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39. 理の魔女と巻締め缶

 ――ヴィーラント工房。

 この日は国民の生活水準向上第2弾として巻締め缶と缶シーラー、缶切り、あとは圧力鍋を作ってもらうためにここに来たのだ。

 軍事用としても役に立つし、ハンターたちのキャンプ飯にもなりそうだし、何よりパンデミックの経験から保存食は必要だなと考えたのである。自然災害もあるかもしれないからね。この世界は魔物もいるし、何があるかわからないからね。

「お邪魔するのであります~!」

 店に入るなりユーリアさんが大きな声を出す。

「……お邪魔します」

「お、理の魔女様じゃねぇですかい!ちょっと待ってくだせぇ」

 コルネリウスさんの弟子の1人が対応してくれる。

「……親方ぁ!理の魔女様たちが来ましたぜ!」

「……おぉう!今行くから待ってろ!」

 そして、しばらくするとコルネリウスさんが工房から店のカウンターに出てくる。

「……今度は何を持ってきた?」

「……食べ物を入れるための……密封容器を作って……もらいたいです。……これが設計図です」

 私はいつものように、コルネリウスさんに設計図を渡す。

「……なるほど、また細かい作業が必要になりそうだな!」

「……そうですね」

「まぁ、いい!……とりあえず、説明を聞こうじゃねぇか!」

「……まずは缶の本体ですが、……薄い金属の円筒を……作ってほしいです。……上の開口部の縁を……外側に向けて……ほんの少しの幅だけ……直角に平たく折り曲げて……ツバを作ってほしいです。……これが少しでもズレると……巻き締める時に……隙間ができてしまいます。……寸分の狂いもなく……均一にお願いします」

「……なるほど、それで?」

「……次に蓋ですが、……さっきの缶のツバより……ほんの少し大きく……作ってほしいです。そして、……フチから少しの幅を下に向けて、……内側に少しだけ半円状に丸めてほしいです。……缶のツバの上に……この蓋を載せた時、……蓋のフチが缶のツバを……外側からカパッと……覆うような……大きさが絶対条件です」

「……なるほど、だいたいやりたいことはわかった」

「……次に缶に蓋を乗せて、……上から回転させながら、……横から特殊な溝がついたローラーを押し当てる……器具を作ってもらいたい……です。……蓋と缶の縁を……一緒に巻き込んで、……完全に一体化させて……密閉するのが目的です。……必要なのは形の違う……2種類のローラーです。……これを缶の縁に……順番に押し当てます。……1番目のローラーは……内側に絶妙なカーブの溝を……彫ります。……これを回る缶に……押し付けると、……蓋の端が缶のフチを……巻き込むように……クルッと丸まります。……2番目のローラーは……平らな溝を彫ります。……さっき丸めた部分を……横からぎゅっと……限界まで押し潰します。……2番目のローラーで……押し潰した時、……金属同士の隙間を埋めるために、……あらかじめ蓋の裏の縁に……ロッティさんの魔導具の素材を……応用したものを……薄く塗っておきます。……機械でギチギチに締め込めば、……その素材が隙間にむぎゅと挟まって、……空気も水も通さない……完璧な壁になります」

 まぁ、ロッティさんの魔導具の素材を応用したものというのはパッキン、つまりシーリング・コンパウンドのことである。

「……そういうことだよなぁ?食い物を中に入れて缶に蓋を被せて器具を使って密封できる容器を作るってことか!」

「……あとは、この密封缶を丸ごと入れて加熱するための……頑丈な密閉鍋を作ってほしいです。……蓋をガチガチに固定して蒸気を逃がさないようにすると、……中の圧力が高くなって、……普通の熱湯の熱さを超えて……それ以上の熱さで加熱することができます。……これによって、……目に見えないしぶとい菌も……完全に死滅させることができます」

 まぁ、要するに圧力鍋である。

「菌ってあれだよなぁ?病気の原因になったりするやつだよな?……だがよ、爆発しちまうんじゃねぇのか?」

「……はい。……なので、……破裂を防ぐために……逃げ道を作ります。……蓋の一部に、バネまたは強いネジで閉じた小さな弁をつけてほしいんです。……中の圧力が……そのバネの押し返す力を超えた時だけ、隙間が空いて……プシューッと蒸気が抜けるようにします。……これなら、中の熱さを一定に保ったまま……安全に使えます」

