忍び寄る悪意
本日二度目の更新です。
◇ヒトリ島・22日目◇
翌日。
「今日は、じゃが芋を植えます」
「おお」
マツは釣りへ。私とカシはじゃが芋を植える事にした。
先ず、地上の一部を100DPでダンジョン化。
次に、【耕作】で其処を畑にする。
最後に、10DPで生のじゃが芋を交換して、カシに渡す。
「じゃあ、これ植えて水やっておいてね。私は海に潜るから」
「植えたら何をすれば良いんだ?」
「カシは魔法使いだからね。いざという時魔力減ってても困るし……。じゃあ、釣りして貰おうかな?」
合計90DPを消費して、マツが使っているのと同じ釣り道具セットを交換した。
これで、残りは670DP。
「蟹、獲ったどー!」
【水中呼吸】を使って蟹を捕まえた私は、水面に出て声を上げた。
「良かったな、マスター」
「うん。雨降りそうだね」
波が出て、空が曇り始めていた。
「そうだな」
「釣り止めて、ダンジョンに入ろう」
「おう」
私は、カシや『たまご』達にも声をかけてダンジョンに戻った。
雨の日の趣味が欲しいね。
ビワのジャムを作りながら、私はそう思った。
残り、710DP。
「マスターは、酒は飲まねえのかい?」
マツと一緒に焼酎を水割りで飲んでいるカシが、そう尋ねて来た。
お酒は二十歳から。って、此処異世界だから、地球の法律は関係無いんだった。
「興味無いから」
「ふ~ん?」
「美味いのになあ」と、二人は不思議そうに話をしていた。
◇ユティ神国東南部・リゼル地方◇
ユティ神女は、神国の都市部や村里をダンジョン化しているが、人の居ない山奥や島は放置していた。
その放置していた場所に、彼女はこの一月以内に、三つのダンジョンを確認していた。
その内の二つ――ヒトリ島以外のダンジョン――を、彼女は気紛れに配下にしていた。
多量のDPを貸し与えて恩を売り・他のダンマスとの交流を禁じ・ある事無い事吹き込んだら、あっさりと心酔した二人を、神女はこっそりと嘲笑う。
「神女様」
【プリンセスキャッスル】と名付けられたダンジョンを訪れると、オークの醜い女の姿をした邪神が、敬愛の目で声をかけて来た。
「姫。貴女と王子に頼みがあるのよ」
「何なりとお申し付けください!」
頼られた姫は、嬉しそうな声音で請け負った。
「邪神と化したダンジョンマスターを一人、殺して欲しいの」
「え……。でも」
自分の強さに自信が無い姫は、尻込みする。
「大丈夫よ。貴女に、これを」
神女は、姫に聖剣を差し出した。
「これは……! わ、私に聖剣を?! 光栄です!」
まるで、少女のように無邪気に喜ぶ姫。
「この大任。必ずや果たして見せます!」
「頑張ってね。見事やり遂げた暁には、貴女を美しくしてあげる」
「本当ですか!? 神女様、一生ついて行きます!」
神女は微笑んでその場を去り、離れた場所に来ると大笑いした。
「何て馬鹿なのかしら! あはは! 直ぐに殺さないで良かったわ! こんなに笑えるなんて!」
神女は満足するまで笑った後、南部のカヴァン地方にある【王子城】と名付けられたダンジョンへ向かった。
◇ヒトリ島・23日目◇
今日も雨である。
マツとカシは、ボス戦部屋で戦いの練習をしている。
私は、大きめの鍋を40DPで交換し、20DPで蟹を交換して茹でていた。
後、650DP。
茹であがった蟹を吸収して、それを20DPで交換。
蟹フォークも10DPで交換し、食べてみる。
「あんまり、美味しくないな……」
ゆで過ぎたのか・美味しくない種類の蟹なのか?
