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10. 黒鳳騎士と白凰騎士

 ――お城の大食堂。

 城に来てしばらくは部屋で食事をしていたが、環境に慣れてきたこともあり、最近はルルアやリリアと一緒にこの場所で食事をすることも増えてきた。

 普段、仕事では顔を合わせない人たちの交流の場でもあるこの食堂では、強制ではないものの、騎士は騎士、魔術師は魔術師、文官は文官などで固まらないということが推奨されており、それぞれが毎回違う席で違う人と食事を楽しんでいる。

 臣下たちの交流を促し、全体の風通しを良くするという意味もあるのだろう。そして、仕事では顔を合わせない人たちの間で友情が生まれることもあれば、時には男女の出会いがあるのだ。

 それぞれの組織間での対立がまったく起きなくなるとは言い切れないが、少なくとも少しはその抑制になっていると言えるだろう。

「――でね、幼馴染のアデリッサちゃんとばったり合ってね、いろいろお話してたらね、遅くなってしまいました~!」

「姉様!また寄り道ですか!?いつになったらまともにおつかいができるようになるんですか?」

 まぁ、少し前は猫と遊んだとかで、メイド服が土だらけになっていたよね。まぁ、そこもルルアのかわいいところなのだが。

 今日は私の隣にリリア、正面にルルアが座っている。

「あの~、理の魔女様、前良いですかね?」

 私に声をかけてきたのは騎士のおじさんである。薄っすら無精ひげを生やしており、少しだらしない感じがするし、そこまで強そうには見えないが、優しそうな顔立ちである。声からして何かやる気なさそうな雰囲気が出ている。40代半ばくらいだろうか。

「理の魔女様!僭越ながら私はお隣に失礼致します!」

 こちらは若い女性の騎士さんだ。凛とした顔立ちで金色の髪を1つに結った、なんだろう、声も含めてザ・女騎士みたいな感じだ。喋り方も含め、真面目でお堅い感じがする。年齢は20代半ばくらいに見える。

「初めまして!私は白凰騎士団長アレクシア・トロイエと申します!理の魔女様とお食事をともにできるなど至極光栄でございます。私は――」

 若いと言えば若いが女性は結婚して騎士を引退することも多いので、この年齢でも騎士団長というのは頷ける。ただ、だからと言って実力がないわけではない。団長であればなおさらだ。彼女もかなりの実力者というわけだ。

「あ~、長い、長い」

 男性の騎士がアレクシアさんの言葉を遮る。まぁ、確かに長いけど。

「えーっと、俺はジークフリート・アデルマールだ。まぁ、一応、黒鳳騎士団長ね」

 黒鳳騎士団といえば、王や王子の身辺警護をしている騎士団であり、シュヴァルツェ・フェーニクスとも呼ばれている。一方で白凰騎士団はヴァイセ・フェーニンとも呼ばれ、女性だけの騎士であり、王妃や王女の身辺警護を担当している騎士団だ。ということは、2人も騎士の中でエリートであり、団長ともなればその中でもトップである。私も見かけたことは何度もあるが話すのは初めてだ。

「ジークフリートさん、その無精ひげは何とかならないのですか!騎士たるもの容姿にも気を付けねばなりません!容姿や服装の乱れは心の乱れ!です!」

 まぁ、さっきから気になってはいるけど、そんなことを言う彼女は制服のボタンを掛け違えている。なので、最初から気づいていたが、彼女はいわゆる真面目系残念キャラなのだろう。

 騎士も常に鎧を着ているわけではない。警護などの仕事中は鎧だが、書類仕事などの鎧を必要となしない仕事もあるため、制服の時もあるのだ。ただ、城に制服の騎士しかいなければ防犯上問題なので、それぞれの騎士団内で鎧組と制服組に分ける、シフト制で上手く回すといった工夫をしている。

