50. 理の魔女と凱旋
――グランツラントハンター協会フリーデン本部。
フリーデンに帰還した私たちは、そのままハンター協会本部に来ていた。城に帰るよりも先に報告が必要だ。
受付嬢さんに広場に来てもらって確認してもらっているところだ。とりあえず、ヘルヴルムの死体を空間魔術から出している。
「――こっ、これは間違いありません!冥焔竜ヘルヴルムです!」
「だっ、だから、そう言っているじゃないですか、はい。ぼぼっ、僕が間違えるはずがないでしょう、はい」
「これは大事件です!災害級の魔物ですよ?それを9人で討伐するなんて、前代未聞です!」
「おいおい、どうした?カルラ。なんだ?この状況は!」
周りに集まったハンターたちをかき分けて姿を現した男がそう言う。というか、この受付嬢さんの名前はカルラさんだったのね。
「あっ、本部長!事件です!冥焔竜ヘルヴルムです!」
「たっ、確かにこいつは間違いねぇな!……こいつをやったのは天狼の牙ってわけか」
「はい!あとは賢者様たちですね!」
「オプスキュレクスの討伐に行っていたと聞いていたけどな?」
「……私たちが逃げたら、……迷宮から出てくる……可能性があったから……そのまま狩った」
「はぁ、よく言う。……違うだろ?」
早々にディートリヒさんにツッコミを入れられる。
「……何にせよ、……対象はオプスキュレクスから……ヘルヴルムに変更ということで……天狼の牙の……みなさんとの話し合いは……成立している。……報酬も上乗せ……する」
「確かに迷宮から出てくる危険もあったわけだ。……そういうことなら今回の討伐は認めようじゃねぇか!……すると、天狼の牙は英雄級に昇格ってわけか!」
周囲に集まっていたハンターたちが騒めく。それはそうだ。英雄級ハンターの誕生など珍しいことだからだ。
「あの天狼の牙もついに英雄級かよ!まぁ、あいつらなら相応しいかもしれねぇ!」
「いや、だが、今回は理の魔女様もいたんだろ?……あいつらの実力なのか?」
などなど、まぁ、賛否両論って感じだ。それは妬み嫉みもあるだろう。ここは天狼の牙のみなさんに恩を売っておくのもいいだろう。まぁ、冗談だけどね。感謝と敬意をもって推薦しておこう。
「……間違いなく、……彼らの実力。……彼らがいなかったら勝てなかった……と思う。彼らなら英雄級に相応しい」
「……そうか。理の魔女様も認めるなら、ハンター協会としても認めるしかねぇな」
「だが、本当にいいのか?俺たちだって賢者様がいなければ勝てなかったぞ?」
「そうだとしてもなぁ。理の魔女様もこう言っているし、事実としてヘルヴルムはお前たちによって討伐されてここにその死体があるじゃねぇか」
「まぁ、本部長がそれでいいって言っているわけだし、ありがたく昇格させてもらうのがいいんじゃないかしら。こんなチャンスは滅多にないわよ?」
「私も賛成かな!英雄級になれるなんて夢のような話だしね!」
「……ふっ、当然の結果だよ。英雄という称号ですら、僕という至高の芸術を飾るひとつの些細な装飾品に過ぎないけれどね。だが、悪くない。これからは『美しすぎる英雄』として、より多くの淑女たちが僕の足元にひざまずくことになるのだから。罪だね、僕の美しさはついに協会の歴史にまで名を刻んでしまうのだからさ」
「あんたは瘴気でシミができるって泣き叫んでいただけでしょうが!」
「それに、『より多くの淑女たちが』って言ったけど、そもそも現状で誰もいないよね?」
「わかった。……本部長、ありがたく英雄級に昇格させてもらいますよ」
「決まりだな。……じゃあ、後で手続きを進めるとしよう。……皆、聞けぇ!ヘルヴルムを討伐した功績を称え、天狼の牙を英雄級ハンターとする!新たに英雄級ハンターが誕生した!これは喜ばしいことだ!」
本部長のそんな言葉を聞いた周囲のハンターが歓声を上げる。さっきも言ったように、まぁ、全員ではないけどね。だが、多くのハンターは喜んでいるようだ。天狼の牙のみなさんはそれほどのハンターなのだろう。
「英雄級ハンター昇格、おめでとうっす!いや~、今回の調査は楽しかったすよ!」
「おめでとうなのであります~!災害級の魔物を討伐したわけでありますので、国からも何かあるかもしれないのであります~!」
