38. 理の魔女と生徒たち
――フリーデン高等学院。
この日は現代魔術学の授業があるのでフリーデン高等学院に来ていた。
昨年の猩紅熱のパンデミック中については、学校は朝~昼、夕方~夜の二部制で授業を行っていたが、現代魔術学については私がパンデミックの対応に追われていたことでほぼ授業ができなかったため、今年の2年生、3年生も再度受講できることになっている。卒業してしまった昨年の3年生については当然受けられないのだが……
とはいえ、卒業して学者や魔術師団などに入っていれば、立ち見枠で講義に参加できる仕組みは残っているので、それを活用してもらいたい。
……というのが、現状である。というわけで、ミリーとエルナは今年も受講している。
今日はフリーデン高等学院の校庭にある魔術演習場にて実技演習だ。各グループに分かれて、複数のレーンでサビドゥリア基礎術式を使った魔術の練習を行う。
ミリーとエルナのグループについては、先陣を切るのはミリーのようだ。
「私は全部暗記してます!当然です!これはステラお姉様が作った術式!なので、愛ですね!お姉様の術式、いや、想いが私の頭で組み合わさって、魔術が発動すると言うことは、これは共同作業!相思相愛ですね!」
「……いいから、……早く」
「そんなこと言わないでください!じっくり術式を頭の中で構築し、お姉様を感じたいです!」
「……いや、……意味不明だから」
「もう!お姉様ったらそんなに照れなくてもいいじゃないですかぁ」
「……照れてない。……早くしないと……試験で……不合格にする」
「――なっ!それって!それって!……来年も私と現代魔術学の授業で一体化したいってことですか!?お姉様がそこまで言うならそれでいいです!」
「……じゃあ、……無条件で……合格にするけど、……講義は……出入り禁止」
「そんなぁぁぁあぁぁぁ!お姉様、意地悪ですぅぅぅ!」
「それが嫌なら早く魔術を放ったらどうですの?そのすっからかんの頭で少しは考えなさいな」
まぁ、エルナの言う通りである。早く魔術を放てばいいだけだ。
「何をおっしゃっているのですか、エルナ様!私の頭にはステラお姉様が詰まってます!」
……いや、怖い。どういう状況なの?それ。
「そんなことどうでもいいですわ!早く終わらせないなさい!」
「はい」
ミリーは急にトーンを落として短く返事をしながら、手を的に向かってかざし、瞬時に的の上に魔法陣を展開し、すぐさま可燃性の粉塵を出現させ、それを風魔術で制御し、着火して見せたのであった。辺りには爆音が鳴り響き、爆風が四方八方に広がる。その爆発で的は跡形もなく消えたが、他に被害が出ないように制御もしっかりできている。
……ミリー、恐ろしい子である。
「――ななっ、何ですの!?余計なことをペラペラと喋っておりましたわよね?いつ構築しましたの?」
エルナでなく、他の生徒もざわついている。他の生徒は応用術式を構築するので精一杯で話しながら構築するなんてできないだろう。むしろ、魔術師団の者たちでもそれができる者はそんなに多くはない。まぁ、それはざわつくよね。
「いや~、普通に構築しましたけど!言ったじゃないですかぁ、私の頭にはステラお姉様が詰まってますって!……それより、見ましたか?お姉様!私たちの愛の結晶です!これは結婚するしかないですね!」
「あなたの普通って何ですの?……まぁ、実力は認めますが、破廉恥な発言は認めませんわよ!……そもそも、結晶というより、砕け散っておりますわよ」
いや、エルナもそんな上手い返しをしなくてもいいのに。
「……じゃあ、新しい的を設置してきま~す!」
ミリーはそう言って新しい的を取りに行くのであった。
「本当にとんでもない子ですわ!……破廉恥な言動がなければもっと評価できますのに……」
「……ですが、すごかったですね!エミーリア嬢は!」
目を輝かせながらそう言ったのは同じグループのエミール君である。
「まぁ、ある意味では納得なのか?……というか、納得するしかないのか?」
一方でファビアン君は解せないと言った表情で独り言のようにそう呟いている。
「魔術師団にも入れる実力なんじゃないですかね?エルナ様!」
クララさんがエルナに問う。
……いや、入ったうえで精鋭クラスになれるよ。
「あの子は入ろうだなんて思ってないですわよ。きっと、将来の夢はステラお姉様と結婚すること、とか言い出しますわ!」
「……確かにそうですね」
クララさんは苦笑いを浮かべる。
「設置完了しました~!……次はエルナ様の番ですね!」
そう言いながらミリーが戻って来る。
「見ていなさいな、ステラお姉様! 私の紡ぐ雷こそが至高ですわ!」
エルナは的に向かって手をかざし、瞳を閉じて術式を構築し、手のひらの前に魔法陣を展開する。そして、的に向かって青白い雷を放つ。その雷は的に命中し、木製の的は爆発して跡形もなく消え去るのであった。
「ふん、まぁ、当然の結果ですわね!」
「……電荷の誘導が……完璧。……とても綺麗」
「べ、別に褒められたくてやったわけではありませんわ!」
ちなみに一般的な雷属性の魔術は段階があり、下から順に黄白、青白、紫白である。青白の雷を上手く扱えれば魔術師団の精鋭クラスにはなれるだろう。
エルナもまた恐ろしい子である。
「……的を設置し直して来ますわ!」
誰かに命令するでもなく、自ら直しに行くのもエルナらしい。……良い子である。
「エルネスティーネ王女殿下も流石ですね!」
目を輝かせたのはエミール君である。エミール君はすごく純粋な子なんだろうな。
「まぁ、王女殿下なら当然だろうな。普通に納得できる」
ファビアン君はやはりミリーについては納得できないのだろう。
「魔術師団にも入れる実力なんじゃないですかね?」
クララさんは同じことしか言わないな。だから、精鋭クラスになれるって。なんだろう……RPGの村人かな?彼女は……そんなわけないけど。
まぁ、本音を言えば、もちろんミリーやエルナには戦場に立ってほしくはないけどね。まぁ、エルナについてはその必要はないし、ミリーにも学問の分野で活躍して欲しいと思う。
「設置してきましたわ!」
しばらくしてエルナが戻って来る。
「エルナ様の雷魔術は美しいですね!」
エルナにそう声をかけたのはミリーだ。
「当然ですわ!……あなたの様な薄汚い思考で魔術を発動しておりませんもの」
「何をおっしゃっているのですか、エルナ様!私の中にあるのはステラお姉様への純粋な愛だけです!他のものは少しも混ざっていません!綺麗な愛だけです!」
「その考えが薄汚いと言っているのですわよ!……そんな破廉恥な脳みそで卒業後はどうするつもりですの?」
「そうですねぇ、……ステラお姉様!結婚を前提に助手にしてください!」
「……助手は……いらない」
「じゃあ、結婚を前提に弟子にしてください!」
「……弟子も……いらない」
「そんなぁぁぁあぁぁぁ!」
まぁ、ミリーが助手や弟子なら面白そうだとも思うけど、やっぱりうっとおしいよね。もちろんミリーのことは嫌いじゃないよ?でもねぇ……
その後は他の生徒たちの魔術を見つつ、アドバイスしたりしながら講義を続けるのであった――
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