16. 理の魔女と若手魔術師
――魔術師訓練場。
この日は赤鳳魔術師団の団長であるクラウス様の依頼を受け、サビドゥリア基礎術式を使った魔術の訓練に来ていた。もちろん、私が訓練を受けるわけではない。若手魔術師の訓練を見て欲しいと頼まれているのだ。
まぁ、賢者としてはこれも仕事である。
「本日はお越しいただきありがとうございます。若い魔術師たちの刺激になればと思い、依頼させていただきました」
相変わらず長髪眼鏡のイケメンである。
「……はい。よろしく……お願いします」
「あなたは賢者です。堂々としていればいいのですよ」
「……はい」
「全員手を止めて聞きなさい!……今日は賢者、エステル・サビドゥリア様が直接指導してくださるせっかくの機会です。全員、順番にみてもらうことにしました。わからいことは後でしっかり聞くように。いいですね!」
クラウス様の威厳ある声が訓練場全体に響き渡り、若手魔術師たちが一斉に動きを止める。
まぁ、大人数に注目されるのも慣れてきた。授与式、布告式、フリーデン高等学院の授業と経験し、私も成長しているのだ。まぁ、そもそも私は緊張してパニックになるタイプのコミュ障ではないので、もともと注目されても何とも思わなかったけどね。
「では、まず、フレデリカ・シュプルーハーさん。一番熱心にサビドゥリア基礎術式を勉強していましたね。前へ出て成果を見せなさい」
「――ひぇっ!?わ、私ですかっ!?」
指名されたフレデリカさんはどこか落ち着きがなく、手足の動きが完全に不審人物みたいである。だが、どこか小動物のようでもあり、守ってあげたくなるようなそんな感じがする。エルナも私に対してこんな感じなのだろうか……
「……こっ、理の魔女様の前で私が実技!あわわ、どうしよう、恐れ多すぎます!私なんかが理の魔女様の素晴らしい術式を展開しようだなんて、万が一失敗したら万死に値するのではっ!無理です!」
あ、パニックになるキャラだ。フレデリカさん……大丈夫かな?
「フレデリカさん、落ち着きなさい」
呆れた様子のクラウス様が人差し指で眼鏡を上げる。ていうか、眼鏡上げるだけで絵になるよね。この人……
「ひゃいっ!申し訳ありません、団長!申し訳ありません、理の魔女様!」
フレデリカさんはものすごい勢いで深々と頭を下げる。
「……フレデリカさん?」
「……はいっ!ダメです団長!頭がこんがらがって術式が組み立てられません!……あわわっ、手元で不発の煙が出ちゃいました!ごめんなさい!うぅ、私が不発の存在です!私なんて存在の価値すらないダメダメな存在です!」
パニックになって意味不明なことまで言い出したね。
「ええっと、『近代基礎術式の欠点とサビドゥリア基礎術式』は何度も読み込みました!フリーデン高等学院の授業にも参加しました!嘘ではありません。本当なんです!」
あの時は学者以外にも魔術師団の人も来ていたけどその中にいたということか。確かに見覚えがあるようにもないようにも思える。まぁ、そんなことより、まずは落ち着いてもらわないとね。
私は右手で彼女の左手を、左手で彼女の右手を優しく掴む。
「――ひぇっ!?」
「まずは……深呼吸して……ください」
フレデリカさんはゆっくり深呼吸する。
「今から……私の……魔力を流します。……それを感じ取って……ください」
「……はいっ!私が理の魔女様の魔力を!?」
「余計なことは……考えないで……私の……魔力にだけ……集中してください。では、流します……」
私はゆっくりとフレデリカさんの手に魔力を流す――
「……次は……フレデリカさんが……私に……魔力を……流してください」
「……はいっ!」
フレデリカさんは私に魔力をゆっくりと流す――
「では……ゆっくりで……いいので、術式を……構築して……ください。構築……できたら、……的に……放ってください」
私はフレデリカさんの手を放し、少し後ろに離れる。
「……はいっ!」
しばらくすると、フレデリカさんが的に向かって突き出した手の前に魔法陣が具現化される。そして、その美しい魔法陣から放たれた炎が的に命中し、的を中心に炎の渦が舞い上がる。
あ、『近代基礎術式の欠点とサビドゥリア基礎術式』にも書いてある火災旋風の仕組みを取り入れた炎と風の複合魔術だ。まぁ、魔術師団クラスなら普通に使えるレベルかな。
「……でっ、できました!」
「……はい。……魔法陣も……綺麗……でしたね」
「……はいっ!ありがとうございます、理の魔女様!」
フレデリカさんはものすごく嬉しそうだ。
「フレデリカさん、落ち着けばできるではありませんか。あなたも自信を持ちなさい」
え?「も」って何?「も」って。私に対する「も」かな?
「ひゃいっ!本当に申し訳ございませんでした、団長!そして……そしてありがとうございます、理の魔女様!一生理の魔女様について行きます!」
「……いや……フレデリカさんは……クラウス様に……ついて……行って……ください」
「あわわ、そうでした!申し訳ございません!」
次の魔術師以降は大きな問題もなく、順調に的に向かって魔術を放っていく。フレデリカさんが特別だったのだろう。
その後は、それぞれ個別の訓練に入り、私は順番にまわって指導というか、個々にアドバイスをした――
やはり、魔術師団の魔術師だけあって優秀である。フレデリカさんもパニックになったりするが、それでも今日見た魔術師の中では魔術においてはトップクラスだ。
そして、若手の訓練は一旦終了となり、私の今日の役目も終了となる。
「エステル様、本日はありがとうございました。私は他の訓練もありますので、これで失礼しますが、またよろしくお願いします。では、失礼します」
「……はい。……お疲れ様……です」
「お疲れ様であります~!」
そう私に声をかけるのは一応護衛で付いてきたユーリアさんである。魔術師団の訓練なので、何かあれば魔術師団の人たちを頼ればいいと言ったのだが、「仕事でありますので」と言って同行することになったのだ。
「魔術師団の皆さんはすごかったのであります~」
「……そう……だね」
「魔術師団の訓練にも来ているとは、少しは賢者らしくなったようだな」
そう言いながら私たちのもとに歩み寄ってきたのはテオバルト殿下である。
「ルルアやリリアから聞いて様子を見に来たが、もう終わっていたか」
はい、嘘。私は気づいていたからね。途中から隠れて見ていたよね?
「……嘘。……途中から……見ていたの……気づいていた」
「ふっ、そうか。訓練中に余所見をしていたということだな?」
そう来るか。別に余所見はしてない。たまたま目に入っただけだから。なんなら私は殿下が人混みに紛れていてもすぐに見つけられる、って、違う。そういうことじゃない。
「まぁ、お前がクラウスや魔術師団の者たちに迷惑をかけていないか気になっただけだ」
この王子、またそういうことを……私を何だと思っているのかな?
という感じで、殿下と一緒に執務室に戻るのであった。で、本当に何しに来たのかな?この人。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけた場合はページ下の【★★★★★】やブックマークで応援していただけると執筆の励みになります!