「英雄級ハンターだなんて、かっこいいじゃねぇか!だが、やっぱり英雄級ハンターなら魔導銃の1つや2つは持ってねぇとな!いつでもヴィーラント工房でまってるぜ!」
「ディー、ついに英雄級ハンターですか、はい。……よかったですね、はい。とっ、友としても嬉しいですよ、はい。……でも、今後はこのようなことには巻き込まれたくはありませんね、はい」
「アル、俺が巻き込んだわけではない。理の魔女様に巻き込まれたのだろう?」
「……ま、まったくその通りですよ、はい」
私たちがそんな話をしている時だった――
「――道を開けろ!」
突然、そんな声が聞こえる。
そして、ハンターたちが道を開け、黒鳳騎士たちが並んで道を作る。
そんな仰々しい雰囲気の中で、その奥から現れたのはテオバルト殿下であった。その後ろにはルルアやリリアの姿もある。
「戻ってきたと聞いて来てみれば、これはどういうことだ?……俺にはオプスキュレクスには見えないが……」
「え!?これは何ですか~?こんな魔物を狩って来るなんてさすがはエステル様ですね~!」
「姉様、さすがで片づけていい話ではありません!エステル様、これはどういうことですか?」
「……これは……冥焔竜ヘルヴルム。……災害級の魔物」
「おい!お前は馬鹿か!?異変があったらすぐに帰って来いと言ったはずだ。……俺との約束を破るとは、なかなかいい度胸をしているようだな」
テオバルト殿下の公開説教の開始である。まぁ、説教は仕方ないとしても、城に帰ってからにして欲しいよね。
「……大丈夫。……こうして、……無事に戻ってきた」
「そういう話ではない。俺がどれだけ心配したと思っている。ルルアやリリアも心配していたぞ。エルナやフローラも同じだ。お前は少しくらい自分の立場を考えろ!」
「今回はテオバルト殿下のおっしゃる通りですね。エステル様が悪いです」
「まぁまぁ、無事に戻ってきたのでいいじゃないですか~!」
「姉様は黙っていてください!」
「……でも、……これで私の研究が進む。……国にとっても……重要なこと」
「そんなことはどうでもいい。俺はお前の話をしている。仮に国にとって重要だとしても、それでお前に何かあったら取り返しのつかない大きな損失だ。お前はそれをわかっているのか!?」
「……だから、私は無事に――」
「無事に戻ってきた」と言いかけた私であったが、途中でテオバルト殿下に遮られる。
テオバルト殿下は私の腕を引っ張ると、そのまま私の体を優しくも力強く抱き締めたのだ。
意外だ。テオバルト殿下もこのようなことをするのか。まぁ、先ほどから少し動揺した様子ではあったが……
「……急に……何?」
「そういう話が聞きたいのではない。……良く無事に戻ってきた」
そうだよな。まぁ、テオバルト殿下もルルアやリリア、エルナやフローラも心配してくれていたんだ。私が大丈夫だったと言っても、私が調査に行っている間にみんながずっと心配していた事実は変わらない。まずは心配させたことを謝るべきだった。
オプスキュレクスでさえ私が調査に行くことに難色を示していたわけで、その上で狩ってきたのが冥焔竜ヘルヴルムなのだ。逆の立場なら心臓がいくつあっても足りないだろう。
「……心配かけて、……ごめん」
「やっぱり縛り付けておくべきだったな。まぁ、許可した俺も悪いのだが……」
「……ごほん。テオバルト殿下。皆様の前です」
わざとらしく咳き込み、殿下に注意したのはリリアである。
「……すまない。そうだったな。少し取り乱したようだ」
そう言ってテオバルト殿下は私から離れる。
「……とにかく、城に帰ったら説教の続きだ。覚悟しておけ」
「そうですね。私も言いたいことが山ほどありますので……」
いや、それは勘弁して欲しい。テオバルト殿下だけでなく、そこにリリアも加わるとなると、ものすごく長くなりそうだ。
「ありゃりゃ~、大変ですね~。エステル様!」
おい、他人事なのか?ルルア。……いや、まぁ、ルルアからしたら他人事だけどさ。私の担当メイドだよね?私を助けてよね。
こうしてハンター協会への報告も終え、ヘルヴルムを空間魔術に収納して、その後は城に帰るのであった。今日はテオバルト殿下の意外な一面を見た気がする――
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