「ほぉう、そうか。なら、自分の姿を鏡で見てみるといいさ」

「あ!本当だ~!あははは!ボタン掛け違ってるよ~!」

 気付いていても何も言えない私も私だが、今まで気づかなかったルルアもルルアである。そして、それを少しも悪気がない笑顔で言えるルルアはすごい。

「姉様!そのような態度は失礼です!」

「ちちっ、違う!こっ、これは戦時における異変察知能力を試していただけだ!いつ皆が気づくかずっと待っていたわけであって、断じて違う!」

「アレクシアちゃんさ~、何それ?さすがに苦しい言い訳だよね」

 ジークフリートさんは完全に面白がっている。

「容姿や服装の乱れは心の乱れ、だっけ?おじさんの無精ひげにはいろいろ言うくせに自分は言い訳なんて良くないんじゃない?」

「……くっ。しかし!普段からだらしないあなたに言われたくはありません!」

「いや~、まだ折れないか~」

「そもそも団長ともあろう人がいつも気怠そうに仕事していいと思っているのですか!?」

 アレクシアさんはあれだな。照れ隠しがヒートアップするパターンの人だな。そして、ものすごい勢いで料理食べながら怒っている。

「まぁ、俺はそういう人間だからね~。そもそも、おじさん、団長になりたくてなったわけじゃないのよ。おじさんね、適当に過ごしてたら、いつのまにか団長になってただけだしね」

 ジークフリートさんはジークフリートさんで飄々とした騎士である。

「あなたという人は!誇りはないのですか!」

 と言う彼女の口の横にはソースがついています。こういうキャラかわいいよね。

「アレクシアちゃんさ~」

「何ですか!?」

「口の横にソースついて、誇りとかいわれてもね~。おじさんには響かないかな~」

「……くっ。確かに天才肌で剣の腕は超一流と評価されているあなたには、どんなに私が努力しても勝てないですよ」

 あ、遂にアレクシアさんはダウンしたようです。まぁ、善戦したとは思う。ただ、勝者はジークフリートさんだね。というか、天才肌のジークフリートさんと努力で実力をつけたアレクシアさんという構図か。それにしてもいじけちゃったアレクシアさんもかわいい。

「おじさん、そんなことないと思うよ。アレクシアちゃんは俺が持っていないものも持っているわけだしね」

「……ありがとうございます」

 なんだかんだいい関係だよな、この2人。

「いや~、それにしても、理の魔女様も忙しいんじゃないですか?」

 ジークフリートさんのそんな問いかけに「まだ今のところは暇です」なんて言えない。まぁ、単に何を話していいかわからないながらも私に話を振ってくれただけだろうけど。

「……まぁ……そうですね」

「私たちと二度寝やお茶したり~、図書室でフロレンティーナ様とのんびりしたり~、テオバルト殿下とお話ししたり~、忙しいですよね、エステル様」

 いや、ルルア、悪気があって言っているわけではないのは知っているけど、言わせてほしい。嫌みか?それ。実はわざとそういうことを言っているわけではないよね。

「……でも……そろそろ……特別講師の……お仕事も……始まる。……それに……本を読むのは……研究のため」

「へぇ、何の研究ですか?とはいっても、俺は魔術のことはあまり知らないですけどね」

「……闇属性の……自然現象に……作用する……黒い粒を……探している」

「黒い粒ですか!調理場にあるのでは!?」

 アレクシアさん、真顔で大真面目にそんなことを言ってしまうなんて……

「アレクシア様、それは黒胡椒では?……エステル様が探しているのは目に見えない粒なのです」

 リリアがアレクシアさんをバッサリと切り捨てたね。

「へぇ、目に目ない粒ね~。探すと言っても簡単じゃあなさそうですね」

「……だから、それを含んだ……何かを燃やして……確認する。……それがあれば……黒い炎となるはず。……黒い炎で……燃えれば……黒い粒が……自然界に……存在することが……証明できる」

「なるほど、そのための何かを探している、というわけですね」

「……そう」

「え~っと、それなら、闇属性の黒い炎を操る魔物はどうですかね?ほら、ドラゴンは火炎袋を持っているっていうじゃないですか」

 そうだ。確かにその理屈は合っている。例えば魔物が黒い炎を吹くために体内に闇属性の原子をため込む、あるいは生成する臓器を持っていたとすれば、それを燃やせばいいということになる。

「まぁ、素人の感想ですけどね、あははは」

「……それ、いい!……今度、アルベルトさんに……聞いてみる」

「そうですか。お役に立てたのなら光栄です」

 こうして、闇属性の原子を見つけるための糸口が思いもよらぬ形で舞い込んできたのであった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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