31. 理の魔女と試作銃
――射撃訓練場。
それからしばらく時は流れ、試作銃が完成したとのことで、今日はその試射会を行うことになっていた。とはいっても別に私たちだけで試し撃ちしてみようというだけの会だ。
まぁ、私は撃たないけどね。貧弱な私には撃てなさそうだし……
普段は弓の訓練を行う射撃訓練場だが、ブルーノさんがその一角を確保してくれていた。レーンで言えば3レーンだ。
その1つでは既にコルネリアさんが試射を始めている。だが、彼女の視線の先には的がない。その代わりにレーンの奥に装置のようなものがあり、その箱から魔導線がレーンに沿って伸び、コルネリアの足元の小さな装置に繋がっている。
コルネリアがその足元の装置を踏むと、奥にある装置から円盤状のものが次々と飛び出す。
コルネリアさんはそれを撃ち落としていくのであった。
確かにクレー射撃の話はしたが、こんなものまで作って来るとは流石である。
「ひゃっはー!いい感じじゃねぇか!ロッティ!」
「まぁ、あたしにかかればこんなの普通っしょ!」
あ、ロッティさんに作らせたのね。
コルネリアさんは地面に伏すと、そのまま銃を構えて、肘で装置を押しながらクレーを撃ち落としていく。それよりもコルネリアさんのお尻がかわいい……じゃなくて、射撃の腕が半端ないな。
「これやべぇな!めちゃくちゃ面白いじゃねぇか!ロッティもやってみたらどうだ?」
「あたしは別にいいやー!危なそうじゃん?」
ロッティさんはそこまで興味があるわけではないようだ。何だかんだ2人は仲がいいので、コルネリアさんのために協力したのだろう。
「別に危なくねぇよ!……まぁ、別にいいけどな!」
別のレーンではブルーノさんが銃を構え、木に鎧を着せた的を撃っている。やはりブルーノさんと銃の組み合わせは絵になるよね。
「なるほど、これくらいの鎧ならば撃ち抜けるのか……」
「その通りだぜ!銅や鉄、鋼くれぇなら撃ち抜ける!それよりも上のクラスになると厳しいけどな!ミスリル、いや、そこまで高価なものじゃなくても、同じ強度のもので安価で手に入る魔物の素材もある!そのランクのものになると撃ち抜くことはできねぇはずだ!」
コルネリウスさんの言う通りである。武器に加工するとなるとミスリルだが、防具であればミスリルよりも安価で同じくらいの強度がある魔物の素材で十分だ。むしろ、そのほうが防具としては加工しやすい。ベースとなる防具に魔物の鱗や甲殻を貼り付ければいいだけだからだ。
ついでの話にはなるが、安価で同じくらいの強度がある魔物の素材があるのに、何故武器はミスリルがいいか。これは簡単だ。切れ味を求めるのなら魔物の素材は不都合だ。元々角が大きい、あるいは尻尾が刃になっているような魔物のその角や尻尾であれば話は別だが、牙や爪、角にしても武器を作れるほど大きなものはそこまで多くない。となると、魔物の素材だけで武器を作ろうとするとつぎはぎになるし、鉱石ベースの武器に魔物の素材を張り付けるようなものだと段差ができて当然切れ味が落ちるため、例えばミスリル100%の武器のほうが切れ味も良く、強度もあるという理由もあるからだ。魔物の素材で刃の形を複雑にするという意味も持たせることは可能だが、それでも、やはりミスリル100%でその複雑な刃の形を作ったほうが良いのだ。
魔物の素材を溶かせばいいと考える人もいるとは思うが、そんなことをすれば鉱石と違って元の状態には戻らないし、魔物の素材の良さも消えるだろう。
この世界では魔物の素材を使ったから属性が付くなんてこともない。そもそも竜の素材を使ったからと言って、竜が生きていた頃は特殊な臓器で火や炎を生成しているし、牙や爪、鱗を使った武器が炎属性になるわけではない。特殊な臓器を何らかの方法で武器に使えばいいかもしれないが、竜を倒している時点でその臓器の機能は停止しており、火や炎の素は残っているとしても、それを武器に使うことはできない。
