を挟んで来た。
「この大陸のヒーラーは、女を治すのかい?」
「いや、それは……。でも、王女だし……」
普通は治してくれないらしい。
「王女でも治さないだろうよ。何故なら、こいつの祖母は、出産が原因で死んだんだからね」
これは、『メニュー』の『ヘルプ』で検索して知った事だ。
「でも、ダンジョンで産むなら、回復アイテムを使ってやる。助かる確率は高い」
「……それで、子供を生贄として捧げろとでも言うの!?」
「生贄なら、高レベルの兵士とか冒険者の方が良い」
レベルが高い方が、得られるDPは高いからね。
「貴女の言う事なんて、嘘ばっかりよ! お産が命懸けだって言うのも、脅しだけなんでしょう!?」
「赤ん坊の大きさと、出口の大きさを比較して考えてみたらどうだい? 広がってもこれぐらいだよ?」
あたしは手で大きさを示した。
「うそ……。嘘よね!?」
皆に訊くが、誰も嘘だと肯定しない。
「マスター。あまりストレスを与えるのは……」
眷属が、あたしを止めに入って来た。
「ああ。そうだね。言い過ぎた」
『マスター! 王国軍と思しき集団が、近付いて来ます!』
謝ろうとした時、別の眷属からの館内放送が入った。




