29. 理の魔女と新武器開発依頼
――ブルーノさんのお屋敷。
今日は私、エレオノーラさん、コルネリウスさんがブルーノさんのお屋敷に招かれていた。ブルーノさんが私たち3人に相談があるらしい。
ブルーノさんの執務室に通された私たちは応接用のソファに座っている。メイドさんたちが持って来てくれたお菓子を食べ、紅茶を飲んだりしながら、しばらく近況報告や雑談をしていた――
「……さて、本題だが、お前たちに折り入って相談がある」
しばらくすると、ブルーノさんがそう切り出す。
「ブルーノの親父から相談事なんて珍しいじゃねぇか!」
そういって楽しそうに笑みを浮かべたのはエレオノーラさんだ。
「ブルーノ殿、それで相談ってのは一体何だ?」
「まぁ、待て。その前に話しておかなければならないことがあるのだが、これはエステルにも関わる話だ」
「……私?」
「お前が皆に作らせた薬だが、他国が狙っているという話もある。特にグラヴィノクス帝国あたりは我が国が独占していることに納得していないようでな」
まぁ、そんな国も出てくるだろう。予想はしていたことだ。お金を払うより、力で奪えばいいと考える国があってもおかしくはない。
「へっ、納得できねぇなら自分らで作ればいいって話だ!くだらねぇ!」
「それはあの国も考えているだろう。だから、動いてくることも考えられる。スパイが我が国に入って来ることも想定しておかなければならんという話だ。エステルも十分に注意しておくことだな」
「……わかった。……気を付ける」
「なるほどねぇ、今回の相談はそれに関係があるのか?」
エレオノーラさんがブルーノさんに問う。
「直接関係がある話ではない。だが、関係ないとも言えない話だな。……軍事改革と言えば大げさだが、軍事力の強化をするべきだと声が上がっている」
「エステルの基礎術式じゃ物足りねぇってわけか?」
「まぁ、魔術師自体がエリートで誰もが戦場に立てるとは限らないからな。そこで俺なりに考えてみたのだが、魔術が使えない者や獣人たちの有効な活用方法を見つけることが軍事力の強化に繋がるのではないかと考えている」
「まぁ、そりゃ、ブルーノ殿の言いたいことはわかるけどよ。俺たちに何をしろって言うんだ?」
「現状で魔術が使えない者や獣人たちは騎士になることが多いが、もっと違う使い方はできないかと思っていてだな。お前たちには新武器の開発を頼みたいのだ」
「へぇ、面白そうな話だねぇ!どんな武器を考えているんだ?」
エレオノーラさんはノリノリである。随分と楽しそうだ。
「遠距離武器が望ましい。現状では弓が一般的だが、現代の戦いではほぼ意味がないのが現状だ。騎士には鎧で弾かれ、魔術師には魔術でいなされる。魔術が使えない者や獣人たちが強力な遠距離武器を手にできたら軍事力の強化になると思わぬか?」
「確かにそりゃそうかもしれねぇけどなぁ。そんな簡単に思いつくものじゃねぇだろ!」
「ふっ、だから、エステルをここに呼んでいる。誰も思いつかないものを次々と思いつく天才だからな」
なるほど、それで私が呼ばれたのか。要するに私頼りってことね。まぁ、でも、前世の地球で遠距離武器と言ったらあれしかないよね。あまり軍事関係には関わりたくはないのだが、この国を守るという意味では仕方ないし、そのために自重しないと決めたからにはとことんやってやるまでだ。
「……銃がある」
「ほぉう、さっそく出てきたな。それでその銃とは何だ?」
「銃とは……筒の奥で粉を爆発させ……その勢いで弾、つまり小さな鉄の塊を……ものすごい速さで……飛ばす道具のことです。……弓矢と似ていますが……人間の力で弦を引く代わりに……爆発の凄まじい力を利用して……弾を押し出します。……だから……弓矢よりもはるかに遠くまで……一瞬で弾を飛ばすことができます。……手元にある小さなレバーを指で引くだけで、……誰でも簡単に使うことができます。反動は……あるけれど……」
「へぇ、まさにブルーノの旦那が求めているものじゃないか」
だが、この世界には地球とは違って、魔物の素材や地球の鉱石よりも頑丈な鉱石で鎧を作ったりするのでどこまで通用するかはわからない。それに弾丸のコストもだ。コルネリウスさんたちのような凄腕の職人がいるとはいえ、そう簡単に量産はできないだろう。火縄銃のようなものなら弾のコストは低いが、私がイメージしているのは現代的な構造だ。そして、アニメであるようなエネルギー弾なんてほぼ魔術打ってるようなものだし、そんなものでは今回のブルーノさんの要望には応えられない。
