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ダンジョンマスターは神様です  作者: ひつじかい
番外編:アイリス大陸
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【女性保護区】

◇パラダイ王国・王都◇


 エラルが天国(あまくに)のダンジョンに出発した、二週間後の事。

 エラルの妻ナディアは、エラルの親族の手によって、火にくべられようとしていた。


 昔、ある国の王女が婚約者を病で失った後、新たな婚約者を決められた。

 しかし、彼女は、『貞女二夫にまみえず』と拒んだ。

 だが、娘が父に逆らう事は許されない。

 だから、彼女は自ら死を選んだ。祭事の焚火に飛び込んで。


 以来、『夫を失った閉経前の妻は、火に飛び込んで後追い自殺するべき』と言う圧力が、多くの女の命を奪って来た。

 自らの意思で後追い自殺した女など、数えるほどしかいない。殆どが、自殺に見せかけた殺人である。


 さて、この大陸に、非処女と結婚したがる男など居るのか? と疑問に思う事だろう。

 ユニ教では、夫を亡くした女性は、夫の親族が再婚相手を見付けて嫁がせてやるか、夫の親族が形式だけでも結婚して面倒をみなければならないと教えているのだ。

 それを不満に思う男達にとって、王女の一件は渡りに船だった。



 ナディアは、出来る事なら恨み辛みを叫びたかった。

 しかし、咽を焼かれている為、それは叶わない。

 為す術も無く炎に向かって突き飛ばされたナディアを、何かが鷲掴みにした。

 そのまま空に飛び上がったそれを見上げ、ナディアは胸中で悲鳴を上げた。

 それは、牛さえも掴めそうな巨大な鳥型の魔物だった。




◇ミサンドル王国・ダンジョン【女性保護区】◇


「お帰り」


 あたし――一色(いっしき)(くれない)。鬼人――は、戻って来たグリフィンにそう声をかけた。

 此処、ミサンドル王国は、パラダイ王国からローディー大砂漠を越えた大陸南部の東側に位置する。


「ようこそ。此処は、ダンジョン【女性保護区】。男子禁制のダンジョンさ」


 攫って来た女性を下ろしてダンジョン内の巣に戻ったグリフィンを見送り、あたしは女性にそう説明した。

 しかし、女性は怯えているのか何も答えない。


「あんたには、四つの選択肢が有る。一、自力で元居た場所に戻る。二、自力で余所の街に行く。三、このダンジョンで暮らす。四、どれも嫌なので自殺する。好きなものを選びな」


 女性は、口をパクパク動かすが、声は出さなかった。

 疑問に思い、一応、ステータスを確認する。


 ナディア Lv1 誘拐婚の被害者 状態異常:女性器欠損・発声不可(咽の火傷)


 この大陸の既婚女性の七割ぐらいは、誘拐婚の被害者らしい。

 それから、成人女性の九分九厘は女性器切除されているそうだ。

 で、咽の火傷? 何が遭ったのだろう? もしかして、寡婦焚死(かふふんし)か?


「これを飲みな」


 あたしは、回復薬を差し出した。

 しかし、ナディアは、毒を警戒している様で飲まない。


「良いから、飲め」


 あたしは、無理矢理飲ませてやった。


「ゲボッ! ゴホッ! ゴホッ! 何……する!」


 声が出る事に気付いたナディアは、目を丸くした。


「え? ゴホッ。……治ってる?」


 そう呟いた後、何かに気付いた様に自身の下半身に目を落とした。


「痛みが消えただろう? 其処も治っている。さっき飲ませたのは、欠損再生効果がある回復薬だよ」

「そんな高価な物を……。何を企んでいるの!?」


 礼も言わないが、相手が『悪魔』では当然だろう。

 ユニ教での悪魔は、『ダンジョンを造り住み・魔物を使って人間を害し・神に敵対するもの』だ。

 信者を減らす手伝いをさせられるとでも、思っているのかね?


