4.それではごきげんよう
コンラートはモテそうな顔をしている。
綺麗な顔だ。だから相手に事欠かないだろう。
その彼がなぜ二十五歳まで婚約者も持たずにいたのかは分からない。
もしかしたらまだ遊びたかったのかしら。
彼の身辺調査は王家がやっているだろうから、隠し子とかは多分いない。
せめて、私が妊娠するまで我慢できなかったの?
本当はふたり産んだ方がいいのだろうけど、人数は指定されていないし、ひとりでもいいでしょう。
子供をひとり産んだらあとは互いに好きにすればいい。
それだけの話だったのに。
ゼフィラを囲うのも、それからにすればよかったのに。
コンラートとの初夜チャレンジは尽く失敗した。痛いし乱暴なので、その度に私がキレた。
最終的には何が悪いかわかってない様子のコンラートに私が折れるべきなのかとも考えた。
でもやっぱり痛いのは嫌。
そんな時にコンラートがゼフィラを連れてきたので、彼の相手をしなくて済んだことは良かったかもしれない。
ゼフィラは痛くないのかな?
相性とかもあるわよね。……相性。
寝衣を破かれるのが好き……?
まあ、好みは人それぞれよね。
貴族社会にありがちな、子供が産まれるまで愛人は持たない、という不可侵のルール。それを向こうが破ったのだから、私もこれ以上お行儀よくいなくてもいいでしょう。
☆
翌日、目を赤く充血させたコンラートが部屋にやってきた。
「……離縁しよう」
彼が手渡したのは既に記載された離縁届。
ちゃんと有責側にフェアクロスの記名をしてある。
「父上には、私から報告をする。正式に確定するまで待ってくれないか」
「構いませんわ。私も、サインいたします」
「ああ、うん」
覇気のない声でコンラートが言う。
「……僕は諦めてない」
ペンを持つ手が止まる。
え?嘘でしょ?
顔を上げると、そこには眉を下げたコンラートがいる。なんであなたがそんな顔をするの。ちょっとイラッとする。
「すまなかった、僕はきみの信頼を損ねてしまった。子供っぽい嫌がらせもした。だけどそれもひとえに、きみに僕を見て欲しかったゆえだ。わかって欲しい」
「わかって欲しい?傲慢ですね。本当にわかって欲しいと思うなら、口にすべきでは?それに言葉にされてもやってることがやってることなので、私の取る行動は変わってないと思いますわ。はい、サイン終わりました。控えはこちらでいただいても?」
一枚の紙をコンラートに、もう一枚は私が保管する。
「……待ってくれ」
まだあるの?往生際悪いわね。
紙をしっかり掴まれてるので無理に動かせない。最悪破れてしまう。
「ゼフィラは外に出す。もう女遊びもしない。それでもだめか……?」
「いい加減にしてくださらない?離縁する、というのは私の優しさです。全部捨てて国を出てもいいのですよ、私は」
「きみにそんなことはできない」
「できない?面白いことを仰るのね。私はオロラド国の宝箱と呼ばれてるのですよ?亡命を果たす実力はあると自負していますわ」
「そうじゃない。そうじゃなくて、きみは家族を見捨てられない」
「お母様もお父様もお兄様も分かってくださるわ」
何せ、私の家族だ。
亡命したと聞いても、苦々しく「ああ……やっぱり」くらいにしか思わないでしょう。
「それとも、私の家族に批判の目が向くのでは?という意図ですか?それならご安心を。まず矢面に立たされるのは間違いなくフェアクロス家ですので、その際はご自身の心配をなさった方がよろしくてよ」
「どうしたらいい。どうすればきみは、僕の妻に戻ってくれる?」
「過ぎたことは変えられません。それを私に聞くのも間違っているのではなくて?」
せめて自分で考えなさいよ。
どこまでいっても他力本願のひと。
「あなたがゼフィラと別れようが彼女と再婚しようが、もう私には関係のないことですわ」
好きにすればいい。
「私があなたに望むことはもう私に関わらないでということくらい。あなたと結婚してまだ一年も経っていませんが、その日々はとってもストレスでした。ご存知?私、この邸に来てから十キロ近く痩せたんですのよ」
何せ、食堂に行けばあんあん、サロンに行けばあんあん、ところ構わず愛し合うカップルがいたものだから。
魔道具作りに没頭できたのは良かったけど、気を使うのは繊細な心遣いを要求された。
愛し合うカップルの邪魔するとか、難易度が高い。
「それではごきげんよう。もう会わないことを願いますわ」




