6. 新米賢者と先輩賢者たち
――式典の後。
今度はドレスにお色直しして城の庭園での昼宴会が始まる。あ、このドレスもテオバルト殿下に買ってもらいました。ローブと同じく選んだのはルルアとリリアだけどね。それと胸には星円梟の記章を付けるのが決まりみたいなのでそれも付けています。
この昼宴会はあくまでも貴族向けの宴会だ。主だった王族には賢者になる前に既に挨拶はしているので、貴族へのお披露目の意味での宴会なのだ。
賢者は一代限りではあるが、その身分は王族の下で貴族の上、つまりは国王と王妃、王子、王女以外の王族の地位である大公爵に次いで、貴族の最高位である公爵の上の身分となる。賢者たちで行う「賢者会議」なるものも存在しており、言ってしまえば枢密院のようなもので国王の諮問に応じて開かれ、進言・監査などを行う独立した機関だ。
そのため、私が貴族たちへの挨拶回りをするのではなく、貴族たちから順番に私の元に挨拶に来るという構図が生まれるのがこの昼宴会であった。私からしたら楽と言えば楽である――
そんな貴族たちの挨拶も終わったタイミング。ほとんど名前や家名は覚えてないが、何故かアピールしてくる男性たちも多かった。まぁ、テオバルト殿下ほどの人はいなかったけど。待て、何でそこでテオバルト殿下の名前が出てくるんだ?どうした私。
とにもかくにも、これで自由だ!おいしそうな料理を食べまくれるよね!という感じで私は料理を貪っていた。どれも美味しい。だが――
「お前、主役が何をしている……」
いや、主役だから主役として料理を楽しんでいるだけなのだが……
「他の賢者への挨拶が先だろ!確かにお前は貴族よりも上の立場にはなっているが、新米賢者だ。他の賢者への挨拶に行くのは当然だろ」
あ、そうだった。忘れていました。すみません……
「……ごめんなさい」
私はテオバルト殿下と一緒にひと際オーラを放つ一団が座る円卓へと向かう。
「お待たせしました。こちらがエステル・サビドゥリアです」
あ、テオバルト殿下でも賢者たちには敬語なのね。
「……初めまして。この度……賢者になりました……エステルと……申します。よろしく……お願いします」
「俺はブルーノ・ムーティガー、軍事学の賢者で叡勇の将星などとたいそうな呼ばれ方もしておる。まぁ、特に決まってはいないが、最年長ということもあり、賢者を取りまとめておる。孫娘のミリーも世話になったようだな。……まぁ、そう固くなるでない」
筋肉質で体も大きくて迫力があり、低音の声を響かせ、厳ついイケオジである。剣術の腕もさることながら、その知略も優れており、かつて前線で国を支えた61歳のレジェンドと聞いている。左胸に輝くのは剣梟の記章は剣を掴む梟のデザイン。軍事学の分野で功績を挙げた者の証だ。
まさか、ミリーのお爺様だったとはね。聞いてなかった……
「そりゃ、ブルーノ殿を見れば誰でも固まるわい!がはははぁ!……すまん、すまん。俺は天匠の鍛冶師と呼ばれ、資源工学の賢者をやっているコルネリウス・ヴィーラントだ。見ての通り、山妖種だ。これからよろしくなぁ、嬢ちゃん。がははははぁ!」
技術はもちろんのこと鉱石や魔物の素材などの資源についての知識も豊富な48歳の王国トップの鍛冶師だ。左胸に輝くのは資源工学の分野で功績を挙げた者の証。鎚梟の記章で鎚を掴む梟のデザインである。
山妖種とは、山人とも呼ばれ、容姿はダークエルフの様な見た目であり、尖った耳と小麦色や褐色の肌が特徴的だ。元々は鉱山を中心に山で生活していた種族である。また、手先が器用なため、建築、鍛冶、陶芸など様々な分野の職人が多い。
「あんたの笑い声は頭に響くんだよな。……私は巧智の魔導具師、エレオノーラ・セラスティア・ヴァイヘルナー、魔導工学の賢者ね。エレオノーラって呼んでくれていいからな」
魔導コアや魔導線を開発したあのセラスティア様である。赤い髪を1つに結い、西洋風の装飾がなされた煙管を吹かす姿は姉御肌オーラが凄い。綺麗な人だが、昔不良でした感がする。
両側頭部の湾曲した小さな角が特徴的な36歳の魔人種。魔導工学の分野で功績を挙げたものの証。機円梟の記章は歯車の魔法陣の中央に梟というデザインだ。
魔人種は魔力量や魔力制御能力に優れているなど、魔術に特化した能力を生まれながらにして持っている種族である。容姿は個々で違いがあり、例えば角を持つ者、翼を持つ者など、その他にもいろいろな個性がある。この世界の魔人種は、亜人のひとつに過ぎず、日本のアニメで良くあるような純人種に敵対する存在とか、世界を征服するような存在はない。
