33. 理の魔女と帝国の牙
――フリーデンの街。
今日はルルア、リリア、ユーリアさんと買い物に来ていた。
たまには休みの日もこうやって外にも出ないとね。いや、まぁ、渋々ではあるけど……
「いい匂いがするのであります~!」
「ほんとだね~!おいしそうだよ~!」
ユーリアさんとルルアが釘付けになっているのはシュニッツェルである。目の前の屋台で売られているのだ。爽やかなお兄さんが魔導コンロの前で揚げている。
「姉様、寄り道はいけません!」
そう言うリリアも食べたそうにはしている。
「いらっしゃい!揚げたてサクサク!美味しいですよ~!……あれ?理の魔女様じゃないですか!?理の魔女様もどうですか?」
「……じゃあ、4つ……もらおうかな」
私は先にお金をお兄さんに渡しておく。こういう時はいつも私が3人に奢ってあげるのだ。まぁ、こうでもしないと他に使い道がないというのも理由だが、いつものお礼でもある。
「はいよ!……少々お待ちくださいね!」
屋台のお兄さんは目の前で私たちのぶんを揚げてくれるのであった。しばらくして、揚がったシュニッツェルをお兄さんから受けとる。
「熱いので気を付けてくださいね!」
「……うん。……ありがと」
「またいつでも来てくださいね!お待ちしております!」
その後、私たちは広場にある噴水前のベンチに向かい、そこでシュニッツェルを食べることにした。
「エステル様、ありがとうございます!いただきま~す!」
「感謝であります~!いただくのであります!」
「エステル様、いつもありがとうございます。それでは私もいただきます」
「……うん、食べよ」
外側はサクサク、中はジューシーで柔らかい。塩・胡椒でしっかり味付けされていて、レモンの香りが広がる。……美味いな。
ちなみにこの世界は海妖種たちのおかげで海洋貿易が盛んなため胡椒や砂糖といった調味料も普通に出回っている。高価なものではないのだ。
「あ、ロッティさんだ~!」
シュニッツェルを食べながらルルアが指さす。
その先には確かにロッティさんの姿があった。男の人と歩いており、腕に抱き着いて密着しながら歩いている。相変わらずである。
「また違う男の人ですか。ロッティさんも相変わらずですね」
リリアは呆れた様子で遠くのロッティさんを見ている。
「……それはそうと、少し気になるのであります。少し前からですが何者かにつけられているのであります」
ふと、ユーリアが小声でそんなことを言い始める。……いや、まぁ、私も気づいていたんだけどね。勘違いだとも思ったが、私たちがここに来ると、足を止めて遠くから様子を見ているようだからね。
「やはりそうでしたか。人気のないところに誘導しましょう」
リリアはやる気満々である。
しばらくしてシュニッツェルを食べ終えた私たちは気づいていないふりを続け、その場から離れる。広場を離れ、大通りを進み、裏道へと進んでいく――
その後、遂に彼らが姿を現すのであった。いや、まぁ、ずっと見えていたんだけどね。
私たちを挟み込むように私たちの背後、そして進行方向から数人のフードを被った怪しげな男たちが近づいてくる。見るからに怪しげな人たちだ。
「へへへへっ、女の子たちだけでこんなところを歩いてたらダメじゃないか!」
「ずっとつけられているとも知らずにわざわざこんなところに来るとは馬鹿な小娘たちだぜ」
いや、馬鹿はお前たちである。というか、馬鹿すぎて言葉が見当たらない。
「お前が理の魔女だな?手荒な真似はしたくない!大人しくこっちに来てもらおうか!」
あ、やっぱり私が狙いなのね。ブルーノさんが言っていたやつかな?ここまでして自国で薬を作りたいんだね。でもさ、どこだか知らないけど、こんな人たちを差し向けてきた国は大丈夫なのか?
