天国は奴隷を手に入れた
BL。
女装。
◇聖地・ダンジョン【理想郷】◇
斥候が食べきれなかった料理や酒を天女達と片付けていると、見知らぬ青い髪の男がワイングラスを傾けている事に気付いた。
「誰だ?!」
おかしい。ダンジョンに侵入者があれば、気付く筈! 現に、斥候には気付いたのに!
何て、気配の薄さだ。目にしているのに、実在感が無い。
まるで、蜃気楼のようだ。
「我が名は、ロードアーク。アディアの創造神にして、ダンジョンマスターの神祖なり」
ロードアーク様の声は、疑う事を忘れさせる。
「此方には、どういった御用件で……?」
尋ねると、ロードアーク様は別の酒に手を伸ばして口に運んだ。
「美味」
え? 酒飲みに来たの?
「我が眷属のユニコーンを、此処に放牧せんと連れて来た」
ロードアーク様が視線を動かしたので其方を見れば、数頭のユニコーンが木の実を食んでいた。
その中に一頭だけ小さいのがいる。子ユニコーンか。
「うちに放牧する理由をお伺いしても?」
「この地に、【ユニコーンの森】が存在していた事は、知って居るな?」
「はい」
「あれ等は、元は其処に居ったのだ」
滅ぼされた故郷が、今は他人のものになっている。
それは、どれほど辛い事だろうか?
「跡地に新たなダンジョンが生まれ、食欲をそそる木の実が植えられた。なれば、食わせてやろうと思うてな」
故郷に美味い料理を出す店が出来たから、連れてってやろうって感じか?
「そうですか。あ、でも、ユニコーンって、獰猛だとか非処女を殺すとか聞きますけど……」
「其れは、ユニ教徒の誤解と偏見」
「え?」
「【ユニコーンの森】のユニコーンは、ダンジョンのモンスター。侵入者が襲われるは、必定」
「確かに」
しかし、良いのか? 獰猛な生き物が聖獣で?
「然て、ユニコーンが大人しく従う少女を見、処女には大人しいと誤解」
「その少女は、ダンジョンマスターだったんですね」
「然り」
「で、処女に対して大人しいなら、非処女は嫌いだろうと」
「左様」
場所が聖地じゃなくて、ユニコーンが聖獣じゃなかったら、その誤解と偏見は無かったのだろうか?
数日が経った。
ユニコーン達は、ロードアーク様が設置した彼等専用の転移陣で行き来している。
その中の一頭――子ユニコーン――が、何故か俺を観察するように見る。
インキュバスだから警戒されているのか? 馬に手を出す趣味は無いんだが。
いや、それなら、サキュバスも警戒されるよな? 吸精鬼は、同性もいけるんだから。
それを知らないのか? それとも……、ロードアーク様以外の男を初めて見たとか?
