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13. 特別講師と現代魔術学

 ――フリーデン高等学院。

 始業式や入学式が終わり、いよいよ本格的な授業がスタートした校内はこれからの学校生活への期待を胸にピカピカの制服を身に纏う生徒や学校生活が日常と化した先輩たちが行き交う場所となっていた。

 私の担当は『現代魔術学』であり、まだ選択科目での位置づけだ。現状は試験的なものであり、本格的な導入ではないからである。そのため、1年生から3年生までの生徒の中でこの授業を受けたいと思った生徒が席に座っている。

 教壇や黒板を囲う様に半円に机が置かれた階段教室には思ったよりも多くの生徒、その後ろには立ち見の学者たちが並んでいる。座席数は240であり、そのほとんどが埋まっている状況だ。そんな中で瞳を輝かせているのはミリーであり、その隣にはエルナの姿もある。そして、赤鳳魔術師団の人もちらほらいるようだ。まぁ、そうなるよね。

 私は白いローブを着て、胸には星円梟の記章を付けている。賢者も正装をしなければならないのが、このフリーデン高等学院なのである。

「私は……エステル……サビドゥリア……です。常勤……ではありませんが、『現代魔術学』を……担当します。……よろしくお願いします」

「ステラお姉……先生!よろしくお願いしまーす!」

 相変わらずミリーはミリーだな。こんなに静かな空間で大きな声を出せる度胸は流石だね。

 というか、アニメとかだとここで、同世代である私を馬鹿にしたりするような生徒も出てくるのだが、ここの生徒はエリートたちということもあって、そのような発言をする生徒もいないようだ。まぁ、私は賢者だし、学者も後ろにいるからね。とはいえ、態度も悪い生徒もいない。まぁ、心の中でどう思っているかは知らないけど……

「……まずは、……現代魔術学が……どういうものか説明します。現代魔術学とは、……既に皆さんの……手元にある……『近代基礎術式の欠点とサビドゥリア基礎術式』……に書いてある……私が作った……基礎術式を使った……魔術のことです。……それ、重要なのが……サビドゥリア基礎術式……となりますが、これは……自然界の理を……組み込んだ……ものです。近代基礎術式……つまり、皆さんが……これまで使っていた……基礎術式は……自然現象を……生み出す……魔術にとっては……不完全なものであり、自然界の理を……組み込んで、それを……より緻密なものとしたのが……サビドゥリア基礎術式……であるため、魔力効率がよくなったり……効果が高くなったり……します。近代基礎術式……のどこが不完全なのか、どこに欠点があるか、……これを示しつつ、……じゃあ、自然界の理を組み込んで……どのような基礎術式を組めばいいか、それを……まとめたのがこの本であり、……これから皆さんが学ぶ内容です」

 ふぅ、疲れた。まずは最初の入りとしてはちゃんと説明できたのではないだろうか。

「はい!先生!」

 お、エルナが手を挙げている。まぁ、彼女は優等生って感じでもあるからね。

「……はい。エレオノーラさん……どうぞ」

「現代魔術についての概要はわかりましたわ。ですが、自然の理とはなんでしょうか?」

「……はい。……重要なのはそこですね。……この世界の自然界にはいろんな種類の目に見えない小さな粒が存在します。その粒が互いを刺激したり、組み合わさったりすることで、さまざまな現象を引き起こしています。そして、今、この空間にも、ここにある空気も、その粒で構成されています。それを私たちが吸うことで、私たちもこうして生きています」

 おい、ミリー。目に見えないって言ったよね?何で指眼鏡作って空気を見つめているのかな?でもかわいいから許すか。

 そして、ざわつく教室。学者たちはこれについては既に知っていることだとは思うが、生徒たちにとっては初めて聞く話だろう。

「例えば、皆さんにとって身近な火や炎がありますよね。魔術で火や炎を出せるからと言って、自然の理がなければ、それが燃え続けることなんてできません。術者がずっと魔術を使っていないと火や炎を保つことはできません。逆に蝋燭や暖炉の火、もっといえば火事などが起こるということは自然の理があるという証明にもなり、火や炎は小さな粒によって引き起こされる現象だと説明ができるわけです」

「確かに、魔術で火を起こした後、その火は勝手に燃え上がったり、燃え移ったりするわけで、そこには何かしらの仕組みがあり、それが小さな粒ということですね」

 最前列の優秀そうな眼鏡をかけた男子生徒で、いかにも「勉強できます」みたいな雰囲気がある。

「……たとえば薪を熱すると、まず目に見えない粒に変わります。これが空気中に含まれる物を燃やす特別な粒と激しく混ざり合い、抱き合うようにして一体化します。この一体化の衝撃で、薪が秘めていた力が一気に解き放たれ、熱と光に変わります。この現象が火です。その衝撃で熱せられた空気や煙の粒が、眩しく輝いて揺らめいているものが炎です。この熱がさらに次の薪を可燃性の粒に変え、反応が途切れなく続くことで、火は燃え続けます」

