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43. 理の魔女と黒い炎の謎

 ――お城の私の執務室。

 グランツラント王国に亡命してから約2年ちょっとの月日が過ぎた頃。

 遂に動く時が来た。パンデミック・魔導銃開発依頼・国民生活底上げに尽力したわけだが、少しは自由に動けるようになったので、闇の原子という仮説を証明するために闇属性の魔物を探すために本格的に動きだそうと思う。

 とはいえ、未だに闇属性の炎などを扱う魔物の出現情報は掴めていないんだよね。もちろん資料などには載っているし、この世界にはそういった魔物の生息地もある。だが、グランツラント国内となると難しいんだよね。やはり、闇属性の炎などを扱う魔物の目撃情報は迷宮などだ。

 というわけで、今はフランクさんとそんな話をしている最中だ。

「……炎だけならわかるけど……雷もあるとなると……やはり粒レベルの話だと思う。……何かが燃えて……黒くなるなら……雷ではそれは……起きないし、……なにより炎色反応で……黒はないと思う」

「前におっしゃっていたのは、確か魔術ではなく、普通の火で臓器にある成分などを燃やして確かめるとのことでしたね?」

「……うん。……普通の炎を放つ竜は……火炎袋を持っている。……火炎袋は2種類の……粒を生成する……器官であり、……可燃ガスにする器官で、……その可燃ガスを……吹くと同時に……着火する。……酸素と一体化させ、……火炎放射となる……と思う」

 そう、火炎袋は水素原子や炭素原子を生成する器官であり、可燃ガス、つまり分子にする器官で、その可燃ガスを吹いて着火し、酸素と結合させ、火炎放射器みたいになるはずだ。おそらくはブタンあたりだろう。

「……とするならば、……黒い炎を操る魔物にも、……似たような器官があるはず。……まぁ、黒炎袋、……あるいは瘴炎袋と……呼んでもいいかもね。……とにかく、黒炎袋があるとすれば、……その成分が溜まっているから、……それを普通の火で燃やせば……証明できる。……たとえば、……火炎袋と構造も同じであれば、……弁に管を挿してガスを取り出し、……外で火種を近づけて燃やせばいい」

「過去にそのような魔物の内臓を燃やした時の記録は残っていないのでしょうか?……普通は解体した後に牙や爪、骨、鱗など防具などに使う素材以外は燃やして処分しますからなぁ」

「……少なくても……お城の図書室、……それと王立図書館には……そんな記録はなかった。……そもそも、……火炎袋と同じであれば、……ガスを抜いてから燃やすはず。……その上で、……そういう廃棄する部位は、……他のゴミともまとめて……燃やされることもある。……仮にガスが少しだけ残っていたとしても、……圧倒的に普通に燃える部位が多い中で……黒炎袋を燃やしても……見えない、あるいは……見えても一瞬だし、……気づかなかったか、……気づいたとしても……まぁ、そういう魔物を燃やしたから……という感じで……わざわざ検証はしなかったのかも」

「確かにそういうこともあり得ますな。エステル様が来るまでは様々な粒が作用していることなど考えもしませんでしたし、フェテール王国のように精霊信仰が根強ければ、精霊の気まぐれなんかで片づけられている可能性もありますからねぇ」

「やっぱり……もう一度、アルベルトさんに……聞くしかないか」

「……もしも、黒い炎を操る魔物の情報があったとして、エステル様はどうするおつもりですか?」

 そうだな。確かにハンターに任せるのもいいけど、せっかくだし自分で狩りに行くのもありだ。異世界だしね。

「……自分で狩りに……行こうかな」

「ご自分で、ですか!?……それを聞いたらテオバルト殿下が何とおっしゃるでしょうか」

 確かにその通りだ。私には学術調査という大義名分があるからね。

「……学術調査は重要。……それに野営も……もうすぐ快適になる」

 私も過酷な野営は嫌だ。まぁ、亡命する時は樹海を通ってきたが、もうあんなのはごめんだ。

 そこで蓄音機を作ってもらった少し前にエレオノーラさんとコルネリウスさんにとある設計書を渡してある。それはシャワーの設計書だ。この世界にもお風呂ともちろんシャワーもあるけど、大掛かりな仕組みな上に手間がかかるのよね。なので、国民生活水準向上の第4弾としても文句ないだろう。