「企みか。強いて言うなら、男から女を取り上げる事、だね」

「女には危害を加えないと言うの? 信じられないわ!」

「別に、信じる必要は無いさ。言っただろう? 選択肢があると。ダンジョンで暮らすなら、衣食住は保証するよ。好きなものを選びな」


 自力で街へ向かうのは難しいよな。魔物や盗賊に遭遇する可能性が高いからね。

 でも、ダンジョン(悪魔の巣)で暮らすのが嫌なら、そっちに賭けるだろう。


「選べなかったら?」

「重大な選択だからね。其処で、じっくり考えると良い。一ヶ月でも一年でも」


 やがて、ナディアは結論を出した。


「ダンジョンで暮らします」



 あたしはナディアを連れて、ダンジョン内を案内した。

 地上階には、グリフォンの巣とマンティコアの巣、地下のメインダンジョン・サブダンジョンへと続く階段がある。

 Lv1のナディアをメインダンジョンに案内しても危険なだけで意味は無いから、サブダンジョンへの階段を降りた。


「地下一階は、共有スペース。此処は、眷属詰所」


 カウンターの向こうに、角が生えた眷属達が見える。


「喧嘩とか何か問題があったら、眷属に言いな」

「……はい」


 怯えた様子で、ナディアは答えた。


「此処が、トイレ」


 あたしは使い方を教えた。

 ナディアは、トイレットペーパー等に驚いていた。


「忘れたら、眷属に訊きなよ」

「はい」


 その隣に移動する。


「此処は、ランドリー」


 使い方を説明。

 また、忘れたら眷属に訊くように言って、次に行く。


「此処は、ラウンジ。この機械で、水とお湯とホットコーヒーが飲める。使い方は(中略)。これがミルクで、これが砂糖。あ、無料だから」

「無料?!」

「言っただろう? 衣食住は保証すると」

「でも……」


 あたしは、構わず次の説明に移った。


「此処が食堂。この機械で、水とお湯と熱い緑茶が飲める」


 厨房についても説明する。


「食事の支度は、当番制。使い方は、その時に教える」

「はい」

「後、共有スペースの掃除も当番制だから。何時当番かは、此処に張り出されている」


 あたしは、壁のコルクボードを指差した。


「字は読めるか?」

「いいえ」

「自分の名前は?」

「読めません」


 アイリス大陸の識字率は、とても低い。


「じゃあ、眷属に訊きな」

「はい」


 次に行く。


「此処は、大浴場」


 実際に浴場に入らせて、利用の仕方を教えた。



「お風呂に入ったのは、初めてです。暑……」


 風呂から上がって支給品のルームウェア(ワンピース)を着たナディアが、そう呟いた。

 普段は、行水だったそうだ。


「仕事は、カカオの木の世話をして貰う」

「はい」

「でも、やりたくなければやらなくて良い」

「え?」


 意外な言葉だったのだろう。ナディアは、疑問の声を上げた。


「仕事も掃除も炊事も、やらなくても衣食住は保証する。でも、やれば給料を渡す。売店で買い物をしたかったら、仕事をした方が良い」

「売店?」


 あたしは、廊下に出て売店の前に移動した。


「此処が売店だ。支給品以外の服が欲しかったら、此処で買える。他に、お菓子や化粧品など、色々売っている」


 あたしは、チョコレートケーキを指差した。


「これは、カカオを原料としたチョコレートを使ったケーキだ」

「カカオの……。あの。これ、安いですけど、砂糖とか高価な材料は使っていないんですか?」

「使っているが……。まあ、仕入先の国では、大量生産しているから其処まで高価では無いからな。ダンマスに輸送費用とかは必要無いし」


 何故必要無いのかと思ったのか、ナディアは首を傾げたが、質問する事は無かった。

 まあ、悪魔だし。で、片付けたのかもしれない。


「あ……」

「何だ?」


 質問かと思ったが、ナディアの答えは違った。


「その……。月の障りが……」


 異世界なんだから、排卵・妊娠・出産をコントロール出来るみたいな違いがあっても不思議じゃないのにね~。


「普段はどうしているんだい?」

「当て布を、ふんどしで押さえるんです」

「そうなのか」


 因みに、アイリス大陸の女は、普段は腰巻を使用している。

 これは、ナディア以前に保護した女達から知った。


「これが、支給品の生理用品だ。使い方は……」



 ナディアを部屋に案内し、部屋を後にした頃には、明け方近くなっていた。

 元々、ナディアが此処に着いたのが夜中だったからね。

 まあ、鬼人は、人間と違って徹夜しても問題は無い。


 このまま女達を攫い続けたら、この大陸の男共はどうするんだろうかね?

 取り返そうとする、若しくは、討伐しようとするだろうか?

 それとも、他の大陸から女を攫って来るのだろうか?

 十中八九、後者なんだろうね~。

 その内、港辺りに見張りでも置こうかね。

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