5「二人のその後 僕のなかのもやもや」 【注意】ラブラブのエンディングを期待する人はスルーして
こちらのアフターストーリーは、溺愛ハッピーエンド路線の結末ではありません。文字通り、読むとなんだかモヤモヤするやつです。2人が結ばれた後の糖度の高いイチャラブ路線の話を期待していた人はスルーしてください。
本編をお読みになられて「何、このメンヘラのクソ女。こいつ性格わりぃなー。早く気がつけよ主人公」というような読後感を持たれた方は、このままお進み下さい。ちなみに『ざまぁ』はありません。
「ということだったんですよ、来宮先輩」
一緒に美術展に行った後、お茶をしている時に来宮先輩から「最近彼女が出来たっていう話だけど、どうなの」と訊かれて、愛華のことを語った。
話しながら、愛華が付き合おうとしていた先輩と旅行に行く前に再会できて誤解が解けたことは、本当に奇跡のようなことだったと実感した。
そんな 愛華こそが運命の人だと思い、僕は愛華を語る自分の言葉に酔った。
「ふーん。そうなんだ」
少し頬を紅潮させて熱っぽく語る僕に対して、来宮先輩は興味なさそうな顔をして、横を向いた。
「あれ、来宮先輩って恋バナには興味が無い人だったんですか」
「うん、まあ、興味のあるなしではなくて、どうなんだろうな~って思って」
「どういうことですか」
来宮先輩は向き直ると、メガネの奥から深い色をした目で僕のことを見つめた。
「それ訊いちゃうの?」
僕はなんとなく胸騒ぎがして、息が少し苦しくなったような気がした。さっきまでの愛華との再会とラブラブな日々を語る高揚した気分と多幸感が急に萎れてきた。
「何か先輩の気に障るようなことを言っちゃいましたか」
「そうじゃない」
「じゃあ、何が?」
「いいかい。この話を聞いたら、君はもう後戻りできなくなるかもしれないよ。今君が見ている景色が変わってしまい、これからの君の人生も変わっちゃうかもしれないよ。それでもいいの?」
「それは何についての話ですか」
「君とその愛華さんという人の関係についてだよ」
「聞きたいです」
「なら話すけど、後で文句は言わないでね」
「分かりました」
「まずひとつ訊いていいかな。愛華さんは君に謝った?」
「謝る? 何をですか?」
「じゃあ、付き合う前に君に愛華さんが謝ってはいないということで間違いないんだね」
「はい」
「それじゃあ、君は愛華さんを許したのかい?」
「許す? 何をです?」
「例えば先輩とお試しで付き合い、君のことを好きなのに二人で旅行に行き、初めてをその先輩に捧げようとしたこととかだよ」
「いや、だって僕らはお付き合いをしていたわけではないし、愛華はあの合コンの晩、お互いの気持ちが分かった時点で、僕の目の前で、すぐにその先輩に電話して別れたんですよ。浮気でもなんでもない」
「じゃあ、誰が悪かったと思っている」
「みんな僕のせいです。僕が愛華に誤解されるような言い方をした上に、ちゃんと告白できず、愛華を遠ざけていたからです」
「それは君の考えかい?」
僕は、ちょっと考えた。
「あの再会した晩に、そう愛華に責められました。確かに愛華の言う通りだと思い、謝ったら、愛華は全てを許して僕を受け入れてくれました」
「やっぱりそうだったんだね」
「何か僕に問題でも?」
「あると思うよ」
「何が問題なんですか」
「これを聞いたら、君のこれからが変わってしまうかもしれないよ」
「気になります」
「なら言うけど、告白しようとした時に思わせぶりに『好きな人がいる』と言ったのは愛華さんの方が先だよね。その後、互いの誤解を解こうともせず、連絡を段々しなくなったのは、お互い様で、君一人のせいじゃないよね」
僕は、まだ愛華と結ばれた喜びにいっぱいで、そんな風に過去を振り返って検証してみたことは無かった。
「まあ、いい。それで君は愛華さんからの電話を着信拒否にしたり、メッセージをブロックしたりしていないよね」
「はい」
「スマホで電話番号やメールアドレスやメッセージアプリのアカウントを変えたりもしてないよね」
「高校生の時のままです」
「だとすると、大学受験が終わった時点で、愛華さんの方から君に連絡をすることはできたわけだよね」
「はい」
