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8. 理の魔女と星降る夜のノクターン

 ――日が暮れた城と街を仕切る城門。

 本日のフィナーレは布告式である。その名の通り、国民、といっても主に王都の民向けではあるが、新たな賢者の誕生を伝えるためのものである。

 そのため、またローブに着替えての式になる。もちろん、左胸には記章も付ける。まぁ、今日は忙しいよね。

 私はまだ城門の内側で待機しているが、広場の喧騒が聞こえ、その熱気の様なものを既に感じている。ライブとか、コミケとかの開場前って感じかな?

「どうした?緊張でもしているのか?」

 いや、テオバルト殿下、その顔は絶対に心配はしてないでしょ。

「……してない。……ただ……どれくらい……人いるのかな?……って思って」

「まぁ、お前が賢者になることは王都の民にも伝えてある。今日は祝いの祭りもやっていたようだな。賢者の誕生は国民にとっても大きなイベントというわけだ。注目はされているぞ?」

「テオ?そうやってステラちゃんを緊張させようとするなんて男としてダメですわよ」

 エリーゼ王妃陛下である。でも、まぁ、そんなことで緊張しないけどね。

「まぁ、王都の民も楽しみにしているだけだ。取って食おうなどとしていないさ」

 こうやって気遣ってくれる国王陛下も優しいお父さんって感じでなんかいいよね。声も素敵なイケオジだし。

「――静粛に!」

 突然、ヴェルナー宰相の声が響き渡る。

 これも魔導具だろう。確か『風響盤』と言ったか。風の基礎術式で気流を作って、声を物理的に押し出しているのだ。ただ強い風を起こそうとして乱流が発生する欠点もある。声は風じゃなくて空気の粒の疎密波だから、気流を直線的に整える、まぁ、層流にするだけでノイズは消えるはずだ。

「これより布告式を始める!国王・王妃両陛下、そして、今日誕生した新しい賢者、理の魔女、エステル・サビドゥリア様のお出ましである。畏れ多くも御前である!片膝を突き、頭を垂れよ!」

 まぁ、「平伏せよ」とかじゃないのがこの国らしいよね。

 それはそうと、そんなヴェルナー宰相の言葉を合図に国王陛下、王妃陛下、私の順で城門の階段を上っていく。そして、見えてきた景色は街の明かりと人々で賑わっていただろう出店が並ぶ大通り、そして、そこで祭りを楽しんでいただろう大勢の人々が今は広場に集まり、膝を突き、頭を下げている。

 歩廊に上った私たちは魔導具のライトに照らされるのであった。

「皆!面を上げよ!……そして、楽にするが良い。我が愛すべき民たちよ。今日はそなたたちにとっても待ちわびた日であろう」

 国王陛下のその言葉で広場に集まった民が一斉に顔を上げて立ち上がる。

「本日誕生した賢者、理の魔女、エステル・サビドゥリアは、魔術、いや世界の理を解き、魔術学だけでなく、その他の分野でもこの国に利益をもたらしてくれるであろう。また、彼女は先のヴァルデスルーエ飛竜襲撃時にも大魔術をもってその危機を救ってくれた偉大な魔術師でもある。そのような新たな賢者の誕生をともに祝おうではないか!」

 国王陛下はそう言って両手を大きく広げる。すると、広場の人々が拍手し始めるのであった。

 しばらくしても鳴り止まぬ拍手に宰相が静寂を促す。

「続いて、賢者、エステル・サビドゥリア様のお言葉である」

 ついにこの時が来たか。まずは手短に事前に考えた台本通りに言えばいい。

「……初めまして。……私はエステル・サビドゥリア。……旧姓はサンフルーヴであり、……出身はフェテール王国。……母国で異端審問にかけられそうになり、……この国に亡命してきました。……まずは、……私を受け入れ、賢者と認めてくれた……国王陛下をはじめとする皆様に感謝を申し上げます。……そして、国民の皆様にも……受け入れてもらえるよう……頑張ります。私は喋るのは得意ではないので……今から魔術をお見せします。……気に入っていただけると……嬉しい」

 いや、全然だめだけどね。私にしては上手く言えたほうじゃない?

