40. 理の魔女とお料理!?
――プシュケイア。それがこの世界の名前だ。
大陸などが蝶々のような形になっており、左の羽を西大陸、右の羽を東大陸と呼ぶ。中央南部に胴体の半分の様な小大陸があり、中央小大陸と呼んでいる。また、右の羽のすぐ東にも東小大陸があり、その東小大陸のさらに東にある島々が龍国アマネだ。
西大陸の上の羽は大国セインテリア教皇国、下の羽は大国グラヴィノクス帝国、羽の付け根にパンデミックの発生源となったリベルティア共和国がある。
中央小大陸はバートランド王国の領土となっており、東大陸にはこのグランツラント王国を含めた中規模・小規模の国が割拠している。右の羽の付け根にはローデヴェイク公国とエストラーク王国があり、下の羽は私の出身国であるフェテール王国がある。上の羽には北西に魔王国シュカノワール、北中部にヴュールラント王国、その下にヴィフレア王国、北東部から中東部にかけて縦長のグランツラント、さらにその東、上の羽の先端と東小大陸を領土とするのがオーレア王国だ。
まぁ、右の下の羽がフェテール王国の領土ではあるけど、実際の蝶の羽というよりは細長い感じなのでフェテールは大国ではなくグランツラントと同じくらいの中規模国である。
アマネの味噌、醤油、味醂といった前世の日本の食文化のような食材、調味料はオーレア王国を経由して世界各地に出回っている。
ちなみにではあるが、政治・軍事面での話をしておくと、西大陸では大国同士が対立し、リベルティア共和国が中立国として間に入って正面衝突しないように頑張っている。このため東側諸国もリベルティア共和国には手を出せない。東大陸ではグランツラントとフェテールが対立しており、その構図からグランツラント、シュカノワール、ヴュールラント、ヴィフレアのイーリス連合とフェテール、エストラーク、ローデヴェイクのミッテルヘイル同盟が対立関係にあり、そんな東大陸ではオーレア王国は貿易を主軸としているため中立を保っている。
また、世界は丸いので、左右の上の羽同士が海峡を挟んで隣接しているため、オーレアとセインテリアも隣国同士ということになる。このためグランツラントなどの東大陸諸国からすればオーレアも西大陸の大国の防波堤という意味で重要な国であり、なので中立を保てている。
連合や同盟の歴史もあるのだが、長くなるのでそれはここでは触れないとして、地理と政治・軍事面でのお話はここまで。
――お城の食堂の調理場。
しばらくして、コルネリウスさんに頼んでいた缶と蓋、シーラー、密封鍋こと圧力鍋、缶切りが完成したので、缶詰の試作品を作るために私たちはこの場所を訪れていた。
賢者の力を使えば、この広い調理場の一角を借りることなんて簡単だからね。
調理台には自腹で仕入れた最高級の豚バラブロックやオーレアの商人経由で仕入れたアマネの調味料が並んでいる。豚の角煮を作るのだ。
ちなみにこの世界では、豚系の魔物の総称として「豚」、牛系の魔物の総称として「牛」と呼ぶなどしており、例えば馬なども同じで魔物である。まぁ、人と同じように魔力を持っているからね。人は「人」だけど……
そして、何故かメイド服を着せられているのはつっこまないでください。調理服ではなく、ルルアやリリアの提案で渋々メイド服を着ているんだよね。
「やっとこの日が来たのでありますな~」
というユーリアさんも何故かメイド服である。
「まずは何をすればいいですか?」
リリアはやる気満々だ。料理が好きなのだろうか……
まぁ、そんなに気合を入れてもね。難しい工程はないんだよ……
「豚バラ肉を……適当な大きさに……切り分けて……熱湯に通す」
「適当な大きさでいいんですか!?じゃあ、丸ごとで~!」
ルルア、それは違うぞ。まぁ、冗談で言っているんだと思うけどさ。
「姉様、どうやって食べるのですか?そもそも鍋にも器にも、この缶にも入りません」
「えー、丸ごとのほうが絶対おいしいよ~」
あ、ガチだったの?丸ごとって……ルルアは1人で料理しないようにね。あははは……
「じゃあ、お湯を沸かさないと、でありますな~。私が沸かすのであります」
「では、私がお肉を切りましょう」
「じゃあ、私も切る~!」
