34. 理の魔女と星降る夜のエチュード
――騎士団の射撃訓練場。
それから数日後、グランツラント王国に新たな騎士団・紫鳳魔銃士団が誕生する。元々騎士だった若者たちを集めて設立した銃士団だ。まぁ、新しい技術には若い人たちのほうが対応しやすいからね。
設立からしばらく経ったある日。私はその紫鳳魔銃士団の訓練の視察に来ていた。
既に銃士たちが訓練を始めており、辺りには銃声が響いていた。今は射撃訓練が行われている。それぞれが的に向かって銃を撃っているのだ。
「ひゃっは~!……しゃあ!やっぱり最高だねぇ!この魔導銃ってやつはよぉ!」
テンション高めの純人の男がベルンハルト・ラウフェンベルク、この銃士団の団長の28歳の騎士である。イケメンであり、女性人気も高いが、チャラい雰囲気だし、女遊びもしているそうだ。ロッティさんの男版といった感じであり、まぁ、私が苦手なタイプだよね。ロッティさんには慣れてしまったが……
「……ベル、うるさい。黙って撃てないの?……ボクは気が散って楽しめないんだけど」
彼女はベルンハルトさんの妹で副団長のクラウディアさんだ。24歳のクールなボクっ娘キャラであり、中性的なルックスで女性人気も高いそうだ。まぁ、中性的とはいっても女性だとわかる顔立ちで美人ではあるけどね。
現状、魔導銃の腕も銃士団トップの2人である。
銃士団の訓練には通常の的撃ちもあるが、コルネリアさんとロッティさんが作ったあのクレー射撃装置も導入されていたり、スライム弾を使用した模擬戦も導入されていたりと、コルネリアさんの発想が大活躍しているようだ。
「お、エステルちゃんじゃねぇか!……わざわざ俺に会いに来てくれるなんて嬉しいねぇ」
違うし、馬鹿!そんなわけないでしょ。私はお前に興味はない。むしろ、苦手だからね。
「今度、飯に行こうぜ!美味い店に連れて行ってやるからよ!」
……まぁ、最近はこんな感じで付きまとわれることも多くなった。そういうのはミリーだけで十分なんだけどね。
「……行かない」
「そんなこと言わずにさ!1回くらい付き合ってくれてもいいだろ?マジで!」
いや、私はお前を信用していない。1回でも無理だからね。行くわけないから……
「……無理」
「まぁ、そんなところもかわいいけどな」
そんなことを言いながらベルンハルトさんが私の肩に腕を回そうとした時であった――
「それはダメなのであります~」
その腕を振り払ったのはユーリアさんだ。
「エステル様に気安く触れるな!なのであります~!」
「おいおい、何すんだよ!……邪魔すんじゃねぇよ、ちびっこ!……何だ?お前も俺の女になりてぇのか?」
うわぁ~、さすがに引くよね。こういう発言。やっぱり、この人は苦手だ。
「ちち、違うのであります!何を言っているのでありますか!?あなたなんて嫌いなのであります!」
「まぁまぁ、そんな怒るなって!かわいい顔が――」
「ベル、エステル様とその子から離れて……」
ベルンハルトさんの頭に銃を突きつけたのはクラウディアさんである。
ベルンハルトさんは苦笑いを浮かべながら黙って両手を上げる。
「エステル様、申し訳ございません。うちの馬鹿兄がいつも迷惑をかけて……」
「おい、兄貴に向かって馬鹿は酷いじゃねぇか!」
「兄でも馬鹿は馬鹿。……馬鹿は黙って。それに訓練サボって何をしているのかな?」
「……わりぃ。……わかったよ!戻ればいいんだろ?戻れば!」
ベルンハルトさんは渋々訓練に戻っていく。
「本当にどうしようもない兄で申し訳ございません。……ボクは心配ですよ。……アレが団長でこの銃士団は大丈夫なのかなってね」
まったく同意見だ。クラウディアさんも大変だよね。……でも、魔導銃の腕はいいし、若い銃士団では、あの人もあの人で良い兄貴分として慕われているようだし、大丈夫だとは思いたい。
「……まぁ、……大丈夫だと……思いたい」
「まぁ、確かにもう決まったことですからね。……では、ボクも訓練に戻ります」
クラウディアさんも訓練に戻っていく。クラウディアさんには大変な思いをさせてしまうかもしれないけど、何とか頑張って欲しい。
私たちはその後の銃士団の訓練を眺めるのであった――
「ベルンハルトの兄貴ぃ~!思ったところに弾が飛ばないんですが、どうすればいいっすかね?」
「そりゃ、風吹いてんだから普通に狙っても当たらねぇだろ!風で流されることも頭に入れて狙いをつけるんだよ!」
「なるほどっすね!マジ感謝っす!」
「いや、前にもみんなの前で言ったよな?お前って奴は本当に馬鹿だな~。人の話をまったく聞いちゃいねぇ」
そんな会話が聞こえてくる。
ベルンハルトさんもちゃんと注意はしているが、怒っている様子ではなく、何だか楽しそうにしている。まぁ、ベルンハルトさんも真面目にしていれば、面倒見が良くてかっこいいお兄さんなんだけどね。流石にあれは残念でしかない……
「やっぱりクラウディアさんはかっこいいのであります~!」
ユーリアさんはクラウディアさんを見ているようだ。
クラウディアさんは黙々とクレー射撃の訓練を続けている。まぁ、確かに絵になる光景ではあるよね。
「……銃士団の訓練の視察とは熱心だな」
そう言いながら私たちのもとに来たのはテオバルト殿下である。
「……どんな様子か……見に来ただけ」
「まだまだなところはあるが、少しは様になっているだろ?」
「……うん」
「まだ実戦に出せるほどの練度はないが、間違いなく我が国の切り札になるだろう。紫鳳魔銃士団には頑張ってもらわなければならないな」
「……大丈夫だと……思う」
「そうか。我が国の賢者様がそういうのであれば安心だな」
「……そんなこと……思ってないくせに……」
「俺は本気でそう思っている。お前には助けられてばかりだからな。お前がこの国に与えてくれたものはたくさんある」
私はいつもテオバルト殿下に助けられているんだけどね。
「私もエステル様が来てからこの国は変わったと思うのであります~!」
「そんな賢者様が大丈夫というなら俺はそれを信じるまでだ」
「……私は……この国に……恩があるだけ。……それに……テオバルト殿下にも……」
「お前は恩など気にする必要はない。俺がお前を有用と判断し、勝手にお前を傍においているだけだからな。お前はお前の好きにすればいい」
「……監視する……くせに」
「それは当然だ。お前にもしものことがあったら国が困るし、何より俺が心配だからな。それに何度も言うが、俺はお前を手放すつもりはない」
またこういうことを真顔で言うんだもんね、この人。……でも、私が安心して自由に生きられるのは殿下のおかげだ。
その後はテオバルト殿下と一緒に紫鳳魔銃士団の訓練を見るのであった――
しばらくすると、訓練はあのスライム弾を使った模擬戦へと移る。ベルンハルトさんチームとクラウディアさんチームに分かれての模擬戦だ。
楽しそうに魔導銃を構えるベルンハルトさん、指示を出しつつ黙々と引き金を引くクラウディアさん、そして、魔導銃という新しい武器を上手く扱えるようになるために、必死に訓練する銃士たちの姿がそこにはあった。
これは紫鳳魔銃士団による星降る夜のエチュードだ――
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