 加熱装置上部に水を生成するタンクを設置し、タンク内部の上壁に魔法陣を刻む。ちなみに魔術では温度管理はできないので液体を保てる最低限の温度で水が出てくる。

 加熱装置内部は太めのホースを支柱に螺旋状に取り付け、ホースは最内層に鉄・ニッケル・クロムの合金を加工したものを詰めた絶縁外殻の芯を通し、雷魔術で芯に電気を流して熱を発生させる。その周りの狭い道を水が流れる仕組みとし、一番外側は外殻と断熱材で覆う。つまりジュール熱を利用したものだ。

 加熱装置から通常のホースを伸ばして先端にシャワーヘッドを取り付ける。ホースの長さや太さ、芯の温度、電力は良い感じに調整する。温度調節機能はなしで一定温度だ。

 起動の仕組みは、ハンドルの軸の魔導具内側に歯車か円盤を設置、半円分しか回らないようにする。円盤は魔力を通さない素材だが、側面の5割は魔力を通す素材にし、魔力を通す面は初期状態では可動域外の半円分になるようにする。これを魔導コア側の魔導線と繋げておく。

 円盤の側面は常に水魔術側の素魔石と雷魔術側の素魔石と接触している状態とし、半円の1割回すと円盤の魔力を通す面が水魔術のトリガーとなる素魔石に接触、後はそのまま接触して水が出続ける。半円の9割のところで円盤の魔力を通す面が雷魔術のトリガーとなる素魔石に接触して芯の加熱が開始され、時間差でお湯が出始める。締める時はその逆になるため、雷魔術を切る、つまり加熱を止めた後に水魔術が切れる仕組みだ。ハンドルを大きくし、固くすることで、水で芯を冷やす時間も確保できる。

 大枠の説明としてはこんな感じである。小さくはないが空間魔術に収納できる大きさだし、後は排水を空間魔術に頼った小さめの浴槽と仮設テントがあれば、旅先でもシャワーを浴びることができる。ジュール熱の仕組みはドライヤーにも使えるので、それも頼んでいる。

 この世界には空間魔術を使った水洗トイレもある。S字トラップの先に空間魔術の術式があるタイプだ。直ではない理由は落下防止と魔力の消費を抑えるためである。直の場合は常時発動しないといろいろ大変だからね。なので、当然携帯式もあるから、これにシャワーの仕組みを応用してウォシュレットを付けてもらう計画も進めている。当然、これもトイレ単体で仕組みが完結しているので持ち運びできる。

 ……待てよ。空間魔術?……そういえば、当たり前のように空間魔術と言っているが、私はあの時、ブラックホールの説明でフランクさんに「ある空間のあらゆる粒を、信じられないほどの超高圧力でこれ以上ないほど限界まで1点に圧縮する」と言った。ブラックホールは空間魔術ではないのか?……いや、空間魔術と似たようなものだ。であれば、空間魔術は膨大な魔力量が必要で魔導具にはできないのでは?

「……違う。……私のアプローチが……間違っていたんだ」

「間違っていた……とは?」

「……この世界に……闇の原子があるなら、……ブラックホールも……それが関わっているはず。……例えば、……闇の原子だけを集めて……圧縮するとか。……とにかく……元々闇の力を……持った原子を使うことで……少量かつ少ない魔力量で……具現化できる可能性もある。……空間魔術も……闇魔術なんだ。……そして、原子を知らない先人たちは……それでも、……闇魔術や空間魔術の基礎術式を……私のブラックホールの理論よりも……効率良く構築していたんだ。……つまり、闇魔術に関してだけは……私は非効率なことをしていた」

「空間魔術は闇属性魔術……なのですか!?……仮にそうだとすれば、大発見となりますなぁ。これまで別々のものであるとされてきたものですからねぇ!」

「……まだ、仮説。……でも……闇の原子の仮説を立てた時点で……ブラックホールのロジックも……見直すべきだった」

 何で気づかなかったのだろうか。前世の記憶に引っ張られ過ぎたのか?……まぁ、ここで気づけたのは大きいと思っておこう。

「……でも、闇の原子で……すべて説明はつく。……これまでわからなくて……例外としていた魔術の仕組みを……解明できるかもしれない。……闇の原子の仮説を証明して……研究を前に進めれば……だけれど」

「なるほど、それはますます気合が入りますな」

「……だから、……自分で狩りに行く」

「……それについては私からは何とも言えませんなぁ」

 こうして、私は闇の原子の仮説を証明するために本格的に動き出したのであった――


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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