1.我が道行きたいタイプでして
「そ……れは、また作れるのか?」
「形にするのに、半年以上かかりましたわ。それも、睡眠以外の時間を当てて、これです。今後、聖祈師の宿舎に戻り、通常業務もこなすとなると、その倍の時間はかかるかと思いますわ」
「通常業務を免除しても、難しいか」
「この半年間、聖祈師中央部に顔を出していなかったために仕事が溜まっています。これ以上引き伸ばしはできませんわ。友人に迷惑をかけたくありませんし、聖力維持装置をまた作ると言っても同じものが作れる自信はありません。余裕が無い中、無我夢中で作っておりましたのでメモなんかも取り損ねてしまって。もう一度最初からとなると、難しいですわ」
メモは取ってなかった。
魔道具作りは暇つぶし兼現実逃避のひとつで、部屋に閉じこもってできることがそれしかできなかった。
いつもならメモを取るけど、無我夢中に打ち込む作業から我に返ると、私の現在を取り巻く環境に嫌気がさしてしまったので、それも割愛していた。
まさか、やっとの思いで作り上げた基盤を壊されると思わなかったもの。
私の言わんとすることを汲み取った陛下が苦々しげに顔を顰めた。
「……そうか。コンラートはよくもやってくれたな。王家の顔に泥を塗った。面目丸潰れだ。フェアクロス公爵には、責任を取らせる」
責任って、どう取らせるつもりなのだろう。
勘当?さすがにそこまではできないかしら。
せいぜいコンラートの自宅謹慎くらい?
それか地方派遣とかかしらね。
コンラートは次男だ。
だから、私も積極的に社交をする必要はなかった。
私から陛下に出した婚約者の条件はひとつ。
社交をしなくてもいい相手。
つまり長男以外。ただそれだけ。
夜会なんて絶対行きたくないもの。
「陛下。ご用件は以上でしょうか?」
「いや、本題は別だ。リアライドお前はこの後、どうするつもりだ?」
やっぱりね。それが本題か。
予想していたので、驚きはない。
私の子供を誰より求めているのは、陛下だ。
宰相と、王太子殿下あたりもそうかしら?
私のこの能力は、ギフトによって底上げされたもの。このギフトが、子供に引き継がれるかは分からない。
だけど、やってみないことにはもっとわからない。
陛下は、お怒りだろう。コンラートに。
陛下は誰よりも、私の子供を望んでいたのだから。
「今回の件は、あの男との縁談を取りまとめたこちらにも非がある。リアライド。お前には詫びをせねばなるまい。……すまなかったな」
王が謝るなど、有り得ないことだ。
王は頭を下げてはならない。
だけど陛下は謝罪した。
それが、陛下の誠意なのだろう。
これは、臣下として、断れないわね。
「いいえ。恐縮ですわ、陛下。お気遣いいただきありがとうございます」
陛下の言う詫びってどんなものかしら。
次の婚約だったら嫌だな。
誰かに決められた相手と結婚、というのはもう勘弁だ。
それに、王太子殿下は二児の父よね?
第二王子も既婚者だ。第三王子は……
「リアライド。お前が良ければ私の息子、アルヴィンはどうだ?」
ええ?
アルヴィン第三王子殿下って、確か私の十二個下の十歳じゃない?やだー。
「お断りいたしますわ」
私に小児性愛はない。子供はなし。
十歳と結婚。うん、犯罪だ。
陛下も苦肉の策だったのだろう。
王太子殿下も第二王子も結婚してるものね。
「……………では、王太子の息子はどうだ?」
年齢一桁じゃないですか。アルヴィン王子より年下。私をなんだと思ってる。
「お断りです。年齢が離れすぎておりますわ。それに、次の伴侶は私が見つけます」
おや?という顔で陛下が私を見る。
違いますよ。
「結婚したい相手がおるのか?」
「想い人、という意味なら違います。ですが、適切者なら見つかります。見つけます。私の希望は、社交をしなくていい相手。そして同い年か年上、ですわ」
年齢に希望を加えたのは、一回りも二回りも下の相手をあてがわれないようにするためだ。あと、欲を言うなら不誠実な相手は嫌。
コンラートで懲りた。
私が相手を決められるのであれば、条件のいい相手を私が探します。
「ふむ……。それはいつまでに?一ヶ月もあればよいか」
一ヶ月か、短いわね。
だけど陛下の本心ではない。
これは交渉だ。
最初に無理な要望を出して、本来の希望を呑ませる。
この分だと、狙いは二、三ヶ月?
まあ私もそんなに長く時間をかけるつもりはない。こういうのは期限を決めてパッパと決めた方がいい。
「三ヶ月で決めます。その間は自由にさせてくださいませ」
「仕方ない、三ヶ月待とう。リアライド。お前は我が国の宝だ。宝箱を持つお前もまた、我が国の宝である。お前が得たという聖なる加護、ギフト。それが子に受け継がれるかはわからん。だが、可能性があるのならそれに賭けたい。子爵家の令嬢としてではなく、聖祈師のリアライドに命じる。三ヶ月以内に相手をみつけ、半年以内に結婚せよ」
つまり婚約期間は二ヶ月。
異例の短さだけど、許可するということなのだろう。乱暴極まりないし、前世の常識ならアウト。
だけどここは異世界。オロラド国。
子爵家の娘として生まれた以上、貴族としての自覚はある。お母様とお父様への恩もある。
貴族に生まれたものとして、陛下への忠誠心も少なからずある……つもり。
陛下の気持ちもわかる。
王家にとって、私は手放せない切り札だ。
オロラド国の東南に位置する軍事国家、ロア国。
ロア国は、ケイラド国が瘴気に蝕まれ、滅んだことから、守りを固めるようになった。軍事力を伸ばし、今はオロラド国を手に入れて、ケイラド国から流れる瘴気のバリケード代わりにしようと画策している。
オロラド国とロア国は、定期的に小競り合いが国境付近で起きて、予断を許さない状況だ。
つまり、オロラド国は、北西ケイラド国から流れる瘴気。東南ロア国の武力攻撃をそれぞれ警戒しなければならない。
難しい時期だ。
だからこそ、陛下は私に早く子を産んで欲しいのだと思う。
聖祈師宿舎に向かう途中、顔見知りが前方から歩いてきた。
キリアン・ルア・グレイフォード。
グレイフォード公爵家の息子だけど、聖祈師になるために家を出た変わり者だ。若き天才。
なんちゃってチートの私とは違い、本物の天才である。
とはいえ、だいたい中央部官室に篭っているのであまり顔を合わせることは無い。久しぶりに顔を見た。
向こうは私を探していたようで、こちらに気がつくと顔を上げた。
青い瞳に長い金髪。長髪は緩くまとめられている。
「ああ、良かった。きみを探してたんだ」
「久しぶりね、キリアン。私に用事だった?」
「ふたつ。ひとつめは、コンラート・フェアクロスがきみを訪ねてきた。追い返したが構わなかったか?彼から伝言を預かっている。『会って話したい』とのことだ」
「ごめんなさい、手間をかけさせたわね。会うつもりは無いし会う必要も無いから断ってくれて助かったわ」
会って何を話すというのかしら。
私に話はない。
「ふたつめの用事は、きみが作ったという魔道具を見せて欲しい。壊されたと聞いたが、残骸は残っているか?修復できないか試したい。魔法陣と魔法式が取り出せないかも確認したい」
さてはそっちが本命ね。




