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1. 双子のメイドと魔導技術

 ――グランツラント王国の王都フリーデンにある王城の一室。

 テオバルト殿下との長い旅路の後、ようやく王都に辿り着いた私は殿下の客人という扱いで城内にある豪華な部屋に通されていた。殿下には「まずはゆっくり休め」と言われたが、豪華すぎてゆっくり休めそうにない。いや、文句があるわけではない。布団もふかふかだし、家具などもそろっている。そして、キッチンとまではいかないが、給湯スペースもあるようだ。

 そんなわけでベランダに出て街を眺めているわけだが、フリーデンの街は私の故郷であるフェテール王国北部のヴィルタロの街に比べるとずいぶんと栄えている街だ。フェテールの王都には行ったことはないので両国の王都を比べることはできないが、ヴィルタロがそんなに都会ではないのでこの街には圧倒される。あ、でも、田舎ではないと言っておきますね。断じて私は田舎者ではない。

 と、そんなことを考えていると部屋の扉が勢いよく開く。

「初めまして~!!!エステル様担当メイドの……ってあれ~?エステル様はどこ~?」

「姉様!あなたという人は!それがメイドのすることですかっ!?」

 そして、そんな賑やかな声が聞こえ始めるのであった。

 確かに確認もせずに入って来るなんてメイドのすることではないよね。というか、片方はミリーと同じ匂いがするんだけどね……

 と思いながら、私は渋々閉めていたベランダの扉を開けて部屋に入る。すると、部屋にいたのは低身長・童顔・控えめな胸と私にとっては親近感を感じるメイドが2人。

 ……そして、まさかの獣耳と尻尾が愛らしい獣人!

 そして「姉様」と言っていた理由がひと目でわかるくらいそっくりである。

 ちなみにこの世界で獣人を直接見るのは初めてである。本などの絵で見たことはあるし、まぁ、前世で日本にいた時はアニメやゲームで見ていたけどね。特徴的に彼女たちは犬か狼だろう。

 この世界では彼女たちの様な亜人に対して、私の様な種族は純人と呼ぶのだが、この世界の獣人は獣の耳と尻尾以外は純人と変わらず、体毛に覆われているとかではない。魔力量は他の種族よりも少ないが、身体能力に優れた種族である。実は魔力量は他の亜人とさほど変わらないのだが、良くも悪くもその大半を身体強化用のエネルギーとして蓄積してしまうため、自由に使える魔力量が少ないとされている。容姿は様々であり、犬や狼、猫や虎、狐、牛、栗鼠など様々な獣の特徴を持ち、角や耳、尻尾を持つ者が多い。過去には獣王国も存在したが、どの種族よりも立場が弱く、歴史を見ても純人の奴隷として虐げられてきた種族である。純人種に次いで世界各地で多く見かける種族である。

「……何か……用?」

 私は直感で眩いほどの笑顔を見せている子ではなく、その横にいる大人しそうな子に問う。

 灰色の髪と尻尾、そして、少し吊り目というか、猫目で冷たい印象の青い瞳が特徴的な子である。この子はこの子でかわいい。髪型は私と同じようなボブだ。

「はい。私たちは――」

「初めまして~!!!エステル様の担当メイドに選ばれましたルルアです!14歳です!よろしくお願いしま~す!」

 ダメだったか!空気読めない子だったか。そうかぁ……

 そんな空気が読めない子は灰色の髪と尻尾、そして、少したれ目で愛くるしい赤い瞳が特徴的な子だ。髪型はリリアと一緒である。空気が読めなくても、愛らしい見た目である。かわいいは正義だ。しかも14歳か、若いな。

「姉様!いい加減にしてください。……エステル様、申し訳ありません。私はルルアの双子の妹、リリア・ネブラスカです。このお城でメイドをしていますが、この度、エステル様の担当メイドとなりました。何なりとお申し付けください」

 ちょっと待ってね。ネブラスカ……うん、偶然ということにしておくけど、まぁ、彼女たちは狼系の獣人なんだろうな。

 というか、この人選。殿下の差し金だよね。

 最初はクールで真面目な人だと思ったけど、クールな感じのまま真顔でからかってきたり、困らせてきたりして、それを楽しんでいるようにも見えるんだよね。王都までの道中で私は気付いてしまったのだ。

 なので、絶対にどこかで楽しんいでるに決まっている。あの王子様は……

「エステル様、お疲れでしょう?紅茶でも飲んでゆっくりされますか?」

 メイドを傍に置くとか柄じゃないんだけど、これも彼女たちの仕事なんだよね。

「……じゃあ、お願い」

「私がやるよ!」

 聞いたのはリリアだけどルルアがやるのね。大丈夫かな?

