46. 理の魔女とハンター
――グランツラントハンター協会フリーデン本部。
1週間後、遂に出発の朝だ。
ユーリアさん、アルベルトさん、ヘルフリートさん、そして、あの後に何故か同行することになったコルネリアさんとともにハンター協会のロビーにいた。
コルネリアさんは改良した魔導銃の性能を的ではなく魔物相手に実戦で確認したいらしい。
ハンター協会の建物には初めて入ったが、二足歩行の小さな猫はいないようだね。まぁ、当たり前だけど……
ちなみにこの世界のハンター協会とは、狩猟や魔物討伐、採取、環境調査などの仕事をするハンターたちに仕事を斡旋する場所であり、個人や国などから受けた様々な依頼をハンターたちに紹介し、依頼主から受け取った依頼料から仲介料を差し引いてハンターに報酬を支払うため、その仲介料、あるいは解体手数料、ハンターから買い取った素材を転売することで得た収益によって運営している組織だ。
ハンターの報酬はもちろん課税対象のため、ハンターにはその分を天引きして報酬を支払っており、協会がハンターの税金をまとめて国に納めている。他にはハンターが犯罪者とならないように管理・監視する役目もあり、その一方で様々なサポートをハンターに提供したり、ハンターが無謀な依頼を受けて命を落とすといったことがないように管理をするなど、ハンターを守る役割もあり、そのために等級制を採用しているのだ。
グランツラントハンター協会の場合は、会員証が採用されている。拠点の住所登録も必要であり、税金も払っているため、会員証は身分証明にも使うことが可能である。
ちなみにハンターは13歳になる年から登録可能であるが、16歳になる年までは見習いとなる。それ以降の一般の等級は初級、中級、上級、超級、英雄級、伝説級に分類され、依頼もこれに合わせて難易度がつけられており、受けられる階級が制限されている。実績を積めば、等級は上がるが、失敗が続くと下がる仕組みである。
ハンターの等級に対する魔物の等級は初級、中級、上級、超級、災害級、天災級となる。当然、天災級の魔物など稀、というかもはや伝説上の話であるため英雄級が実質的な最高ランクとも言われているが、災害級の魔物も高頻度で出現するものではなく、大きな地震とかの頻度と考えていいだろう。
「――待たせたな、アル!」
大盾剣士と思われる男がそう言いながらアルベルトさんに近づいていく。その男の後ろには魔術師と思われる男女と、そして……二足歩行の小さい猫!……じゃなくて、拳闘籠手と思われるものを両手につけた小柄な猫科系の獣人と思われる女性がいる。まぁ、小柄と言っても私と同じくらいだけどね。
「……ようやく来ましたか、ディー、遅いですよ、はい。……今回もよろしくお願いしますね、はい」
「今回の依頼者の理の魔女様ってあんただよな?……いや、まぁ、布告式とかで見たことはあるんだが、記憶も曖昧だからな。……申し訳ない。……あと、言葉遣いも許してくれ」
「……私が理の魔女、……エステル・サビドゥリア。……言葉遣いも……気にしなくて構わない」
「それは助かる。俺はアルの幼馴染のディートリヒ・イェーガーだ。よろしく頼む。この天狼の牙のリーダーで、見ての通り大盾剣士だ」
リーダーだけあって落ち着いた様子の男性だ。
「でも、賢者様にこんな言葉遣いで本当にいいのかな?……まぁ、いいや!私はエマ・ネブローサ、剣闘士だよ」
あ、まさかのウンピョウ。学名のネオフェリス・ネブローサのネブローサなのね。ちなみにウンピョウは「雲豹」と書くけど、ヒョウ属ではなく、ウンピョウ属であり、分類上は独立しているんだよね。ということは、雲豹系獣人ってことなんだね。
ルルアとリリアのネブラスカ、ユーリアさんのタミアス、そして、エマさんのネブローサ……いや、そういうことなんだね。もうツッコミは入れないよ。
