9. 理の魔女と初仕事!?
昨夜はあれから疲れのせいで落ちしてしまい、朝はまたルルアの感触とリリアの声で起きて、3人で二度寝するという幸せな時間を過ごした。ただ、最近思うのはルルアとリリアの着せ替え人形になっている気はする。私が服に興味がないので任せているだけなのだが……
私の賢者就任は新聞などでも『ヴァルデスルーエの奇跡』とともに大々的に報じられているようだ。今朝、ルルアとリリアが新聞を持って来て私に見せてくれた。
そんなことより、大事なのは今である。ど、どど、どうしてこうなった!?
「――ですから、学者たちの間ではフリーデン高等学院でエステル様の新基礎術式を学ぶ教科を加え、学者たちも参加できるようにするべきだ、とそんな声が上がっているんですよ」
フランクさんは楽しそうでいいですね。これって私が特別講師って流れだよね。学術会議での発表も断った女だけど?私。
「とはいえ、もう始業式や入学式も近い。間に合うのか?」
そうだ、そうだ。テオバルト殿下のおっしゃる通り!間に合うのか?
「教材は学術会議にも提出したエステル様のあの資料を使う予定です。あれは良くまとめられていますからねぇ。何にせよ、出版に向けて動いていますので、それを急がせれば問題ないかと思います。えーっと、一番大きな教室の場合は半円の階段教室で座席数が240。それを生徒用とし、学者は立ち見で50から60人は入れるとしまして、ですから、最初は300冊程度あれば授業は可能では?」
おい。何だ?それ……聞いてないぞ。いや、まぁ良いんだけどね。出版するならもう少しいろいろ手直ししたかったよね。あ、でも、学術会議で認められた論文などは出版されるってそういえば聞いていたな。
この国は学問も重視されているので教育機関も整備されており、初等学院、中等学院、高等学院がある。
初等学院は7歳になる代から12歳になる代で一般常識などを学ぶ。義務化だが無償となっている。
中等学院は13歳になる代から15歳になる代。初等学院よりも少し高度な学問を学ぶ。義務ではないが万人に権利はあり、少しだけ学費がかかる。
高等学院は16歳になる代から18歳になる代。より専門性のある高度に学ぶ学校であり、義務ではなく、入試制度により、それに合格した者だけが通う権利を手にする。より有能な者だけが通える。基本高額だが、奨学金制度も導入している。少なくてもこの国には大学はないので、高等学院が大学の様なものである。科目も必須科目と選択科目があるようだ。
まぁ、だから私は本来、高等学院に通っている年齢なんだけどね。
ちなみに、高等学院の定員は3学年で720人と聞いている。フリーデン以外の大都市にも高等学院があるとはいえ、まぁ、狭き門だ。というか、王立フリーデン高等学院は中でトップの高等学院なので入学が決まっているエルナやミリーも一応エリートなのだ。エルナはわかるけど、ミリーはそうは見えないよね。
とにかくこの国は学問を重んじるだけあって、学問の分野での褒章だけでなく、教育機関も整備されているのだ。
「確かに300冊なら間に合いはするか。まぁ、講師もここで毎日暇そうにしている奴もいるからな」
いや、私の思う通りにしていいって言ったよね?自由にさせてくれるんじゃなかった?
「……なんだ?その顔は?学問を広めるのも賢者の仕事だろ」
え?私顔に出していたかな。ヴィルタロでは感情を表情に出さない子で有名で「気味の悪い人形」と呼ばれたこの私の表情を読み取るとは流石としか言いようがない。
「それにこの国の人々に受け入れられるように頑張るのではなかったか?」
「……でも、……上手くできるか……わからない」
「俺はお前が本気で嫌がることをさせるつもりはないが、この前フランクに話していたように、お前が教壇で楽しそうにいろいろ語っている未来しか俺には見えない。あの時、最初は意味の分からない言葉を並べていたが、フランクの反応を見て、すぐにわかりやすい言葉に置き換えた。それを知っているから、お前ならば問題ないと判断している」
テオバルト殿下、本当に私をしっかり見て、本当に私の言葉を聞いてくれているんだなと思う。
「……わかった」
「では、この方向で進めてもよろしいですか?」
「いいだろう。国王陛下も却下はしないだろう。エステルの新基礎術式を教えられる者を増やすのはこの国とってもいいことだ」
「では、フリーデン高等学院と出版業者に話を通しておきますね。……それでは、失礼」
フランクは楽しそうに部屋の外に出ていく。
じゃあ、私もそろそろ失礼して、自由に過ごそうかな。図書室に行くのもありだし、王立図書館に行くのもありか。ルルアとリリアとのんびりお菓子食べながらお茶するのもいいし、賢者の先輩たちに話聞きに行くのもいいな。
「おい。待て」
テオバルト殿下が部屋を出ようとする私を止める。
「……何?」
「お前、これからどうするつもりだ?」
どうするつもりとは?
「……何が?」
「褒賞金も出ただろ。屋敷を建てたり、既築で買ったりしないのか?まぁ、このまま城にいてくれてもいいけどな。城を出ていくと言うのならルルアやリリアを連れて行ってもいい。どっちにするか考えるんだな」
「……どうしよう」
「出ていくとすれば、まず土地や屋敷を探さなければならないな。見つかったら購入や手続きをして、ルルアやリリアだけだと大変だろうから他の使用人、料理人も雇う必要がある。もちろん賢者という身分を考えると警備も必要だ。賢者の格を落とさないために家具や美術品、庭園整備も重要だ。最終的にはお披露目の宴会も必要だろうな」
何それ、私にできるわけがないよね。そんな面倒なこと……
「あと、そうだな」
まだあるのか!
「エミーリアがおしかけてくるだろうな」
確かに。でも、何だろう。お城に残るほうに誘導している感じ。なんか素直に従うのも負けた気がする。いつもからかわれたり、困らせられたりしているので、ここは……
「……殿下は……どっちがいい?」
出ていけとも、お城に残れとも言えないだろう。こんなか弱い私を追い出したとなれば殿下はいろんな人に怒られるし、お城に残れといえば、殿下に頼まれたから私がそうしてあげている立場になる。これは、勝った!
「俺はお前にそばにいてもらいたいけどな」
なななっ、何?今そんなこと聞いてないでしょ。城に残るか、出ていくかの話じゃなかった?しかも真顔でそんな告白みたいなこと。これ完全に私の自爆だよね。
「……見てないと何をしでかすかわからない奴の野放しにするのはいろいろと心配だからな」
え?急に酷いことを言い出したね。まぁ、殿下はこういう人なのは知っているけどさ。認めるよ。私の完敗ですよ。
「で、どうするんだ?」
「……面倒だから……お城にいたい」
「ふっ、最初からそう言えば良かっただけだ」
この王子ぃ。満足げな表情を浮かべないでくれないかな?悔しいぃ。次は勝つ。
「俺も暇ではないが、何ならフリーデン高等学院にもついて行ってやろうか?」
貴様、私を何だと思っている。私は子どもではないぞ。
「……必要……ない」
こうして、今日も私は殿下に敗北するのであった。
違う。こうして、私はフリーデン高等学院で特別講師をすることになったのだ。というか、生徒って同世代だよね。なんか、同世代のほうがやりづらさはあるよね。
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