獣人にも角を持つ者もいるが、見た目の違いとしては、獣人は耳も獣の耳になっており、魔人の耳は山妖族の耳の形に似ているという違いがある。例を挙げれば、同じ羊のような角を持っていても、耳が羊のような耳であれば獣人、耳が山妖族のような耳であれば魔族と見分けることができる。
名前の規則として「名前+魔名+家名」となり、名前は家族や親しいもの、許されたものしか基本呼んではいけない。 他の者が呼んで良いのは魔名のほうである。
「初めまして。あなたはエステルちゃんって言うのねぇ?私はフィリーネ・ハイルブリンガーよ。福音の薬師って呼ばれていて、薬学や植物学の賢者です」
淡い緑の長いストレートの髪、そして聖女のようなオーラを放つ26歳の森妖種の女性でおっとりのんびりした口調だ。きくと頃によると薬草や薬学の知識は彼女に並ぶ者はいない。薬梟の記章は梟とハーブのデザインで薬学の分野で功績を挙げた者の証である。
森妖種は、森人とも呼ばれ、尖った耳と美しい容姿を持つ。つまりはエルフのような見た目であるが、精霊などとは全く関係ない種族である。これは山妖種も同じことであり、この世界は精霊と結びつきが強い種族はいない。
ついでに話しておくと、人類は大きく分けて純人種、獣人種、妖人種、魔人種、龍人種が存在しており、さらに妖人種は森妖種、海妖種、山妖種などに分類されている。異種間交配も可能であるが、生まれる子供は混血ではなく、両親どちらかの種族となるというのがこの世界だ。そして、寿命はすべての種族が同じである。海妖種と龍人種はグランツラントにはいないので詳しい説明は割愛する。
「ぼぼ、僕はアルベルト・フォルシャーですね、はい。ま、魔術学の賢者で、はい、ここっ、孤星の魔物学者と呼ばれています、はい。そそっ、それとですね、はい。きっ、君が殲滅したという飛竜たちの死体は、はい、うっ、受け取っておきました、はい。みっ、見事に急所を貫いており、はい、きっ、君の実力を思い知らされましたよ、はい」
30歳の彼は根暗のオタク気質。グランツラントでも少ない魔物学を専門とし、魔物の生態学や解剖学のほか食材や素材としての見方などに詳しいと聞いている。
魔物学の分野で功績を挙げた者の証である獣梟の記章は梟と魔物の角というデザインだ。
ヴァルデスルーエを襲撃した飛竜の群れについては、可能性は低いものの人為的なものであることも考慮したテオバルト殿下の指示で、あの時に空間魔術にしまっていた死体をこの国の騎士に預けており、それが無事にアルベルトさんに届いていたようだ。
先輩賢者たちの情報は入れてきたが、やはり実際に合うとまた違った印象を受けたりする。
「普段は口数も少ないし、途切れ途切れに喋るくせに、好きなことになるとまともに話せたりする変な奴ではありますが、この年齢で知識も多く、常に冷静で頭も良いので、よろしくお願いします」
変な奴って酷くない?テオバルト殿下。まぁ、否定はできないけど……
「まぁ、個性豊かな連中の集まりだ。既にいろんな奴がいるからな。気にすることはない」
ブルーノさんは見た目とは違い優しそうだ。まぁ、ミリーのお爺様だからね。
「なるほど~、殿下がエステルちゃんの保護者ってわけですね~」
フィリーネさんは何面白がっているんですか?
「別にそういうわけではない。ただ放っておくわけにもいかないからな」
「おいおい、自覚なしかよ、殿下。まぁ、いいさ。エステルの新基礎術式には興味がある。魔導具にも関係ある話だしねぇ。今度ゆっくり話を聞かせてもらおうかな」
「まぁ、かわいらしい賢者ってのも悪くねぇ。がははははぁ!これからよろしく頼むぜぇ。それにコミュニケーション苦手な奴はここにもいるしなぁ。がはははは!」
「ぼぼ、僕だって自覚はありますので、いちいち、そっ、そのようなことは言わないでいただきたいですね」
こうして、新米賢者である私は先輩賢者との初顔合わせを終えるのであった。
今日は我慢するがエレオノーラさんを筆頭にいろいろ話を聞きたい先輩たちなのでそれはおいおい質問攻めにしようと思います。お前、質問攻めできるほどまともに質問できるのかというツッコミはなしでお願いします。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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