「賢者様がそう言っているのだから大丈夫よ。それにアルにはいつもタメ口よね?……あ、私はイレーネ・アウゲンティーフェよ」
眼鏡美女のイレーネさんは森妖種である。
「僕はカミル・シェーンフーバーさ。僕の美貌に言葉を失ってしまう気持ちはよく分かるよ。でも、そうやって見つめられるのも悪くないさ。僕の名前とこの美貌を覚えてくれ、僕の愛しいお姫様たち」
……うん、まぁ、最後に強烈なのが来たね。彼はナルシストキャラのようだ。
「あぁ、ごめん、ごめん。……コイツのことは気にしないで。魔術師としては優秀だけどちょっと、……いや、かなり頭のほうがね」
イレーネさんが苦笑いを浮かべている。
「私はエステル様の護衛の任務を預かっている白凰騎士団所属ユーリア・タミアスであります~!どうぞ、よろしくなのであります~!」
「俺はヘルフリート・シルドナー、青鳳騎士団の所属でハンター見習いの経験もあるっす!理の魔女様に恩があるので今回同行することになったっす!」
「うちはコルネリア・ヴィーラントだ!天才鍛冶師にして天才銃士だな。まぁ、とにかく、天才だ!」
とまぁ、こんな感じで自己紹介も終わり、これでメンバーは揃ったことになる。
ハンター協会を通しての依頼となるので、この後は手続きなどがあったが、慣れているアルベルトさんとディートリヒさんがほとんどやってくれた。
「最近、ミアスタール迷宮で目撃情報がある超級ランクのオプスキュレクスの討伐!天狼の牙のみなさんなら問題ないと思いますが、気を付けてくださいね!調査チームの皆様も十分注意してください!皆様、無事に戻ってきてくださいね!」
そう言ってくれたのはハンター協会の職員、……つまり、受付嬢だ。アニメやゲームの受付嬢のように美人さんである。
オプスキュレクスが超級ということは、もちろん天狼の牙の皆さんも超級ハンターだ。実力は本物であるということだ。
ちなみに今回の様な依頼は魔物学者の調査などでたまにある内容であるため、ハンター協会も認めており、ユーリアさん、ヘルフリートさん、コルネリアさんも学者側の調査チームという位置づけだ。このため、ハンター等級などによる制限は適用されない。
「ミアスタールの森までは馬車で行くから半日くらいで到着するはずだ」
そう言ったのはディートリヒさんだ。
「既に2頭立ての馬車2台を手配しているから安心してね」
イレーネさんが補足する。
まぁ、この辺りは本職のほうが詳しいので、天狼の牙の皆さんに任せていたのだ。
「先に言っておくが、ミアスタールはたまに瘴気の霧が発生することがある。魔術で無効化できるが十分注意しておけ」
「まぁ、僕に任せておけば大丈夫さ!この僕がいる限り、美しい花たちを枯れさせはしないさ!」
「食料や野営道具は賢者様が用意するって聞いてたけど、忘れ物はないかな?大丈夫?」
そう聞いてきたのは小柄でかわいい猫耳のエマさんだ。
「……大丈夫。……完璧」
旅を快適にするためにそこはしっかりと準備している。だから、大丈夫だよ、エマさん。責任をもってしっかり快適な旅をお届けします。
「……そういえば、理の魔女様。私も本を買って、サビドゥリア基礎術式を取り入れているわよ。本当に助かっているわ」
「今となっては僕の愛読書でもある!あぁ、あの術式はすごく美しく、まさに夜空に煌めく星々の雨のようさ!」
「……ありがとう」
まぁ、カミルさんの発言は置いといて、ハンターの皆さんも読んでくれているのはありがたいことだ。読者目線で読みにくい、理解しにくいところを後で聞いておこうかな。……というか、道中は魔術の話もできそうだ。
こうして私たちはミアスタールの森に向けてフリーデンを出発するのであった――
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