「……でも、鎧の性能によっては……弾かれるかも……しれません。それに……弾丸も……タダではありません。……コストがかかります」
「ならば、鎧には弾かれるという条件で少し考えてみるとしよう。現在の戦術は簡単に言えば、前線で騎士同士が力と力の勝負で押し合い、後方から魔術師が互いの騎士の足止めや敵の魔術師の邪魔をし、どれだけ相手陣地に騎士を送り込めるかを考えるのが主流だ。だからこそ、騎士の数や魔術師の総魔力量が多い大国が有利になるというわけだ」
その時の状況によって違うとは思うが、わかりやすく言えば確かにその通りである。ブルーノさんも私たちにわかりやすいように話してくれているのだろう。
「……だが、その銃とやらを取り入れた場合はどうなるか。銃を使うものを銃士と呼ぶことにするが、銃士は騎士には弱い、だが、魔術師には強いだろう。鎧を纏った魔術師などいないからな。詠唱前に銃で狙うことも可能だ。高速で鉄の塊が飛ぶのなら、防ぐこともできまい。一方で、騎士は魔術師には弱いだろう。現状でもそうだからな。いくら頑丈な鎧を纏っていても炎で焼かれてはどうしようもないし、爆発で吹き飛ばされればそれで終わりだ。もちろん、接近戦になれば騎士が有利だが、そこまで持っていくのはそもそも難しい。そう考えるのなら、銃士は魔術師に強く、魔術師は騎士に強く、騎士は銃士に強いという構図が出来上がるわけだ」
確かにブルーノさんの考えは間違いではない。魔術師と騎士の関係も1対1ならまだしも、戦争で騎士が魔術の雨をかいくぐって敵陣地の魔術師のもとに行くのは難しいし、既に勝ちが決まったような状況であるため戦う意味もないだろう。
「それでだ。銃士がいればこういう戦い方ができる。まず、戦いが始まった瞬間、超遠距離から銃士部隊が敵の魔術師を狙撃して無力化する。敵の魔術師がいなくなれば、味方の騎士も魔術師も相手の騎士だけに集中でき、すべての火力を集中でき、敵陣へ一気に突撃し、制圧できる。まぁ、相手も銃を持つようになれば、また戦術は変わっていくだろうけどな」
「仮に騎士の鎧に弾かれたとしても、銃とやらはそういう使い方で有用だっていいてぇのか。まぁ、確かにその通りかもしれねぇな」
「……で、どうするんだ?新武器はその銃に決めるのか?」
エレオノーラさんが問う。
地球の銃と同じものを作るならエレオノーラさんの出番はないが、私がイメージしているのは魔導銃だ。エレオノーラさんがやる気になってくれるのはありがたい。
「俺はこれでよさそうだと思うが、エステル次第だな。頼めるか?」
「……はい。銃は……魔導技術を……使わなくても、コルネリウスさんの……技術だけで……作れます。ですが、……・そうすると弾を作る……コストが跳ね上がり、運用上も……安全とも言えません。また、……弾のコストを……下げる方法も……ありますが、そうすると……今度は……銃の本体の……負担が大きく……なります。なので、魔導銃……の設計を……考えてみます」
「待て、嬢ちゃん。魔力を使うってことか?……すると、ブルーノ殿の求めるものとはズレるんじゃねぇか?」
「……ったく、何言ってんだ?コルネリウス。そうじゃなければ私がいる意味がねぇだろ?」
「だが、ブルーノ殿は魔力を使わない武器を求めているわけだからぁ」
「……いえ、銃の中の……爆発は小さなものですし、……必要な魔力は……微々たるものです。また、……畜魔石も活用するので……問題ないと……思います」
「なるほどな。それならば、その魔導銃とやらでいいだろう。……では、それで頼めるか?」
「……はい。……設計図を作ったら……お二人にお渡しします」
こうして、私はブルーノさんからの依頼で魔導銃の設計を担当することになった。軍事面に関わることになってしまうが、またエレオノーラさんやコルネリウスさんたちと一緒に何かできるというのは楽しみでもある。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけた場合はページ下の【★★★★★】やブックマークで応援していただけると執筆の励みになります!