「マスター。侵略者です」
「そのようだな。今回は六人か」
天女が言う通り、地下ダンジョン入り口に六人の人の気配を感じた。
恐らく、斥候の第二陣では無く討伐隊だろう。
それを証明するように、彼等のレベルは50を超えていた。
そして、一人Lv60台の男がいる。
エラル:Lv65 サピエンス 30歳 冒険者
普通ならば、此方が負けるだろう。
しかし、全員男なので、ほぼ確実に勝てるな。
「何だ、このダンジョンは?!」
新たに見付かったダンジョンを討伐に訪れたエラル達は、かつてこの地に在ったダンジョンとの違いに困惑していた。
そのダンジョンは、地下だと言うのに森が広がっていたが、此処は、果樹と花卉がメインの様で、見た目華やかだ。
だが、問題はそこでは無い。
料理と酒が並ぶテーブルと、年頃の少女達。
こんなあからさまで美味しそうな罠は、初めてだった。
エラルの仲間は、フラフラとそれに向かって行く。
「おい! 止めろ! 罠だ!」
エラルが声を上げるが、誰も反応しない。
「チッ! 魅了系か!」
エラルだけは、【魅了無効】・【誘惑耐性】があるので正気を保てていた。
走りながら剣を抜き、少女達の一人に斬り付ける。
「無駄です」
その言葉通り、少女には傷一つ付かなかった。
「なっ?! どうなっている?!」
エラルは、吸精鬼の特性を知らなかった。
『そいつ、俺好みだから、生かしておいて』
「はい。マスター」
斬れた服から覗く白い肌に、エラルの目が引き付けられる。
【誘惑耐性】では、100%は防げないのだ。
目の前の少女が悪魔の眷属と判っていて、手を伸ばす。
【誘惑】に逆らえるほど、エラルの精神力は強くなかった。
「はっ?!」
目を覚ましたエラルが、ガバリと身を起こす。
「気が付いたか」
天女達を侍らせて座っていた俺は、そう話しかけた。
「お、お前は……!」
エラルは、俺がダンジョンマスターだと気付いたのか、武器を身に着けていた場所に手をやり、自身の格好に気付いた。
「な、何だ、この格好は!?」
そりゃあ、驚くよな。女装させられていたら。
同性愛者を死刑にするユニ教では、異性装も許されない。
あ、そうそう。この大陸に於いては、一人前の男は髭を生やしている。
何故なら、ユニ教が、一人前で無い男に髭を生やす事を禁じているからだ。半人前だと誤解されたくないので、生やすと言う訳だ。
では、どういう人間が半人前とされるのかと言えば、障害者や生まれつき病弱な者、そして、奴隷等が半人前とされる。
「何故、女物の服なんて着せるんだ!」
「何故って……。言わずとも解るだろう?」
俺がそう言うと、エラルは怯えたような表情に変って大人しくなった。
「そ、そうだ! 代わりに妻を……。処女ではないが、美人だぞ!」
暫くして、良い案を思い付いたとばかりに、そんな交渉を持ちかけて来た。
他に、身内に処女は居ないらしい。
「お前等にとって、女は男より劣っているんだよな?」
どうやら、俺は馬鹿にされているようだ。
歩いて距離を詰めようとすると、エラルは後退った。
「あ、ああ」
俺はエラルを壁に追い詰め、壁ドンする。
「劣っているモノが、優れているモノの代わりになるかよ!?」
翌日。
エラルに食事を与える。
「腐った豆だ……」
エラルは、先ず納豆に目を留めて呟いた。
「腐って無い。発酵だ。納豆と言う」
「要らん。後、生卵と生魚も要らん! 危険な物を食わせるな!」
エラルは、黄身だけの生卵と刺身を指差して怒鳴る。
「豚肉まである! 何なんだ!? 腹を壊して死ねと言うのか?!」
「生卵も生魚も豚肉も、工夫次第で安全に食べられる。勿論、絶対では無いが、それは他の食材にも言える事だ」
「人間は、悪魔や鬼とは違う!」
「人間の話をしているんだがな」
俺は溜め息を吐いて、天女達に納豆等を除けさせ、チーズトーストと茹で卵と煮魚と牛肉のステーキを出してやった。
「な、何だこれは? これは本当に牛肉か?」
悪魔が出した食事だからと逡巡していたエラルだったが、空腹と美味そうな匂いに耐えきれなかったようで、ステーキを口にして驚愕の声を上げた。
「これは、悪魔の幻覚に違いない!」
「違うぞ。異国で品種改良され、食用として良い餌と環境を与えられて育てられた牛だ」
「異国で? 馬鹿な! 我が国より優れた国など、あるものか!」
世界の国をどれだけ知っていての発言なのか?
「お前、それ、エルフに言ったら鼻で笑われるぞ」
俺がそう言うと、エラルは恥ずかしげに顔を赤くしてむくれた。
エルフが自分達より優れている事は、否定出来ないらしい。
まあ、それでも、エルフの女よりは優れていると思っているんだろうが。
それから数週間後。
今度は、アリコーン騎士団がやって来た。




