23. 理の魔女と私の意地
――エレオノーラさんの工房。
翌日。私はついに完成した設計書を持ってエレオノーラさんに会いに来ていた。もちろん、護衛のユーリアさんも一緒である。
「まぁ、座りなよ。……ここに来たってことは例の設計図ができたのかな?」
「……はい」
「え?なに、なにぃ?師匠が言ってたやつぅ?」
私は作業台に図面を広げる。理論上はこれで行けるはずだ。もちろん完全ではない。だが、最低限はクリアしているはずだ。
「うわ、マジヤバくな~い?何これ~?これ考えるの大変だったんじゃな~い?」
それはもう大変でしたよ、ロッティさん。
「……ふっ、なるほど、面白そうなものを持ってきたな。一応説明を聞こうか」
「……はい。まず、油は……ココナッツオイルを……使う想定です。すでに……ココナッツを……集めるための……指示は出しています」
「また意外なものに目を付けたな」
「……ココナッツオイルは一定の基準を境にして、暑くなると液体になり、寒くなると固体になる性質があります。その一定の基準というのがほぼ培養に適しているのです。それだけではありません。比較的サラサラになるという性質があるからこそ、この仕組みに合っているのです」
「なるほどね。それでココナッツオイルというわけか」
「……では、この図面について説明します。まずは回転する外枠です。円型の骨組みの上と下に油タンクを設置します。上になった時、かつ油が液体の時に受け皿に流れるように、下向きになる面に無数の小さな穴をあけます。上になった時に上から下に向かって微風が起こるような仕組みを作るのが望ましいです。回転しない部分に素魔石の端子を作って置き、動力源となる畜魔石からのびた魔導線につないでおく。それに接触するタンク側にも素魔石の端子をつくり、こちらはタンク内部で風魔石に繋ぐことで可能だと思います。……次に回転を防ぐストッパーです。どっちの油タンクも油の総量と同程度の重さになった時に回転ストッパーが外れ、油の総量よりも軽い時にストッパーがかかるように調整してください。以上の外枠を風魔術で回転するようにします」
「ここについてはストッパーの調整が大変そうだね。他は特に問題ないと思う」
「では、回転させない中央部分の説明です。回転する外枠の内側上部に油タンクから溶け出した油を受ける皿と下に流す細い注ぎ口を作ります。その注ぎ口から流れた油が先端に当たる、かつ、支点を作って上下に回転するように、シーソーの要領で平たい棒を設置します。その注ぎ口から流れた油が当たる先端部分に浅いくぼみを作ってください。注ぎ口が当たる逆側の先端を少し重くしておく素魔石を装着します。その平たい棒の中に魔導線を通しておき、重くした先端の素魔石に接続します。素魔石のある先端が下向きになっている時に接触する位置に温風用の魔導具に魔力を流すための素魔石を配置し、魔導線を繋げておきます。素魔石のある先端が上向きになっている時に接触する位置に冷風用の魔導具に魔力を流すための素魔石を配置し、魔導線を繋げておきます。中央部分は以上です」
口頭なのですべての説明ではないが、これが今回考えた温度調節器の構造である。もちろん詳細は設計図にしっかりと記載しておいた。
「ちょっとマジパないんですけど~エステルちゃ~ん!」
「これはすごいな。中央はいろいろ調整が大変そうだな。……とりあえず、続けてくれ」
「……実現したいことはこうです。一定の基準より寒い場合は固形のため上のタンクから受け皿に流れません。そのため、中央の棒の素魔石がある方の先端が下向きになり温風用の魔導具につないだ素魔石に接触し、魔力を流します。暖かい時は液体のため上のタンクから受け皿に流れ、注ぎ口を通って、中央の平たい棒に当たり続け、素魔石がある方の先端が上向きになり、冷風用の魔導具につないだ素魔石に接触し、魔力を流します。また、下のタンクが油の総量と同程度の重さになった時にストッパーが外れ、外枠が回転します。上から下になった油タンクは空なのでストッパーが効いており、回転が止まります。図面の説明は以上です」
この仕組みを実現したいのだ。理論上はできると思っているが……
「実際に……作るとなると、それなりに……問題も出てくると……思います。ですが、一旦……これで作り、不都合が出たら……その都度修正して……いこうと思います」
「まぁ、仕組みは理解できたよ。ただ、そうだね、やってみないとわからないけど、問題は出てくるだろうね。でも、こんな面白いものよく考えたな、エステル」
「……ありがとうございます」
「しかも、私の魔導線をこんな使い方するなんて思わなかったよ」
そう、エレオノーラさんの魔導線があったから思いついた仕組みでもある。やはり、エレオノーラさんは偉大だ。
「……エレオノーラさんの……魔導線があったから、できたこと……です」
「あたしの師匠マジパないっしょ?でもさ~、エステルちゃんも同じくらいマジパないってあたしは思うけどな~。だからさぁ、超頑張ったエステルちゃんにお姉さんがいいものプレゼントしちゃおっかな~。これ、マジパない私の新作なんだけど~、めっちゃ飛ぶやつね~☆彡」
大人の魔導具である。また新作作ったのかこの人は……その執念と技術は認めるが、別に私は欲しくない。いや、待てよ。確かに興味はある。いや、その物には興味ないよ?勘違いしないでね。仕組みや素材に興味があるってことね。断じてその物には興味はない。
「……いらない……です」
「ま?マジでいらないの~?マジで飛ぶよ?これ……そっか~、残念!じゃあ、ユーリアちゃんにあげよっかな~」
「わわっ、私でありますか?わっ、私もご遠慮させてもらうのであります~!」
「そっか~、残念!自慢の新作なんだけどな~」
「おい。ロッティ!いい加減にしろ!この馬鹿弟子がーーーっ!!!」
そんなエレオノーラさんの声とともに、エレオノーラさんの拳がロッティさんの頭に落ちる。
「――いった~い!……ちょっとした冗談じゃないですか~」
「良い冗談と悪い冗談があるだろ!お前の冗談は後者だ、馬鹿弟子が!しかも、こんな時に何をしてるんだ、お前は!……それより、お前にも手伝ってもらうから覚悟しておけよな」
「もち~!あたしがやらないで誰がやるんですか、師匠!」
コルネリウスさんとコルネリアさんも見ていて飽きないが、エレオノーラさんとロッティさんのこういったやり取りも面白い。お互いに信頼関係があるからこそのやり取りだろう。
「……で、話を戻すけど、この仕組みだけど撥油は必要だよね?どう考えているの?」
「……はい。植物性、……または動物性の……天然の撥油成分を塗布して、……油の付着や浸透を防ぐ……または……容器や受け皿……注ぎ口の全体……あるいは内側だけ……あとは棒も……そもそも撥油効果がある……素材を使えば……良いと思いますが……それは……エレオノーラさんにお任せします」
「わかった、考えてみるよ。あとは……とりあえずは問題なさそうかな。何かあれば、またその時に聞きに行くよ」
「……はい。……細かいことでも……気軽に聞きに来てください」
「……となると、あとは私次第ってことだね。コルネリウスも頑張っているようだし、フィリーネも気合入れているようだし、エステルも頑張った!私も負けてはいられないね!」
「……お願いします」
こうして、私はエレオノーラさんに設計図を託して後を任せるのであった――
その後、エレオノーラさんが苦戦しつつも温度管理装置を完成させ、フィリーネさんの研究所に培養環境が整うまで予想よりも時間はかからなかった。
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