 これらの道具がそろえば、食材を缶に入れ、蓋を軽く乗せた状態、つまり仮止めで湯煎にかけて、中の蒸気で空気を追い出し、湯気が出ている熱々のうちに缶シーラーで一気に巻き締め、圧力鍋で120℃まで一気に加熱・急冷することができ、中の蒸気が水に戻って缶の内圧が下がり、完璧な真空状態にすることが可能だ。

 まぁ、上記で空気を追い出す工程はそれ用の魔導具を作ればできそうだが、魔導具を使ってもやはり締める時に空気が入り込むリスクがあるので、科学的に温めて蒸気で満たすのが正解だろう。結局、空気が入らないようにするには「真空チャンバーの中でローラーを回して自動で缶を巻き締める大型機械」が必要になってしまう。ならば、温めて蒸気で満たす方がシンプルだ。

「……なるほどなぁ。……仕組みはわかった」

「……問題なさそうでしょうか?」

「誰にものを言ってやがる!これまでも嬢ちゃんの無茶ぶりに応えてきたんだ!任せておけ!がはははは!」

「……ありがとうございます」

「だが、時間はかかる。……作るものが多いからな!」

「……はい。……わかっています。……あ、あと……この密封容器を……開けるための道具も……作って欲しいです。……それもお渡しした設計図に……詳細を記載しています」

「……これは特に問題なさそうだ。説明を聞くまでもねぇな!」

「料理人たちでも……使えるような……器具、……そして、缶と蓋、……密閉鍋があれば、……彼らが自分たちで……自分たちの料理を……長期保存できるようになります」

「軍の遠征なんかでは役に立つと言うことか!この前のパンデミックとやらの時にも良さそうだな」

「……あと、……密封鍋は……そのまま料理にも……使えます。……でも、密封鍋は強引に圧力かけて繊維を潰しているだけなんで、パサパサ、モサモサ系の柔らかさが個人的に食感嫌いなんですよね。ホロホロという表現を使うこともありますが、繊維を無理に破壊していますし、水分が抜けているんですよね。普通に煮た後で煮汁ごと蓋付きの容器に移して蒸すか、普通に煮た後に少量の煮汁でブレゼしたほうがプリプリの自然な柔らかさになって美味しいです!」

 あくまでも個人の感想であるが、科学的にはそうである。

「おいおいおい!自分で頼んでおいて食感が嫌いたぁどういう了見だ!がはははは!」

「ぷりぷりの蒸し煮でありますか~!お腹が空いてきたのであります〜!」

「……だから、密封鍋はあくまで……缶詰の殺菌用か……時間と妥協を天秤にかけた時に……妥協を許容できる時用……ですね。美味しい角煮……を作るなら、私は普通に……お鍋で時間をかけます」

「角煮とはなんでありますか~?よくわからないのであります~!」

 まぁ、そういえば日本の料理って意味不明よね。普通は西洋料理も中華料理も基本は食材と調理法。でも、日本は「南蛮漬け」「筑前煮」「利休焼き」など西洋料理の命名規則で言えばカオスな料理名が多いよね。「南蛮を漬ける」「筑前を煮る」「利休さんを焼く」になっちゃう。まぁ、あくまでも冗談よ?……「肉じゃが」なんて名前だけだと食材はわかるけど、調理法がわからない。

 西洋料理の命名規則で言えば、南蛮漬けも「鮭の甘酢漬け~南蛮風~」などであり、筑前煮は「鶏肉と野菜の煮物~筑前風~」で、利休焼きは「白身魚の白胡麻衣焼き」か「白身魚の焼き物~利休風~」とかだよね。

 まぁ、話がだいぶ逸れちゃったけど、今度角煮でも作ってみようかな。缶詰の試作にもちょうど良さそうだし。

「……あ、『豚肉の煮物~アマネ風~』って感じかな」

「う~ん、でも、何か美味しそうなのであります~!」

 こうして、私たちは缶詰を作るために動き出したのであった。ユーリアさんも食べる気満々になっちゃったし、作るしかないよね、角煮……


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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