6.アドバンテージ
そして、辿り着いた最奥。
そこには、見るからにこれがブツです!と言わんばかりの宝箱があった。
すごい、RPGみたい。
開けようとしたら魔物でした!みたいなことないわよね?怖いな。
恐る恐る開けると、宝箱の中には赤の天鵞絨が敷かれていた。
封印されたのって昔よね?
昔っていつのことだろう。
経年劣化してない。
そういう魔法かしら。
手触りがいい布の中に埋まるように置かれていたのは白い石。ドロップ型だ。
それは触れた途端、溶けて消えた。
「…………!?」
あわや呪いのアイテムかと思ったけど、呪われた装備のSEは聞こえない。
呪われても鳴らない仕様なのかもしれないけど。
そのまま遺跡を後にすると、大きな変化がふたつあった。
ひとつ、髪の色が変わっている。
なんか、すごい神々しい。
「リアライド……!その髪はどうした!?まさか……!」
偶然、騎士団の遠征から帰宅していたお兄様に出会い、すぐに見破られる。
そうです。遺跡行って、宝箱に入ってた石に触れたらこんな髪色になってしまいました。
私の今の髪は、銀髪に、毛先に向けてグラデーションカラーが七色に広がっている。
人外。すごい、見た目が人外。
尖った耳とか生えてそうな見た目になってしまった。
「り、り、リアライド……」
お父様は腰を抜かしていた。
そうです。なんか、魔力量と聖力量、飛躍的に上がりましたわ。
多分これがギフトの効果なんだろう。
それから一気に私は時のひととなった。
あの遺跡を踏破した変わり者令嬢。
それが、じきに【オロラド国の宝箱】になる。
私には前世の記憶がある。
日本人として生まれ育った。この国は魔力を動力にしているので、科学の発展は乏しい。
前世の科学技術は目覚しかった。
その知識を国に流すだけで私は天才扱いである。チート。
知識はギフトにも劣らないアドバンテージだった。
高水準の聖力と魔力を得た今、私にできないことはほとんどない。
スプリンクラーみたいなのできないかしら?
正教会に設置すれば簡単浄化できるのでは?
の思いつきを形にするだけの力を得た。
これはすごい。
誰かに話せば「ハッ子供の夢物語だ」と切り捨てられるような突拍子もないことだって、今の私ならできる。
レシピが分からなくても、代用品でなんとかそれっぽいもの作れるのと同じだ。
ファミレスのガーリックチキン食べたいな。なんか和風おろしでそれっぽいのできない?みたいな感じで魔道具を作っていく。これがなかなか楽しい。
小学生の時に作った【私が考えた最強カード!】を思い出させる。
☆
場所──聖祈師棟中央部署内、食堂。
当日中に荷物をまとめてフェアクロス邸を出た私は、以前寝泊まりしていた聖祈師棟宿舎に向かった。
そこに荷物を置いて、食堂に向かうと情報通の友人メイリンが足早に向かってきた。
「リアライド!今日はどうしたの?」
私が聖祈師棟に顔を出すのは珍しい。
結婚してから、私は引きこもりがちになった。
何せ、安易に部屋から出るといつラブシーンに遭遇するかわからなかったものね!
そのため、部屋でこもって魔道具を作り、その魔道具が形になるとそれを聖祈師棟中央部署に提出するというパターンを取っていた。
メイリンは、今日もその予定だろうと考えたのだ。
白金の髪をハーフアップにまとめた彼女は友人の贔屓目なしに見ても美しい。
「実は……」
私は、フードを深く被って説明する。
この見た目は本当にすごく目立つの。
エルフの女王様?みたいな見た目だもの。
魔術師と聖祈師は黒のローブを支給されている。
黒に、白銀の縁どりがされているのが聖祈師。聖祈師も魔術師も変わり者が多く、だいたい目深にフードを被っているので、私がそうしていても目立たない。
メイリンは、ローブは暑いし重いと嫌がっている。式典の時くらいしかメイリンはローブを着用しない。
「…………ということがあったの」
「それは大変だったわね……。今日飲みに行く?」
メイリンは首を傾げて、心配そうに私を見た。
その気遣いが嬉しい。最近、メイリンとも話せてなかった。
「行きたい……!けど、残念。お呼び出しがかかってるの。それに、今日は花祭りでしょ?クレストと約束があるのではない?」
クレストは、メイリンの彼氏だ。
メイリンは平民出身で、クレストとは幼馴染だという。
クレストは魔術師団所属だ。
そして今日は花祭り。
前世で言うバレンタインデーとホワイトデーを合体させたような日だ。
「そうだけど……でも、リアライドが心配だわ」
「大丈夫よ。ありがとう」
「本当に?リアライドは無理をするでしょ?心配なの。本当よ?」
力説してくるメイリンに、私はふたたび笑った。
心配してくれる優しい友達がいて、私は幸せだわ。
呼び出しがあるというのは本当。
私を呼び出したのはオロラド国の国王陛下。国王陛下肝いりの縁談だったのにこの有様だ。
報告のために呼び出されたのだろう。
仕事を終えて、登城する。
謁見の間に向かうと、顔見知りの近衛騎士が扉を開けてくれた。
ちょうど、時間ピッタリだったみたい。
謁見の間には、国王陛下、王太子殿下、宰相の三人が控えていた。
礼をとると、すぐに許可が出る。
「楽にせよ。リアライド。コンラート・フェアクロスと離縁するとは事実か?」
「はい」
「何があった?」
「何が……。そうですわね。私の作った魔道具コンラート様の恋人に壊されました。ですからもう、いい加減我慢の限界と思ったまでです。コンラート様とフェアクロス公爵閣下から報告は受けておられませんか?」
私の不遜な物言いは、今に始まったわけではない。
ただの子爵令嬢なら不敬でも、【オロラド国の宝箱】なら、許される。
私の肩書きは、貴族社会にとって垂涎の的だ。
謙りすぎたら、呑まれる。
流されるままに生きるのは嫌。
扱いずらいと思われるくらいがちょうどいい。
「あったが、要領を得ないのだ。フェアクロス公爵はまだ王都に到着していない。コンラートは……。何を言っているのかよく分からん。話にならない」
「コンラート様との離縁を希望するに至った理由は、先程の通りです。私は聖力維持装置……瘴気に侵されたケイラド国でも使える聖水供給機を作っていました。ですがそれを壊されたので、今はありませんわ。もし完成していたら、ケイラド国の調査をも可能にできたかもしれません」
つまり、ウォーターサーバー。
瘴気を祓う聖水。
それは、瘴気に蝕まれた土地を歩く場合、携帯必須。
だけど、時間経過とともに、聖水もまた、瘴気に蝕まれる。
食料の賞味期限同様に、使い物にならなくなるのだ。
だから私が考えたのは、ウォーターサーバー。
常に冷たい新鮮な水を供給できるように、時間経過で瘴気に蝕まれることなく使える聖水を利用できるような魔道具を開発途中だった。
これが完成していたら、ケイラド国の調査はずいぶん捗ったでしょうに。
陛下は目を見開いた。
まさか私がそんなものを作ろうとしていたとは思わなかったのでしょう。
前世の知識がなければ私も思いつかなかったわ。




