2 失敗した告白
思いがけず愛華に再会し、僕の記憶は、あの高校3年の春へとプレイバックした。
愛華は近所に住んでいて幼稚園から高校まで同じ学校に通った。家族のような友人であり、僕の初恋の人でもあった。
愛華と僕はどこにゆくのも一緒で、休みの日も共に過ごした。互いの家で晩御飯を食べ、家族で旅行にも行った。
実は僕のファーストキスの相手は愛華だった。だがそれは幼稚園の時の事故のようなものだった。それでもキスをしたことは事実だ。
だから愛華との関係は普通に付き合っている高校生以上の親密度だった。僕たちが二人が、まだしてないことと言えばセックスくらいだ。
そして、中学に入ると僕は愛華を単なる幼馴染ではなく女性として意識し始めた。しかし、愛華が自分のことをどう思っているかは分からなかった。もし告白して振られたら、家族のような居心地のよい関係が終わってしまうことを僕は恐れてずっと告白せず、幼馴染の友達のままでいたのだ。
だが、高校3年生の桜の季節に僕は愛華に告白することを決意した。
僕は大学は理系を希望していた。愛華は文系だった。学校でのクラスも授業も文系コースと理系コースに別れるし、大学受験の勉強で休日もこれまでのように会えず、予備校等に通うことになる。高校を卒業すれば互いに別々の道を歩むことになる。
愛華は正直言ってモテる。これまでも、いろんな奴に何度も告白されている。幸いその全てを愛華は断っていた。
しかし、受験勉強が終り、大学生になったら、そうはいかないだろう。愛華ならすぐにも彼氏ができるであろう。そうなる前に行動をしないといけないと思った。
春休みの終りに愛華を近所の公園に呼び出した。
約束の時間よりも早く公園に来た。
公園の桜の樹の間を春風が吹き抜け、散ってゆく桜の花びらが春に舞う雪のようだった。
「ごめん。待たせちゃった?」
白いカーディガンをはおった愛華が笑みを浮かべながら僕を見つけると小走りに駆け寄ってきた。
「いや、僕も今来たばかりだ」
嘘だった。本当は30分以上も前に来ていた。
いざ愛華を前にすると、臆病な自分が顔を出した。
(もし断られたらどうしよう。この心地よい関係まで失ってしまうかもしれない……。それに愛華が今誰とも付き合っていないという保証はない)
僕は急に怖じ気付いた。だから核心を突く前に変な予防線を張ってしまった。
「愛華、その……今、付き合ってる人とかいる?」
愛華はうつむいた。そして、ほんのりと頬を染めながら、小さく、けれどはっきりとした声で言った。
「付き合っている人はいない。けど……好きな人は、いるよ」
その一言が、鋭い刃のように僕の胸を貫いた。 あぁ、僕じゃない誰かが彼女の心にいるのだ。僕が知らない間に、彼女は手の届かないところへ行ってしまっていたのだ。
絶望が僕を支配した。
「そう言うゆうくんはどうなの?」
僕は作り笑いを顔に浮かべた。
「付き合っている人はいないけど、好きな人はいる」
正直な自分の今の気持ちを吐露した。僕の好きな人は愛華だ。
愛華は驚いたような表情を浮かべた。
「嘘、それ誰?」
『それは君だよ』なんてとてもではないが言えなかった。
そんなことを言えば『ごめんなさい。私、別に好きな人がいるの』と言われて振られてしまうのは目に見えていた。
「ごめん。言えない」
「そっか……」
愛華はなぜだか動揺しているようすだった。
「だよね。私達も来年は成人するんだよね。ゆうくんに好きな人がいても当たり前だよね」
僕は正直なところ愛華が何を言いたいのかよく分からなかった。それに、愛華に好きな人がいると聞いて、頭の中が真っ白になっていたからだ。
愛華は下を向いてしまった。
「……ごめん、ちょっと急用を思い出した!」
そう言うと愛華は逃げるようにその場を走り去った。
僕はそのまま桜の花びらが舞う公園に取り残された。
それからの僕は愛華と一緒にいることが苦しくなった。
愛華には好きな人がいると思うと、愛華が遠くに行ってしまったような気がして、嫉妬に心が焼かれるような気がした。
そんな気まずさから愛華とは段々距離を置くようになった。
愛華からは何度も連絡があったが返信をしないことが続いた。
そうしているうちに僕らは疎遠になって言った。
翌年の春、僕らはそれぞれ別々の大学へと進学し、僕たちの関係は静かに終わりを迎えた。
告白といいう余計なことをしようとしたために結局守ろうとした幼馴染というこれまでの関係までも僕は無くしてしまった。
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