という理由でこの世界では魔物の素材を武器に使う意味はほとんどない。
一方で、防具にはいろんな使い道があるのが魔物の素材である。牙や爪、鱗などには属性が宿ることはないが、自分の攻撃で自分が傷付かないように耐性を持っている場合がほとんどだ。この耐性については魔物の生死に関わらず変わらないものであるからだ。
「だが、弓の上位互換としては問題ない性能だ。反動にさえ耐えることができれば誰でも撃てるというのが素晴らしいな」
「ふっ、誰でも撃てる、か!がはははは!……だが、狙い通りに正確に撃つにはこいつもコツが必要だぜ」
「そんなことはわかっている。だが、弓よりは難しくはないことも事実だ」
ブルーノさんは満足している様子だ。普段厳ついだけのイケオジがここまで楽しそうにしているのは何だか微笑ましい。
もう1つのレーンではこれまた絵になるイケメンが的に向かって銃を構えている。テオバルト殿下だ。黙々と引き金を引いているが、何だか楽しそうである。殿下も男の子というわけだ。
「……ふっ、悪くないな」
しばらく無言で銃を撃ち続けた後、殿下はそう言いながら私のところにやって来る。
「ブルーノさんの言う通り、銃士団を作るのも良さそうだ。……納得できる内容だったからな。薬を作ったかと思えば、今度は武器まで作るとは、やはりお前からは目が離せないな」
私はブルーノさんの依頼で設計しただけだ。またそうやって私を監視下に置く理由にしてくるのはどうかと思う。
「……ブルーノさんに……依頼されただけ。……それに……この国を守るのに……必要だと……思った……から」
「大丈夫だ。わかっている。……お前がそのような気持ちで設計したものを誰にも悪用させたりはしない」
「……うん。……信じている……から」
「何だか楽しそうだし、私もやってみよ~!こんな機会なかなかないからね~!エステル様担当メイドの特権だよね!」
テオバルト殿下に続いてルルアが挑戦するようだ。
「姉様!気を付けてくださいね!」
「リリアは心配性だな~。大丈夫だよ~」
「ねっ、姉様!それをこっちに向けないでください!さっき注意されたばかりですよね!?」
「えへへ、そうだった!……ごめん、ごめん」
ルルア、大丈夫かな?一番持たせちゃいけない気がするんだよね。でも、メイド服に魔導拳銃もなかなか良いものだね。
ルルアは的に向かって構え、引き金を引く。銃声が響き渡るのであった。
あ、的には当たらなかったけど、練習すれば当てられるようにはなりそうかな。
「あ~あ、外れちゃった~!難しいな~!」
「では、次は私が撃ちます。姉様は見ていてください!」
結局リリアも撃つんだね。まぁ、ずっと興味津々だったからね。
「リリア~!頑張って~!」
「姉様!静かにしていてください!」
リリアは鋭い目つきで的を見つめる。ルルアはかわいさがあったが、リリアは様になっている。戦闘メイドのそれである。そして、引き金を引き、放たれた弾丸は的に当たるのであった。
「まぁ、こんなものですね。私が外すわけありませんので……」
リリアのドヤ顔は意外とレアである。これはこれでかわいい。
「メイドたちも問題なく撃てるようだな」
その様子を見ていたのはブルーノさんだ。獣人が撃てるかどうか気になったのだろう。
「はい、ブルーノ様。私たち獣人、しかもメイドでも扱うことができます」
「それは良いことだ。訓練した兵ならば問題なく扱えるだろう。エステルに感謝だな」
ブルーノさんにそう言ってもらえるのはなんだかうれしい。
「では、国王陛下にも報告し、銃騎士団の話を進めなくてはなりませんね」
そう言ったのはテオバルト殿下である。
こうして、グランツラント王国は銃騎士団設立に向けて動き出したのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけた場合はページ下の【★★★★★】やブックマークで応援していただけると執筆の励みになります!