 とまぁ、私のそんな言葉を合図として、城の明かりと街の通りの明かりが落とされる。さすがに各家の明かりは落とせないが、私の計画に乗ってくれたいろんな人々が協力してくれたのである。強制ではないものの、各家の明かりを落とすよう協力要請もしてもらったおかげか、私の瞳に映る街の光景はポツポツと明かりがあるだけで、ほぼ暗闇に包まれている。

 まずはあれから行こうか。

 私は歩廊から胸壁の上を通過して少し広場の上空に出るような感じで魔法陣の階段を作る。魔法陣を斜め上に少しずつずらして重ねているのだ。実はこれ、上空に大きな魔法陣を展開する時に少しでも高いところに行くためという理由もあるんだよね。ただの演出ではありません。

 その魔法陣の階段を足場にして上っていく。

 青白く光る魔法陣は私の足の裏がつくと、水面のように穏やかに波打つ。光はエアリーボブの私の白銀の髪、白い肌、そして真新しい白いローブを青白く染める。ローブの金色の装飾が煌めき、胸の記章も光を反射する。

 最上段まで登った私は手のひらを天に掲げ、上空に別の大きな魔法陣を展開する。

「スターライトレイン……の攻撃性ないバージョン」

 私は天に掲げた手を振り下ろす。あ、だから、そんな名前じゃないんだけどね。

 魔法陣から放たれるのはあの時の様に五芒星、六芒星……様々な形と色の星が散りばめられた無数の光線が射出され、まるで星の雨のように降り注ぐ。だが、あの時とは違うただのイルミネーションであり、触れても暖かいと感じるくらいのものである。

 闇夜に包まれたフリーデンの城や街。上空に展開された魔法陣から降り注ぐのは光の柱と無数の星々。

 人々の歓声が上がるのが聞こえる。大人も子供も男性も女性も若い人もご老人も夜空を見上げている。恋人同士にとってはいい雰囲気になるんじゃない?むしろ、良い感じになれ!リア充たち。

 まさに星降りの夜。これは私がこの国に捧げる星降る夜のノクターンだ。

 しばらくして、私は魔法陣を消し、ゆっくりと魔法陣の階段を下りていく。その間もずっと拍手してくれる広場の人々。

 あ、あの時倒れたのは国境の樹海を彷徨った後で体力を失っていて、まともに食事もできなかった後だからという理由で今日は心配ありません。攻撃性もないぶん、あの時よりは消費魔力も少ないからね。

 私の基礎術式は今後戦争などに使われることもあるだろう。ノーベルやアインシュタインのように。そんなことはわかっている。それは学者の宿命だ。でも、少なくても私が直接使う魔術は誰かを傷付けるものではなく、誰かを楽しませたり、誰かを喜ばせるために使いたいと思う。

 ただし、この国を、この国の人たちを守ために自重はしない。まだ、この国に来て日は浅いけど、それでもこの国に大切な人たちができたからだ。私はその人たちを失いたくはない。そして、私は信じようと思うからだ。この国の人たちが残虐な行為をするような人たちではないと。

 だから、私は先輩の賢者たちとこの国の理を変えていく。それが理の魔女、エステル・サビドゥリアの仕事だからだ。

 城や街に明かりが戻って来る。私のショーはこれで終わりだ。

「見事な魔術であった。信じられないほど美しい。そして、どこか優しい。そんな魔術であった」

 歩廊に戻った私に国王陛下がそう声をかけてくれる。

「……ありがとう……ございます」

「本当に綺麗な魔術だったわよ?ステラちゃん。ほら、皆に手を振ってあげたらどうかしら?」

 私は王妃陛下に言われるがまま、広場の人たちに手を振る。そして、何故か上がる歓声。手を振っただけだぞ?私がアイドルだったらまだしも。

 そして、私たちは歩廊から階段を下りて城壁の下に戻るのであった。

「やはり見事だな」

 声をかけてくれたのはテオバルト殿下だ。

「だが、今日は倒れないのだな。部屋まで運んでやろうと思っていたのだが」

 こういうことを真顔で言う男の人どう思いますか?

「け……結構です」

「良くそんなことが言えるな。既に2回も俺が運んでやっているぞ?」

 確かに馬車の前で倒れた時とあの夜に星を降らせて倒れた時もテオバルト殿下が運んでくれたらしい。だから、迷惑はかけているけどね。そうやってからかって来るのはどうかと思う。

 それはそうと、こうして忙しかった1日がようやく終わるのでした。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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