「愛華さんがそんなに君のことを愛していて、誰とも付き合わないというほどなら、自分から君に連絡してもよかったんじゃないのか」
僕は大学に入学してから愛華から電話が何回あったろうかと思い出そうとした。
「だって、君への強い思いがあるから誰とも付き合わずにいたんだろう。ならそのままだと、愛華さんがずっと一人でいることになるよね。でもそれって考えられる? 普通に君に連絡を取ることができるのにさ」
僕は返す言葉がなかった。
「お試しとは言え、君が好きなのに半年も他の男性と付き合い、そして二人で旅行に行く計画まで立てていたんだろう」
来宮先輩は少し優しい目をした。
「まあ、そこは確かに君の気持ちが分からず、君とは付き合っていなかったんだからしょうがなくもないけど、それでも、そういうことになったのは彼女の意思である以上、彼女から君への謝罪があってもよかったんじゃないかな」
僕はあの合コンの晩のことを思い出した。
『もう、遅すぎるよ! そういうところだよ。ゆうくんの悪いところ』
「好きならしょうがないけど、色々問題あるよ、その娘。結局、君のことより自分のことが大事で、押されると流されやすく、何かあれば他人のせいにして責める性格だよね。それが分かっていて、それを受け入れて許しているのならいいけど、無自覚だったら、ホントに君ヤバイよ」
その時、ポケットのスマホが震えた。画面には【愛華】と表示されていた。
「先輩、すみません、電話に出ます」
僕は席を立つと、店の外に出た。
「どうしたの」
「ゆうくんが今、何しているかなって思って」
「大学のサークルの活動」
「ゆうくんはどんなサークルに入っているの」
「現代美術鑑賞会」
スマホの向こうの愛華の雰囲気が変わった気配がした。
「そういうサークルって男子はあまり入らないよね。どうしてそんなサークルに入ったの」
「高3の頃からタブレットとかで絵を描いて、投稿することにハマり始めたんだよ。それで、創作の参考にするために現代美術について研究するために入会したんだ」
「男子は何人くらいいるの」
僕は言葉に詰まった。現代美術鑑賞会は5人しかメンバーはおらず、男子は僕だけだ。なんだかそれを言うのは憚られたが、それでもここで愛華に嘘をつくことも嫌だった。
「僕だけだよ」
「なにそれ!」
愛華の声が厳しくなった。
「今、大学にいるの?」
「いや、美術展を見た後、お茶している」
「それ、女性と一緒にだよね」
「ああ」
「何人なの」
「えっ?」
「何人でお茶しているの?」
「ええと、今日は欠席が多くて、僕ともう一人」
「それじゃあ、女と二人で美術展を見て、お茶しているってこと」
「……」
「それデートじゃない。ゆうくん、浮気だよ」
「いや、浮気じゃない」
「彼女じゃない女性と二人でそんなことして、私の気持ちを考えなかったの?」
「ごめん」
「そういう鈍感なところだよ。ゆうくんのダメなところ」
「すまない」
「ねぇ、もうすぐに帰ってきて」
「でも、それは先輩に……」
「私のこと嫌い?」
「いや」
「部屋で待っているから」
電話がそこで切れた。
僕は席に戻った。
「電話は彼女からかい?」
来宮先輩が僕の顔を覗くようにして言った。
「はい。それで、すみませんが今日はこれで……」
「ああ、いいよ」
僕と来宮先輩は無言でカフェを出た。
外に出ると来宮先輩は空を見上げた。
「雨、降りそうだね」
「はい」
「じゃあ、また」
僕と来宮先輩はカフェの前で別れた。
帰り道で、僕は来宮先輩に言われたことと、さっきの愛華との電話でのやり取りを思い出した。
雲は厚くなり、空は暗くなってきた。
ポツリポツリと水滴が落ちてきた。
僕は小さいため息をつくと、駅に向かって足早に歩き始めた。
愛華と付き合い出してから初めて経験するモヤモヤとした気持ちだった。
読者様からご感想をいただき、それに刺激されて書きました。まあ、賛否両論あるかと思いますが、現実的にはこういう展開もあるかと思います。
溶けそうに甘い物語をご希望の方にはアナザーストーリーの「その後の話」をご用意する予定です。
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