何だろう、この光景。……癒されるね。メイド服の女の子たちがわちゃわちゃしながら料理しているのって。……あれ、私もメイド服だった。「女の子たち」に含まれているじゃん。今の心の声はなかったことに……
そして、料理長のデニスさんがメモを取り始めている。暇なのだろうか……
「……確か、……水、味醂、濃口醤油、砂糖の割合が、……『20:20:10:3~5』くらいだったはず。……そこに、にんにくと……生姜をすりおろして入れる。……スライスでもいいけど」
デニスさんがメモを取っているのであえて口に出しているのだ。水のところは酒でもいいが、「水=肉の出汁」と考えているのがこのレシピなので、水で十分である。
私は調味料を合わせることにした――
しばらくして、すべての材料の下準備が終わる。いよいよ、調理開始だ。
「まずは、……肉をさっと熱湯に通して、……別の鍋に入れる」
この工程はリリアがやってくれるようだ。リリアは肉を熱湯に通して、別の鍋に入れていく――
「次は……肉を入れた鍋に……合わせた調味料を……入れて、……火にかける」
ルルアが合わせた調味料を鍋に入れて魔導コンロの火をつける。後はアクを取りつつ煮込んでいくだけだ。
その間は雑談をしながら過ごしたのであった――
そして、しっかり煮込んだ後で、私たちは一旦缶詰の試作を作るために、角煮を缶に入れ、脱気し、シーラーで密封して、圧力釜で加熱、急冷という流れでいくつか缶詰の試作品を完成させるのである。それは、まぁ、しばらく保管しておいて後日中身を確認するとして……
缶詰に使わなかった分は今から食べるので、引き続き調理を再開する。
「……後は……蓋つきの鍋に入れ、……少量の煮汁で蒸し煮にする。……その間に残った煮汁を……煮詰めてソースを作る。……最後にソースに……蜂蜜を少しだけ加え、……盛り付けて……完成」
それからしばらくして、ルルアとリリアが私の指示通りに調理を進めて角煮が完成する。
いよいよ、ユーリアさんお待ちかねの試食タイムだ。
「……良かったら、……デニスさんもどうぞ」
「ありがとうございます!」
「これはおいしいであります~!蜂蜜の甘さとプリプリ食感でありますな~!」
「……本当に美味しいですね」
「何これ~!すごくおいしいです~!」
3人も喜んでくれたようだ。特にユーリアさんは待ちに待った瞬間ということで大喜びである。
「これは素晴らしいですね!……食堂のメニューに加えるべきでしょう!よろしいですか?」
デニスさんも気に入ったようだ。
「……どうぞ」
「ありがとうございます!」
「――楽しそうだな。……それに何だ、その格好は……」
調理場に入ってきたのはテオバルト殿下だ。また噂を聞いてわざわざ来たのだろう。
「……リリアとルルアに……着せられただけ」
「似合っているな」
何で少し嬉しそうなんだ?テオバルト殿下。表情に出ていないけど、私にはわかるぞ。
「……だが、メイドか。……そうだな。メイドであれば俺の命令に従うのが仕事だよな」
そもそも私はメイドの格好をしているだけでメイドではないので従う必要もないけど、何を命令するのだろうか……
「その料理を俺にも食わせろ」
何だ、そんなことか。素直に食べさせてくださいって言えないのか?この王子様は……
「……ご自由に……どうぞ」
私は器に盛りつけ、それを殿下に差し出す。
「……違うだろ。食わせろと言ったはずだ。……お前が俺の口元に運んで食わせろと言っている」
つまり「あ~ん」してくれってこと?子どもなのか?……いや、この目は私をからかっているんだ。なら、「あ~ん」してあげて、逆に恥ずかしい思いをさせてやろう!今日こそ、勝ったな!
「……じゃあ」
私は肉をフォークで刺し、テオバルト殿下の口元に運ぶ。テオバルト殿下はそれを食べるのであった。
「……美味いな。……だが、まさか本気でやってくるとは思わなかった。……悪くない」
あれ、ノーダメージ?……ていうか、むしろ私の負けってこと?
こうして、テオバルト殿下に遊ばれる私なのでした――
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