まあ、不味いって訳じゃないし、全部頂きましょう。
「はい、蟹」
晩酌している二人に、蟹を出してやる。
残り、580DP。
「良いのか、マスター?」
「いや~。蟹は独りで食べるには罪悪感がね」
私の返答に、二人は不思議そうにしていた。
◇ユティ神国東南部・リゼル地方◇
転生初日。
河飯姫は、美しかった前世と違って醜い女に転生した事を嘆いていた。
そこへ現れたのが神女である。
彼女は先輩として色々な事を教えてくれたばかりか、多額のDPを貸してくれた。
それを使って、自分が住むに相応しい城を創ったが、しかし、自分の容姿が相応しくなかった。
姫は、ダンジョンマスターになったから必要な事だと言う建前で、美しい女が妬ましいと言う本音を自分に隠し、近くの街から美しい女を攫っては殺してDPにした。
人殺しなんてしたくないと思っていると自分の心を誤魔化し、何の躊躇いも無く殺していた。
そんな彼女にとって、同じような境遇の城野王子は、共に理不尽な現実に立ち向かう同志であり、きっと元の様に美しくなれると励ましてくれる支えだった。
そして、同じハードモードでありながら一国の女王に上り詰めた神女は、憧れであり目標だった。
彼女の親切を疑った事は無い。何故なら、彼女が姫に親切だからだ。
では、王子は神女をどう思っているのかと言えば、やはり微塵も疑っていない。
それは、彼女が美しい女性だからだった。
美しい女性に悪人はいない。それが彼の信条だ。
彼もまた、前世ではイケメンだったが今世では醜くなっていた。
前世では群がる女性にうんざりしていた彼だったが、今ではそんな事が無いので苛立っていた。
和風の城が好きな彼は、神女から貰ったDPでそれを創ったが、彼は大奥に暮らす女性が足りないと思った。
だから、彼は近隣の街から美しい女性を攫った。
今は嫌がっている彼女達だが、直ぐに自分の心の美しさに気付いて愛してくれると信じている。
モテていた前世と顔こそ違うが、性格は変わっていないのだからと。前世では人を攫ったり等はしなかったと言う事は、意識の外だ。
そんな彼にとって、姫は前世からの大切な人だ。
ただ、それは恋愛感情では無く、どちらかと言えば猫可愛がりだった。
旅の準備をした王子は、神女から借りたDPで設置しておいた転移陣で【プリンセスキャッスル】へと移動した。
「来てくれたのね、王子」
神女から王子も同行させると聞いてはいたものの、不安に思って待っていた姫は、喜んで王子を出迎えた。
「勿論だよ、姫」
「出発は明日にしましょう。今日は泊って」
「ああ。ありがとう」
メルヘンチックな城は王子の好みではないが、そんな事はおくびにも出さない。
「無辜の民の命を奪い、神女様の命を狙う邪神。必ず殺しましょう」
自分も罪の無い人の命を奪いながら、そんな事を臆面も無く口にする姫。
彼女にとって自分の殺人は正義だから、即ち被害者は悪だった。
「ああ。当然だ」
姫の行いを知りながら、王子は微笑む。
美しい女性だった姫は善人だから、殺人を行っても悪ではない。悪いのは、彼女を醜くした神なのだから、姫に罪は無い。
被害者が美しい女性でも、彼にとって一番大事な女性は姫なので、上記の考えは揺るがない。
そして、自身の悪事もまた、己を醜くした神が悪いのだから、悪事だとは思っていなかった。
「これが終われば、元の美しさを取り戻せる。……長かったな」
「ええ」
まだ一ヶ月も経っていないが、二人にとっては充分長かった。
「二人の明るい未来に。乾杯」
「乾杯」
二人は微笑んでグラスを鳴らし、注がれた酒を飲み干した。
◆所持DP◆
580P
◆覚えた魔法(現在Lv6)◆
Lv1:浄化・着火・散水 Lv2:土掘り・潜水・衣類乾燥
Lv3:鑑定・耕作 Lv5:水中呼吸
◆所持品◆
懐中電灯・筏(偽装用)・木の蓋(偽装トイレ用)
【小屋】(一部)
シャベル・草刈り鎌・釣竿・餌・バケツ・タオル・タモ・盆ザル
【マツの部屋(偽装)】
干し草・毛布・オイルランプ(植物油入り)・布の袋・風呂敷
【マツの部屋】
解体ナイフセット・ミスリルの胸当て
寝袋・マット・保温シート・電池式ランタン・米焼酎・粟焼酎・コップ
【カシの部屋】
寝袋・マット・保温シート・米焼酎・粟焼酎・コップ
【多目的部屋】
テーブルセット(椅子四脚)
【ペット部屋】
猫用ベッド四つ・餌箱
【コドクの部屋】
寝袋・マット・保温シート・ラグ
ミニ七輪・オガ炭・電子レンジ(魔力で動く)・小型冷蔵庫(魔石で動く)
包丁・まな板・小型の鍋・小型のフライパン・お玉・小型の土鍋・卓上コンロ(魔力で動く)
食器セット(三人分)・ボウル・ピッチャー(飲料水入り)
塩・醤油・食用油・バター・味醂・砂糖・料理酒・酢・味噌(だし入り)
カラーボックス・ハサミ・ダイビングマスク
◆眷族(下記以外の虫は省略)◆
スズメバチ(群):眷族になった事で毒がパワーアップしている。
パラポネラ(群):眷族になった事で、毒がパワーアップしている。
キラーホーネット:スズメバチ型モンスター。幼児大。
コドク:眷族になった事で、メスは毎日卵を産むようになった。
ローグゴブリン:モンスター化したゴブリン人。
ローグオーク:モンスター化したオーク人。
ローグオーガ:モンスター化したオーガ人。
◆食料リスト(一部省略)◆
魚(塩焼き・干し魚・刺身・バター焼き・煮付け)
貝(生・バター醤油焼き)・蟹(茹で蟹)
肉(牛・豚・鶏)(ステーキ・串焼き)
コドクの卵(生・固茹で・卵焼き)
蕪・じゃが芋・にんにく・炊いた粟・ご飯・梅・ビワ・小豆
ワカメ(酢の物・味噌汁)