28. 理の魔女と熱血騎士
――お城の大食堂。
今日の料理長イチ推しメニューは「骨付き豚肉の熟成葡萄酢煮込み~蜂蜜ソース~」ということで、私もそれを食べている。まぁ、豚のスペアリブのバルサミコ煮込みであり、バルサミコベースのソースに蜂蜜を混ぜたものをかけているようだ。
「これ美味しいですよね~!」
ルルアが美味しそうに食べている。
「アレクシアさん、制服にソースを付けないように気を付けてくださいね。もちろん、姉様もですけど!」
リリアはルルアとアレクシアのことが心配のようだ。
「これは美味い!あと10皿はいけるぞ!」
アレクシアさん、さすがにそれはどうなんだろう。女の子として……
「――おぉ!シアじゃねぇか!隣す~わろっと!」
突然そんな声とともに私たちのところにやってきた騎士がアレクシアの隣に座る。
濃い赤色の髪、綺麗な赤い瞳のイケメンだ。
「訓練疲れたぜ~!肉だ、肉だ!肉をたくさん食って午後の訓練の体力をつけねぇとな!」
「相変わらずうるさい奴だな。……だが、あまり騒ぐな!理の魔女様もご一緒してるからな」
「おぉぉぉ!!!理の魔女様じゃねぇっすか!俺、青鳳騎士団所属のヘルフリート・シルドナーっていうっす!よろしくっす!理の魔女様!」
青鳳騎士団といえば、ブラオ・フェーニクスとも呼ばれ、グランツラント王国の主力である騎士団、つまり戦争になれば最前線で戦う騎士たちだ。
「ちなみにコレは私と同い年で騎士としては同期。昔からの腐れ縁というやつですね。少し……いや、ものすごく馬鹿ですが、熱い男です。なので、あんまり構わないほうが良いと思います」
言葉通りに受け取るならアレクシアさんは毒を吐いているのだが、どこか仲が良いからこその言葉であるとすぐにわかる。
「相変わらずひでぇな!シア!……それより理の魔女様!理の魔女様に俺が言いたかったっす!やっと言えるっすね!ありがとうございました!」
私は彼に会うのも初めてだし、お礼を言われることなど何もしていない。
「……え、何が?」
「俺、フェアケール出身なんすよ!で、あの時に家族や友人が魔女様の薬で助かったっす!この恩は一生忘れないっす!なんなら、今すぐにでも理の魔女様の護衛になるっすよ!」
「……馬鹿もほどほどにしておけ!」
「それは残念であります!エステル様にはこのユーリアという護衛がいるであります!」
「おうおう、何だ、ちびっこ!お前が理の魔女様の護衛なのか!じゃあ、しっかり守れよな!」
「言われなくても守るのであります~!」
「そのためにもいっぱい食って大きくなれよ!」
なんだろう。目上の人にはすぐに懐き、同じ年齢や立場の人とはじゃれ合い、後輩には優しい瞳を向ける。……大型犬、いや、その中でもゴールデンレトリバーやラブラドールレトリバーみたいな人だな。
「……ほれにひても、理の魔女はまはふごいっふ!」
「お前、物を口に詰め込みながら喋るな!」
「……わりぃわりぃ!……やっぱうめぇなコレ!あと20皿はいけるぞ!」
「お前はその程度か。私なら30皿くらいは余裕だな」
「じゃあ、俺は40皿だ!いや、50皿はいけるはずだぜ!」
この人たちは何をそんなに張り合っているのだろうか……小学生か?
「お二人とも食堂の在庫をすべて食い尽くす気ですか?」
「わぁ〜!どっちがたくさん食べられるか勝負ですね〜!」
「いや~、若者たちは今日も元気だね~」
そんなところに現れたのはジークフリートさんである。
「おじさんはそんなに食べたら胃もたれしちゃうからな~」
「ジークフリートさん、お疲れっす!」
「は~い、お疲れ~。最近、おじさん、ものすごく疲れてるからウザがらみはしないでくれると助かるな~」
確かにヘルフリートさんはジークフリートさんが苦手なタイプだよね。
「何かあったんすか?」
「いやぁあ、おじさん、生きているだけで疲れるからね。若い時と違っていろんなことがあるわけ。だから、そっとしといて欲しいな~。おじさん、の~んびり過ごしたいだけなんだよ」
「またそう言って仕事をサボろうとしているだけではないですか?」
「あはは、バレた?アレクシアちゃんはいつも真面目で偉いよね」
「これが普通です!ジークフリートさんが不真面目なだけです!」
「アレクシアちゃん、酷いな~。おじさん、これでも真面目にやってるんだけどね~」
「昔からシアの頭はアダマンタイトよりも固いっすからね」
「何だと?スライムよりも柔らかい上にスッカスカのお前に言われたくはない!」
そんな感じで言い合っている2人だが、傍から見ていると仲が良さそうだ。テオバルト殿下と私も他の人にはそんな感じで見えているのだろうか……って、何で殿下が出てくる。今はまったく関係ないのに。
そんなところに今度はフレデリカさんがやってくる。
「こっ、理の魔女様!ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「……うん。大丈夫」
「それでは失礼いたしましゅ!……あぁ、噛んじゃいました!私なんてダメダメですぅ!……あわわ、でもでも、そんな私が理の魔女様とお昼をご一緒するなんて無礼なのでは?おこがましいのでは?万死に値するのでは?」
フレデリカさんもいつも通りである。「万死に値する」は流石に意味わからないけど……
「……大丈夫だから」
「……ですが、エステル様のまわりも賑やかになりましたね~!」
「1人でも賑やかな姉様がそれを言いますか?」
「えへへ、1人でも賑やかだなんてそんなことないよ~!」
「いや、褒めていませんので照れないでください、姉様……」
でも、確かにルルアの言う通り賑やかになったと思う。まぁ、リリアの言い分もわかるけど……
「……おっ、おいしいですぅ!……あわわ、でもでも、こんなに美味しいお料理を私が食べても良いのでしょうか?明日首になるのでは?どこかに売られるのでは?」
いや、何があった?フレデリカさん。話聞こうか?
「……そういえば、理の魔女様!」
話しかけてきたのはヘルフリートさんだ。
「俺の家族や友人も理の魔女様のことを聖女だって言って感謝してたっす!」
聖女?やめて欲しいな。私は別に神を信仰していないし、神聖な力を使えるわけではない。むしろ、それを言うならフィリーネさんのほうがそれっぽいだろう。
それにこの国は別に宗教が根強いわけでもない。むしろ、学問を信仰しているといってもいい国だと思うが……
「……私は……聖女では……ない」
「わかってるっす!理の魔女様は理の魔女様っすからね!理の聖女様って言うのも何だか変っすよね?」
いや、まぁ、魔女にこだわりがあるわけでもないんだけどさ。そして、理の聖女様って何?そんな異名が広がったらさすがの私も引きこもるぞ。まぁ、現状でも既に引きこもりだけど……
「……そうだね」
「おい!お前!変なことを言って魔女様を困らせるな!」
というアレクシアさんはまたソースを口の横につけている。
「口の横にソースついてるぞ!取ってやろうか?」
「うるさい!ちょっ、やめろ!こら!触れるな!私は子どもではない!」
その後もこんな感じで賑やかなお昼を過ごすのであった――
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