35. 理の魔女と魔導洗濯機
――エレオノーラさんの工房。
この日、私はエレオノーラさんにあるものを作ってもらうためにこの場所に来ていた。
パンデミックから始まり、軍事強化と忙しかったわけだが、ようやく落ち着いてきたので、今度は国民の生活水準向上に動き出していたのだ。国民の生活も重視しているのがこの国のいいところだが、まぁ、その依頼が私に来たのである。
賢者も色々大変なんだよね。基本のんびりしているお前が言うなっていうツッコミはなしでお願いしますね。
そこでいろいろ検討していて、一般庶民も使えるもの、一般庶民も使えて軍事面でも役に立ちそうなもの、貴族向けの娯楽品など幅広く考えてはいる。
その第1弾として洗濯機を作ろうと思っている。この世界にはまだ洗濯機がなかったんだよね。なので、エレオノーラに遠心分離機・温度調節機の応用で脱水機能付き洗濯機を作ってもらおうと思って、設計を考えて今日ここに来たというわけだ。
「今日はどんな設計図を持ってきたんだ?」
「……脱水機能付き……洗濯機の……設計図です」
「洗濯機?」
「はい。洗濯するのも……大変だろうと……思いまして、それを自動化する……魔導具を作ろうかなと思いました」
タイマーはないので完全に自動ではないけれどね。水を入れ替えたり止めたり脱水に切り替えたりするのは手動でやらなければならない。なので、見ている必要はあるが、家庭ならば他のことができるし、メイドさんたちであれば洗濯機の見張りという名目でのんびりすることもできるのだ。
「なるほどね。……温度調節機の時みたいに複雑ではなさそうだね」
「まず……回らない外枠に……でっぱりを作ります。その両側に……それぞれ逆方向に吹く……風魔術のトリガーとなる……素魔石を取り付けて……ください。槽の外側にも……でっぱりを作り、魔力を流すための……線と素魔石を……設置します。これで……時計回りの時は……1回転すると外枠のでっぱりの……素魔石に当たって逆回転。反時計回りの時は……約1回転すると……外側のでっぱりの……素魔石に当たって……逆回転という仕組みを……作れると思います」
「要するに温度調節機みたいにするってことだね」
「はい。その通りです」
「脱水の仕組みも作り、脱水の時は外側のでっぱりを外すかレバーでしまえるようにして風魔術で一方向に回せるようにしてください」
「こっちは遠心分離機の仕組みを使えば大丈夫そうだ」
「はい。問題ありません。……という感じで、脱水機能付き洗濯機を作って欲しいです」
「やっぱり温度調節機や魔導銃に比べれば簡単そうだね。すぐ試作できると思うよ」
「……ありがとうございます」
「なになに~?……エステルちゃんたち来てたんだ~。何してるの~?」
ロッティさんが別室から現れる。この工房にはロッティさんの作業部屋もあるそうだ。まぁ、大人の魔導具が並べられてそうなので行きたくはないが……
「……え〜何これ〜?服ぐるぐる回す機械〜?ウケる〜!あ、あたしの新作も回してみよっかな~。マジ飛ぶと思う!」
何だそれ?どういう仕組みにするつもりなのだろうか。謎である……
「あ、そうだ~!エステルちゃんさ~、私の作業部屋に来てみない~?面白いと思う!」
「……結構です」
「そっか~、残念!じゃあ、ユーリアちゃん来てみる?」
「わわっ、私でありますか?わっ、私もご遠慮させてもらうのであります~!」
「え~、面白いと思うんだけどな~」
「おい。ロッティ!いい加減にしろ!いつまでもアホなこと言ってんじゃないよ」
「……ごめんなさい」
「……そんなことより、機構は作れるけどさ、水だけで回して汚れは落ちるの?」
確かにその通りだ。洗剤も必要だ。だが、それも含めて計画を立てている。
「……そうですね。……既存の洗剤だと……厳しいかもしれません。それはフィリーネさんのところに行って相談してきます」
「エステルは流石だね。……あとさ、交互に回すのは理由があるんだよね?」
「服がまとまってしまうのを……防ぐため、複雑な水流で……繊維の奥の汚れを……浮かせるため、同じ方向に強く引っ張ると……服が傷むので……それを防ぐため……です」
エレオノーラさんとしばらくそんな会話をした後――
「――お~い!コルネリア様が魔導銃の部品を取りに来てやったぞ~」
そんなコルネリアさんの声が聞こえてくる。
「おっ!エステルじゃねぇか!……あ、聞きたいか?」
何を?……いや、まぁ、だいたいの予想はつくけれど聞きたいとは思わないよね。
「ふっ、仕方ない!教えてやろう!……今、アーレント・コルネⅢに向けて魔導銃を改良中だ!」
やっぱり魔導銃ネタだよね。最近、この人はそれしか頭にない。
「へ~、そうなんだ~!あたしはね~、また新作を作ってるところ~!今までのよりもマジで飛ぶやつにした~い☆彡」
いや、横ピースされてもね。そっちはもっと聞きたくはなかったけどね。いや、まぁ、この人もそれしか頭いないのは知っているけどさ。
「まぁ、ロッティの戯言は置いといて、また新しい魔導具作るのか?」
「……脱水機能付き……洗濯機……です」
「へぇ、……その中にロッティ入れてあたまんなか洗ってやればいんじゃねぇのか?」
いや、それ絶対にダメなやつだから。良い子のみんなは絶対にやらないでね。
「コ~ル~ネ~、そんなこと言っていいのかな~?あたしがコルネの弱点知ってるの忘れてないよね~」
「べっ、別に弱点なんてねーって!」
いや、コルネリアさん、それは無理がある。既に顔が赤くなっていますよ。
「コレだよね~!」
「おい!バカ!そんなもん出すな!」
「じゃあ、弱点って認めなよ~!コルネ~」
「お前!うちが今魔導銃を持っていないことに感謝するんだな!」
まぁ、この2人は本当に仲がいいよね。2人はこれでいんじゃないかな。あはははは……
「おい。ロッティ!いつまで馬鹿なことやってんだ!この馬鹿弟子がーーーっ!!!」
エレオノーラさんの拳がロッティさんの頭に落ちる。
「――いった~い!師匠は手加減という言葉を知らないんですか~?」
「お前に手加減をする必要はない!少しは反省してくれ!」
まぁ今となっては見慣れてしまったいつもの流れである。
ていうか、ロッティさんも懲りないよね。エレオノーラさんに怒られ、フィリーネさんに怒られても改心することはなさそうだ。
「で?何だっけ?……あぁ、魔導銃の部品だったね。そこに置いてあるやつが今回のぶんだよ」
「おぉう、わりぃな!またよろしく頼むよ!……じゃあ、魔導銃の部品を取りに来ただけだし、そろそろ帰るわ」
「え~?そんなこと言って、あたしに会いに来たんじゃないの~?」
「んなわけねぇだろ!バカか?そもそも、お前も変な魔導具と男にしか興味ねぇだろ!」
「そんなことないって~!あたしの魔導具見て顔真っ赤にするコルネも十分面白いし~!」
「うるせー!ファンテネブリアは黙ってろ!」
ちなみにファンテネブリアとはサキュバスのような魔物だ。だが、綺麗なお姉さんではなく、人型の魔物であり、ただの化け物である。残念だったな、男どもよ。とまぁ、そんな感じなのでロッティさんはファンテネブリアではないよってフォローはしておきます。
まぁ、話は逸れたけど、まずは洗濯機の依頼を完了させたのである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけた場合はページ下の【★★★★★】やブックマークで応援していただけると執筆の励みになります!




