2. 氷晶の私と万華鏡の王女
それからしばらく、無事に紅茶も私のもとに届き、ルルアとリリアと一緒にのんびりした時を過ごしていたのだが、その静寂もすぐに壊されることになる。
部屋の外から声が聞こえてきたのだ。
「……女を連れて来たですってぇ!?この私が見極めて差し上げますわ!」
その前も何か言っていたようだが聞き取れなかった。だが、これは間違いなくあれだよね。悪役令嬢ってやつだよね。私がいじめられるパターンなのか?きっとそうだ。殿下の婚約者とかかもしれないし……
そして、部屋の扉が勢いよく開く。あ、デジャブ!
金髪の長い髪をハーフアップ縦ロールにしたザ・令嬢のような女性である。私よりも身長が高く、スタイルもいい。
彼女は部屋に入ってくるなり、青い綺麗な瞳で私を睨むのであった。
「あなたがエステルさんですわね?私はこの国の第一王女、そしてテオお兄様の妹のエルネスティーネ・グランツラントですわ!」
妹さんだったかー。でも、あれだ。兄であるテオバルトとの禁断の恋。きっとそういう設定だ。それで私を排除しにきた、と。完璧な推理よね。
「私は……エステル……サンフルーヴ……です。初めまして……エルネスティーネ王女殿下」
「まぁまぁ、エルネスティーネ様~。エステル様と仲良くしに来たんですよねー?」
ルルアは相変わらず王女様相手にもグイグイだね。やっぱりミリーにそっくりだ。
「姉様、エルネスティーネ殿下に向かって無礼です」
「はぁ?ななっ、何をおっしゃっていますの?かっ、勘違いされては困りますわ!私はこの方を見極めに来ただけですわよ?」
あれ、あー、ツンデレだね。これは……
「そ、そんなことより、お兄様はこんなちんちくりんで愛くるしい小動物みたいな子が好みなのかしら?」
おい。急に失礼なこと言いだすよね、この王女様。
「あなた、年齢はおいくつでして?」
「16……歳です」
「16歳ですってーーーっ?」
悪いか?まぁ自覚はあるから別にいいけどね。
「ごほん、失礼致しましたわ。年上の方への礼儀がなっておりませんでしたわね。謝罪致しますわ」
なんか急にトーン変わったんだけど?
「いえ……お気になさらず……」
「そういうわけにはいきませんわ!たとえ身分に差があろうとも、年上の方に敬意を払うのは当然のこと。この度の失態、誠に申し訳ありませんでしたわ」
「謝罪を……受け入れますので、どうか……そのくらいで……」
「それで……その……お詫びといってはなんですが、私のことをエルナと呼んでいただいてもよろしいですわよ?というか、呼びなさい!……ですわ」
まず、彼女の私へのお詫びなのに何で私がエルナと呼ばなければならないのだろうか。
そして、王女様に向かって軽々しく呼べるわけがない……
「それは……」
「かっ、勘違いされると困りますわ!べっ、別にお兄様よりもお姉様が欲しかった、だなんて思っておりませんわ!」
いや、別に聞いてない。でも、お姉ちゃんが欲しかったのね。
「……エルナ……様」
「エステルお姉様!違いますわ!呼び捨てで構いませんわ!」
はい。来ましたね、無茶ぶり。王女様のご命令は断れませんし、どうにでもなれ、だよね。
「……エルナ」
「それでよろしいのですわ。お姉様」
「……私のことも……ステラ……でいい」
まぁ、ミリーも私のことを愛称で勝手に呼んでいるしね。
「わかりましたわ。ステラお姉様」
「……というか、エルナ。私を見極めるとか……言っていたけど……テオバルト殿下への……禁断の愛は?」
「……ステラお姉様は何をおっしゃっておりますの?お兄様なんかより、ちんちくりんで愛くるしいお姉様のほうがいいですわ」
え?私の完璧な推理が外れた?そんなまさか!
……というか、この子、また失礼なことを言ったよね?さっきの謝罪は何だったの?まぁいいけど。
「それに魔眼は持っていませんが、ステラお姉様が悪い人間ではないことくらいわかりますわ」
どこからくる、その自信……
「ちんちくりんで愛くるしい小動物みたいなお姉様が悪い人間だなんて信じたくないですもの」
おい。何回それ言うの?この際、最後まで数えてあげようか?記憶力はいいんだぞ?私。
そんな私を横目に「そんなことよりご一緒してもよろしくて?」と私に問いかけたエルナは私が答える間もなく、テーブルを挟んで私の目の前に座る。
「お兄様が連れてきたということは何かご事情がおありなのでしょう。私にも聞かせてくださいますわね?」
まぁ、やっぱりそこだよね。急に来た私の過去を知りたいよね。この国の王女様だしね。
「……わかった」
私はエルナにこれまでのことをすべて順番に話していく――
まぁ、相変わらず長い文章はまともに喋れないが、それでもエルナはちゃんと聞いてくれた。
「……というわけで……ここにいる」
「何ですの!?それは!」
急にどうした?まぁ、途中から眉間に皺寄っていたけどね。私に向けられたものではないことはわかってるけどね。
「フェテール王国もサンフルーヴ子爵も許せませんわ!こんなにちんちくりんで愛くるしい小動物みたいなお姉様を寄って集っていじめるなんてこのエルネスティーネが許しませんわよ!」
私のために怒ってくれるのね。でも……何回それ言うのかな?
「別に……気にしてない」
「ステラお姉様は悔しくありませんの?復讐したいと思ってもおかしくありませんわ」
「興味……ない。私は……いろんな本を読んだり……魔術の研究が……したいだけ」
「わかりましたわ。お姉様がそういうのであれば私もこの気持ちは胸にしまっておきますわ」
「……ありがとう、エルナ」
「べっ、別に感謝されることではありませんわ。おっ、お姉様の妹として当然のことですわ」
なんかこの国に来てから美少女に求婚されたり、勝手にツンデレ王女様の姉にされたり、忙しいよね、私。あ、でも勝手ではないか。否定しない以上、認めてしまっているようなものだからね。
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