「激しく混ざり合い、抱き合うようにして一体化!?お姉様と私が!?」

 私も危機管理がなってなかったけど、そこに反応するのか?ミリーさん。

「あなたは何をおっしゃっていますの?授業中ですわよ?破廉恥ですわ!」

「先生!お姉様と私が激しく混ざり合い、抱き合うようにして一体化したらどんな現象が起こりますか?」

 おい、ミリーさんや。その質問はいろいろとアウトな気がする。ミリーには申し訳ないが、魔術を行使させてもらおう。私は静かに魔法陣を展開し、極限まで弱めた雷属性の魔術を発動する。

「――きゃ!痛っ!」

 その雷は彼女の手に命中する。と言っても静電気くらいの威力である。

「……授業中……です。そういう発言は……控えるように」

「そんなぁぁぁあぁぁぁ!お姉様、意地悪ですぅぅぅ!」

 生徒たちの笑い声が起きる。まぁ、ミリーが授業の空気を良くしているという捉え方もあるけれど……

「自業自得ですわ。これに懲りたら大人しくしていることですわね」

「……さて、授業に戻りますが、皆さんも粉挽き小屋を知っていますよね。そんな粉挽き小屋でも事故が起きてしまいます。粉塵爆発です。大きな小麦粉の塊に火をつけても、表面がじわじわ焦げるだけです。しかし、サラサラの小麦粉を空気中にフワッと撒き散らすと、粉の一粒一粒が完全に空気に包まれた状態になります。ここに小さな火種があると、宙に浮いたすべての粉が待っていましたとばかりに、一瞬で同時に激しく燃え上がります。このとき、数え切れないほどの粉から出た熱の力が、周りの空気をものすごい勢いで爆発的に膨らませて吹き飛ばします。これが粉塵爆発の仕組みです。魔術でもそういう魔術があります。『近代基礎術式の欠点とサビドゥリア基礎術式』にも書いています」

 前世の頃は定番と言えば定番の粉塵爆発についてだ。そういえば、私が見ていたアニメで『万象を無に帰す粉塵よ、天より降り注ぎ、終焉の舞を踊るが如く、光を遮り、集い舞え。我が望みは万象を灰燼に帰す力なり。万物を消し去る爆炎なり。無情の火よ、灯れ。エクリクシー・スコーニスっ!!!』という厨二感丸出しの詠唱があったなぁ。

 ちなみに粉塵爆発の中でコスパが良いのは構造もシンプルなアミルニウム粉ね。その場合は風魔術で粉を制御し、雷属性魔術をトリガーにするとかね。水を追加すれば二次爆発も引き起こせる。まぁ、水素ガスと酸素の水素爆発のほうが爆発系魔術としては楽だけどね。

「もちろん……例外はあるし、……私がまだ……解明できていない仕組みもあります。……でも、ほとんどの現象は……このように説明できます。今回は火や炎でしたが、……水も風も、砂や岩も、光も……仕組みがあります。この授業の目的は、……あくまでも、その仕組みを……学ぶことではなく、その仕組みを取り入れた……基礎術式を……覚え、それを使って、実際に……応用術式の組み方を学ぶ……というのが、この授業の……目的です。……理論は理解できなくても、……それを組み込んだ基礎術式を覚えれば……魔術に取り入れられます」

 まぁ、後々は仕組みを学ぶ授業も入ってきそうだけど、それはまだ先の話ですね。既に私が作った基礎術式があるので、彼らはそれを覚えて使えばいいだけです。

 というわけで、この『現代魔術学』はサビドゥリア基礎術式を覚えるだけでなく、もちろん実技もあるということだ。ただ覚えるだけでは意味がないからね。

「……もちろん、仕組みを教えて欲しい……という人には、個別で教えても……良いとは思っています。でも……難しい内容なので、……余裕がある人は……ということになりますね」

 その後は本格的に教科書である『近代基礎術式の欠点とサビドゥリア基礎術式』の内容に入っていき、授業は順調に進んでいった。まぁ、ミリーは不満そうな表情だったけどね。

 そして、授業が終わった後、ミリーにつかまったのは言うまでもないだろう。

 とにもかくにも、最初の授業を無事に終えることができたのであった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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