4.今後のこと
大多数の貴族の処分が決まり、落ち着いた頃、私は王太子殿下に誘いを受けた。
「オロラド国の聖祈師に復帰しないかい?」
「お断りしますわ。私はただの聖祈師でいたいですから。それに、今回の旅はバタバタでしたけど、結構楽しかったんですの。ですから、また旅に出ようと思います」
私の返答を王太子殿下は予想していたらしい。苦笑して「そっか」と答えた。
「だけど、各地を巡るなら気をつけた方がいい。きみの力はとても貴重だ。どこからか、きみがケイラド国の瘴気を祓ったという噂が流れていてね……」
「あ、それなら事実です」
多分。
答えると、これは予想外だったみたい。王太子殿下は目を見開き、ポカンとしてから「そういうことは先に言ってよ!!」と叫んだ。さてはこっちが素ね。というか、説明するタイミングがなかったのよ。
ケイラド国での話を一通り報告すると、王太子殿下は顔を青くして、最後の方は険しい表情で聞いていた。思うところがあったのだろう。
「ですが、方針は変えます。以前のように全くオロラド国に寄り付かない、ということはしません」
「城に顔を出すということ?」
「はい。ですが条件があります。ここに、リストがありますわ。今回の粛清で見逃された人物たちです。このひとたちにお咎めがないというのは、私は納得がいきません。ですから、この方たちにも何かしらの罰則、そうですわね。当主は退く、とか。そういった罰則がない限り、やはり私はオロラド国には関わらないと思います」
リストを見た王太子殿下は、苦笑した。
「これは……なかなか相手が難しいところだね。今回の件に関与していないとのらりくらり躱すたぬきばっかりだ」
「【オロラド国の宝箱】がオロラド国に戻る条件、ではいかがですか?」
つまり、私を免罪符にしてしまえばいい。
オロラド国の宝箱と自称するのはかなり気恥しいけれど、仕方ない。
私がリストにまとめた人物たちは、私がオロラド国にいた時、子供を早く産めと迫ったひとたちだった。多分、メイリンにも同じことを言っていた。何人かは裏付けも取れている。
私は、恨みは忘れない方なのである。
「きみは……男らしいな。ありがとう、分かった。これは有効活用させてもらう。きみの名前とともにね」
そうして、一週間以内に、リストに書かれている貴族の処分が決まった。その大半は、私が求めたように当主の引退、爵位継承。
そのほかは、謹慎だったり、一部の領地返還だったり。見せしめにしてはいい線いったのではないかしら。
私は、聖祈師本部にきていた。
襲撃を受けたというだけあって、壁が大破している。もはや玄関が玄関の役割を果たしていない。私は崩れたところから中に入り、昔私が住んでいた宿舎を目指した。
宿舎は、本部に比べると綺麗だった。
襲撃は、宿舎だけでこっちまでは来なかったのかな。
私が泊まっていた部屋も元のままだ。
そのまま室内を見ていれば、扉がノックされた。答えると、入ってきたのはキリアンだった。
「ここにいたんだ。リアライド、本部長がきみに会いたいと言ってるんだけど、どうする?」
「本部長?どうして?」
「本部を守る魔道具のほとんどが、壊されたかららしい。その相談みたいだよ。俺も呼ばれたけど……行ってない」
「そう。私は、どうしようかしら。キリアン、提案があるんだけど」
「何?」
首を傾げる彼に、私はポーチから丸めた紙を一枚取り出した。王太子殿下に取引を持ち掛けた時から、考えていた。ここにまた来るようになれば、必ず発生する問題事。それを先に潰すために、先手を打つ。
「私と結婚しない?」
尋ねると、キリアンはぽかんとした顔をした。
「誰と?」
「あなたと」
「俺?どうして?」
「断ってくれてもいいのよ。でも、あなたも多分今後同じ状況に置かれるのではないかしらと思って。私は、王太子殿下に取引をもちかけたわ。メイリン……聖祈師に、不愉快な話や要望を振ってきた貴族の粛清。王太子殿下はその取引を請け負い、その通りにしてくれた。だから、私は度々オロラド国に来ることになると思うの。本部長にも会おうと思うわ。オロラド国に留まるつもりは無いけど、定期的に足を運ぶつもりよ。それでも、今後絶対問題になってくる。私の結婚についてよ」
私の結婚、すなわち私の子供については、貴族だけに留まらず、おそらく国民も関心を持つ事柄に違いない。こればっかりは、放っておいてほしいと言っても感情の話だから仕方ない。王太子殿下は、私がなぜこの国を出たのかという発端を知っている。だからこそ、抑えようと努力してくれるだろうけど、私と貴族の間で板挟みになるのは目に見えている。
だから、その前に目を潰しておきたい。そう話すと、キリアンも納得がいったようだった。
「でも、その相手がどうして俺なんだ?」
気になるわよね、そこ。
「あなたとなら、家族になれると思ったから」
好きとか、恋とか、やっぱりまだ分からない。
だけど、キリアンとは家族になれると思う。
「あなたはどう?私のことなら気にせず、正直な気持ちを教えて」
とはいえ、恋人関係にない女に婚姻届を突き出されて結婚を望まれた状況で、NOとは言いにくいだろう。
「期限は一週間。その間に答えを」
だから期限を設けようと思ったのだけど、キリアンは私の言葉に被せるように答えてきた。
「しよう」
「…………結婚を?私が言うのもなんだけど、もっとちゃんと考えた方がいいと思う。一生に関わることだし」
私は以前の結婚が理由でオロラド国を出ることを選んだし。
「これでも、ちゃんと考えてる。……以前、きみには言ったと思うけど。俺は、結婚するなら好きな相手がいいんだ」
「ええ」
それは聞いた。だからこその、確認だった。
「それなのに、いいの?」
さらに尋ねると、キリアンは困った顔になった。え?