「いや、簡単な仕事でしたね!これで我が国もこんな弱小国に後れを取らずに済むでしょう!」
「何を勝ったつもりでいるのでありますか?このユーリア・タミアスがいる限り、エステル様には指一本触れさせないのであります!」
ユーリアさんが剣を抜く。ちなみにユーリアさんは双剣である。右手に持った方の剣の先端を男たちに向ける。……ユーリアさん、かっこいい。でも、たぶん出番はないんだよね。
「いや、手荒な真似はしたくないんだけどね~。そっちがその気なら構わないよな~?……大人しくしていればいいのにね~。まぁ、俺らは悪くないよな~?うへへへへっ」
「騎士が1人で俺たちに勝てると思っているのか?……行け!理の魔女を捕らえろ!」
剣や短剣など、それぞれの武器を持った男たちが私たちに襲い掛かる。だが――
あたりに銃声が響き渡り、男たちが次々と倒れていく。
こういう時のためにルルアとリリアは魔導拳銃を携帯しているのである。メイド服のスカートを翻しながら男たちに向けて引き金を引く2人。ただ、ちゃんと足を狙っているようだ。
まぁ、相手からしたら知らない武器だし、何が起こったのかわからないよね。
「エステル様に刃を向けるとは愚かです。万死に値しますね。……でも、姉様も見事です」
「私も頑張って練習したんだからね~!当然だよ~!」
確かにリリアはわかるが、ルルアは意外だった。ルルアも練習の成果でしっかりと当てられるようになったようだ。
「くっ……何なんだ!?それは!」
「おっ、俺の足に、ああ、穴がぁぁぁあ!」
「……そんな武器を持っているなんて聞いてねぇぞ!」
地面に倒れた男たちが苦痛に顔を歪めながらいろいろ叫んでいる。
「一体馬鹿はどちらなのですか?……そもそも、私たちはずっと気づいていたのですよ?罠にはまったのはあなたたちのほうです。馬鹿な小娘たちに弄ばれた気持ちはどうですか?」
リリアは馬鹿な小娘と言われたことに怒っていたらしい。
「ふざけるなぁぁぁ!俺たちがこんな小娘なんかに!……負けてたまるかぁぁぁ!」
「はいはい、動かないでね~!私、下手だから今度はどこに当たるかわからないよ?……てへっ」
いや、ルルアのそれはある意味で本当に怖いよね。
「私の出番はなかったのであります~!少し残念であります~!」
「……ユーリアさんも……ありがと」
いや、でも、今の銃声で人が集まってきたな。人気のない裏道とは言え、大通りにも近いからな。それはそうか……
そんな人々をかき分けてこちらに駆け寄って来る女騎士たちが見える。
アレクシアさんが率いる白凰騎士団の皆さんだ。
「理の魔女様!大丈夫でしたか!?」
「……うん。……大丈夫」
「……遅かったようですね。申し訳ありません。ずっと探していたのですが……」
「……探していた?……何かあったの?」
「はい。フィリーネさんの研究所も襲撃されまして……」
「大丈夫なの!?」
私は思わず大きな声で問う。まぁ、予想は出来たことだが、フィリーネさんやオリヴィアさんたちのことが心配である。
「はい!被害はないとのことです!……ブルーノ殿の助言で最近はずっと騎士が常駐して警備していましたし、あっちはジークフリートさんが責任者なので当然の結果ですね」
やはりジークフリートさんは普段はあんな感じだけど、噂通り頼れる男なんだね。でも、真面目なジークフリートさんの姿を見て見たかった気はする。……正直、信じられないからね。
「……それなら……よかった」
「……この者たちを連行せよ!……話は後でこの者たちにじっくりと聞かせてもらう!」
こうして、私たちは降りかかる火の粉を払いのけたのであった。まぁ、災難とも言えない程度のことではあったが……
後にこの男たちは西大陸の大国・グラヴィノクス帝国の手の者たちであるとわかり、ブルーノさんの予想が当たったことで軍事強化の優先度はより一層高くなるのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけた場合はページ下の【★★★★★】やブックマークで応援していただけると執筆の励みになります!