 リリアは給湯スペースに向かい、お湯を沸かす支度を始める。

 なんとなく給湯スペースだとは思っていたけど、やはりあれがコンロなのか。もちろん魔導コンロはフェテールにも存在し、流通している。だが、フェテールのものに比べるとコンパクトだ。

「……それ、本当に魔導コンロ……なの?」

「はい。確かに通常の魔導コンロよりも小さいですね」

 リリアは察してくれたようだ。

「魔石……どうなっているの?」

 そう魔石がどうなっているのか気になったのだ。

 その前に魔導具の歴史を紐解くと、嘗てその発展に大きな影響を与えたのは蓄魔石と呼ばれる石から魔力を抽出できると判明したことである。嘗て蓄魔石は吸魔石と呼ばれ、魔力を吸う石という認識だけであったが、これに目を付けた人々によって魔力を蓄積する石である性質が発見され、この畜魔石と属性魔石を組み合わせることで魔導具が発達していった。畜魔石の魔力蓄積量は大きさに比例する。

 属性魔石とは、火魔石、水魔石、風魔石、土魔石、氷魔石、雷魔石、光魔石、闇魔石などがあり、石に魔力を流すと、それぞれの属性に応じて様々な反応をする石のことである。これは自然界に存在するものではなく、素魔石と呼ばれる石、あるいは畜魔石に魔法陣を刻むことで人工的に作られる。素魔石で作られた属性魔石は畜魔石との物理的接触で発動するため常に発動させない魔導具に使用され、畜魔石で作られた属性魔石は常時発動させたい魔導具に使用する。

 素魔石とは、蓄魔石のように石全体へ均一に魔力を行き渡らせる性質を持ちながらも、魔力を蓄積する能力を持たない石、つまり、魔力を流している間だけ魔力で満たされ、供給が止まれば速やかに魔力が抜けていく石である。この素魔石に精密な魔法陣を刻み込むことで、流し込まれた魔力を各属性の現象へと変換する属性魔石が完成するのだ。

 このため常時発動させない魔導具には2つの魔石が必要なのだ。加工されたこの2つの魔石を直接触れ合わせることで反応する。魔導コンロもこの仕組みであり、スイッチを入れると畜魔石と火魔石が接触して火が付き、スイッチを切ると畜魔石と火魔石が離れて火が消えるという仕組みなのだ。だから、こんなにコンパクトにはできないはずだ。

「それがですね~!」ルルアが得意げに話し始める。「この国の賢者の1人で『巧智の魔導具師』の異名を持つ偉大なるセラスティア様が10年前くらい前に畜魔石から魔力を抽出するための『魔導コア』とその装置に接続して魔力を各魔導具に内蔵された属性魔石に供給する『魔導線』を開発したからなのです!ほら、ここから魔導線が伸びていますよね?これが魔導コンロに繋がっていて、コードの先端を壁にある差込口にさすことで魔力供給しているのです。供給元の魔導コアですが、お城の場合は地下に大きな魔石がいくつかありますよ!」

「ちなみに王都の一般家庭以上の層には既に普及しています」

 え?マジか。それって前世で言うと家庭用の蓄電池やソーラーパネルと電気配線を開発したようなものだよね。やばくない?この国!それを魔導具に落とし込むなんてどんな天才いるの?1人でエジソンとテスラやってない?

 そして、フェテールでは見たこともないし、聞いたこともないよ?あの国、こんなに技術の差があって大丈夫かな?

 私はそんなことを考えながら魔導コンロを見た後、おしゃれな丸いテーブルの前の椅子に座る。

 まぁ、そんなことより、気になる。セラスティアって人が気になる。そしてこの技術も気になる。フェテールではこんな情報が載っている本もなかったし、私の知らない技術がこの世界にはあるんだ。

「エステル様~!できました~!」

 ルルアは満足そうに微笑んでこちらに向かって来る。

「――うわぁ!」

 あ、気を付けてね……って思った矢先に盛大に転んじゃったよ!

 うつ伏せで床に倒れるルルアと床に転がるティーカップ、もちろん中身は床にぶちまけられている。まぁ、私にかかることはなかったからいいけど。

「いたたた~。転んじゃいました!てへっ」

「何をしているのですか!姉様!てへっじゃありません。てへっじゃ!」

 まぁ、かわいい双子の獣耳メイドに囲まれる生活も悪くない。これはこれでいい!


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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